第2話 職場 休日交渉前に
「ヤギさん さっき卸してもらったシャンパンの残り
冷蔵庫に入れときました。次は何をしたらいいですか?」
今日も今日とてアルバイト、僕が働いているアルバイト先は
barなのである。といっても、
昼はお食事処、夜にbarといった経営をしていて、
時間があればなるべくシフトを詰めて働いている。
なぜかって 人が少なくて忙しいから・・・
うちの店長もとい父さんの友達のヤギさんはあまり
人を雇いたがらない 理由を何度か聞いたことがあるが
頑なに答えてくれなかった。ちなみにヤギさんの本名は
市ヶ谷 矢継といって
やつぎの部分を省略してヤギなのである。
父さんが昔からヤギヤギ言ってたもんだから、
僕までヤギさんと呼んでいる。
ちなみに今はお食事処からbarに移行するための準備時間
兼休憩時間だったりする。
ただ今日は、夏本番へ向けての仕入れやら何やらあって
色々といそがしいのでお休みの交渉をする前に
業務開始となってしまった。barの仕入れだけでも大変なのに加えて
お食事処の仕入れまであって てんてこまい。
というわけで、現在はお酒の補充と
その他在庫の確認とに励んでいるのであ~る。
「ミントがそろそろ切れるから杠葉に
買ってくるよう言っといてくれ。」
「だったら、ライムの方は大丈夫なんですか?
消費はほとんどモヒート用のやつなんですよね?」
「なかったかもなぁ・・・」
「確認してなかったら追加するよう言っときますね。」
「頼むぞ~」
そして結局ライムも心もとなくなっていたので
追加分が必要となった次第である。
そんな訳で現在は近所にある
ヤギさんの自宅を訪れている。
テナントを借りるとき家の近くがいい
と奥さんに睨まれてしまったらしい、僕としてはありがたいばかりである。
勤め始めてもう1年弱 何度も来ていると慣れてしまった。
「ゆずちゃ~んいるか~い?」
勝手口を合鍵で開けてゆずちゃんを呼びに行く
ちなみに以前は玄関からインターホンを鳴らして入っていたが
一々出て行くのが面倒とのことで合鍵をいただいた。
以降 勝手口からお邪魔するようにしている。
あと、玄関から入らないのは人目に付かないようにという配慮だ
流石に近場なのにバーテン服から着替えるのも二度手間なわけで・・・
玄関から入っていたときは仕方ないと諦めていたが
鍵をいただたからには遠慮なく勝手口を使うようになった。
こういうとこも考えてくれてのことだと思う。
「ゆきねーちゃんなーにー?」
少し待つとゆずちゃんが二階から降りてくる。
「ゆきねーちゃんじゃない せめて
ゆきおにーちゃん って毎回いってるでしょう!」
この僕をねーちゃん呼びするちびっここそヤギさんの娘さんの
市ヶ谷 杠葉ことゆずちゃんである。どうでもいいことだが
初対面のときに僕のことを女だと思ったらしく、それからというもの
ずっと僕のことは『ゆきねーちゃん』と呼んでいる。
「ゆきねーちゃん はずーっとおねーちゃんなの
おにーちゃんなんてダメッ!」
「はい はい」
ちなみに、僕が男だという事を何度も説明したが
全く信じてくれないので このやりとりも 殆ど形骸化した
無意味なものとなっている。ここまでとなると
ある種のルーチンワーク『失礼 噛みました』みたいな・・・・・
「毎度毎度 見てて飽きないねー」
むむ、何奴!
「はぁ 綾香さん見てたんなら助けてくださいよ~。」
この 僕のことをからかってくる女性は市ヶ谷 綾香と言って
ヤギさんの奥方で市ヶ谷家最恐の存在である。かく言う 僕も
彼女には殆ど逆らえない。本当に恐ろしい人なのである。
「いやいや面白くってねー。」
笑いながら見てないで助けて下さいよ~
「もう、本当にやめてくださいよ~。」
心の底からの願いです。
「ふふふ、それよりも 何か頼まれものなんでしょう?」
うぅ、あっさりと躱されてしまった。
しかし、今の僕は仕事中である 職務を遂行せねば・・・
皆さん僕の扱い方をかなり心得てらっしゃるようで(無我の境地)
「はぁ、ゆずちゃん ライムとミント買ってきてくれないかな?」
「まっかせなさ~い」
やや心配な返事だがいつものことなので気にしない。
「頼んだよ」
さてと、そしたら
「綾香さんゆずちゃんに付いて行って下さい」
「あらま いつもはゆず 一人で行かせてるのに」
「綾香さんには 氷屋まで追加の注文書を届けてきてほしいんですよ」
ここで言っておくべきことがある。
うちの店が懇意にしている氷屋はいつもは電話注文なのだが、
今は注文が増える時期なので二代目が製氷で手が離せない状況となる。
したがって、毎年この頃は 直接 注文書を届けているらしい。
ちなみに初代のじい様は今年の四月に隠居して家でのんびりしているとか・・・・・・
「どの道、途中で寄り道するぐらいですよね?」
氷屋は今でも商店街の中に事務所があり
昼間だと製氷所の方に出払っていることが多いが、
夕方になると事務処理のために何人か戻ってくる、そこに届けてもらおうという訳だ。
「あら、氷は今のままで十分足りてるんじゃなかったの?」
「いや~、今年の夏は暑くなりそうなんで、
というわけで 注文書 届けてきてくださいね。」
「何でそんなことが分かるのぉ?」
「クラスメイトの助言ですよ 天気予報士の資格持ってる友達の・・・」
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
今年は空前絶後の暑さになるけぇ
気ぃつけとかんとお肌が焼けてしまうさかい、
ユキさんもきっちり日焼け止め塗っときぃ
お肌のケアは淑女の嗜みでっせ~(サムズアップ)
・・・・・・・・・ぼく おとこのこ おんなのこ ちゃうね
・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・
っと、いかんいかん変なこと思い出してもうたわ・・・・はっ!
「雪くんは一体どんな交友関係してるのかしら・・・?」
「これくらい 普通ですよ~」
たぶん きっと 普通!
「不思議な子ね~」
「子供扱いしないでくださいよ~」
むむっ、僕は高校生なんですよ!
「今年で中学生だったっけ?(笑)」
「高二ですっ!」
中学生だったら働けませんよぉ~だ。ぷんぷん(怒)
「ムキになっちゃって可愛い子ね~」
「はぁ~~~~~」
最近ため息が多いなぁ 誰か助けてぇ~
「じゃぁ 行ってくるね おねーちゃん」
うん、無邪気なちびっこはいいなぁ小学生かぁ でもね
おねーちゃんはやめてほしいんだけど・・・・・・・・まいいか。
「いってらっしゃ~い」
綾香さんとゆずちゃんを送り出す僕ここ僕の家じゃないんだけどなぁ。
「ちょっと他のものも買って来るからね」
「分かりました ヤギさんに伝えときますね」
「よろしくねー」
「おねがいしま~す」
綾香さんとゆずちゃん出かけて行った。
ところで綾香さん鍵かけてませんよ・・・・・・・・・・・・
ま、いっかどうせ買ってきたもの
お店の方に持ってくるからそのとき鍵渡せばいっか。
さてと、仕事場に戻りますか。