一緒に
四話目です。
頑張れ雪那!ラント!
「アトナ!私 雪那とラントを守って!」
雪那が叫ぶとアトナが小さく笑う。
「分かったわ ユキナ」
アトナはどこからか大きな刀を持つとニヤリと笑う。その瞬間アトナは無情にも刀を躊躇いなく振り下ろす。先程の優しい笑顔はなく狩人の目をしていた。
雪那とラントは急いで机の物陰に隠れる。
「ねぇラント 私と一緒に逃げない?」
アトナが大暴れしている横で雪那がラントに話しかける。ラントは揺れる黒い瞳を雪那に向ける。
「お前…一体何者だ」
「私にも何もわからない だけど逃げたいなら手を組まない?」
雪那は真っ白な肌を少し赤く染めて笑う。それを見たラントはバカらしくなったのか鼻で笑い真っ直ぐに雪那の目と合わせる。
「お前みたいなバカと一緒に居たらこっちまで馬鹿になりそうだ だけどそんなバカと馬鹿やった方が楽しいだろうな」
二人で顔を見合わせて笑うと雪那は立ち上がる。
「世界を創り動かす神よ私を加護して下さる神よ私の願いをお聞きください 神の恩恵に私の感謝と祈りを捧げます カヘルの御加護を与え給え」
雪那が唱えるとまた光の中から男が出てくる。カヘルと言われた男は自分の周りに蛇を連れどこか得意げな顔をしていた。
「カヘル 私とラントにあなたの御加護を与え給え」
「分かったよユキナ アンタ達が安全なところに行くまで守ってやるよ」
カヘルは手をパンと叩くと光のモヤを出し雪那達を包み込んだ。
「これでユキナ達は火で炙られようと大丈夫だ。早く裏口から出ろ!」
雪那達が裏口に向かって走り出すと同時にカヘルはアトナの所へ向かい兵士と交戦する。
雪那はラントに引っ張られながら走っていた。カヘルの加護に守られているせいか体力は比べ物にならないほど上がっていた。後から大きな声を上げながら迫ってくる兵士たちに追いつかれることはないだろうと雪那が思った瞬間目の前から武器を持った兵士が襲ってくる。雪那はラントに押された為何とか攻撃を避けた。しかしラントは雪那から離れて加護から出ていたため肩から出血していた。雪那は着ていたマントを外し兵士に投げつける。兵士が眩んだ一瞬でまた雪那とラントは走り出す。
「世界を創り動かす神よ 私を加護して下さる神よ 私の願いをお聞きください 神の恩恵に私の感謝と祈りを捧げます レーピオの御加護を与え給え」
雪那は全力で走りながら唱える。すると光の中からガタイのいい年のいった男が出てくる。
「レーピオ!ラントを治して!」
「こんな綺麗なお嬢様のお願い私めがお聞き入れましょう」
レーピオという名の老人がラントの肩の傷をゆっくりと撫でるとあっという間に治る。
「すっげえ…」
ラントは思わず賞賛の声を漏らす。治った傷を見ながら走っているといつの間にか裏口の扉にたどり着く。
「ユキナ もう出れるぞ」
ラントが後ろを振り返るとさっきまで居たユキナが消えていた。ラントが目を凝らすとレーピオが出現した場所位の所で雪那が倒れていた。ラントが雪那の名前を呼びながら駆けつけても雪那はピクリとも動かず地面に倒れていた。
「ユキナ!」
ラントがうつ伏せの雪那を起こすと雪那の顔は白と言うか真っ青になっていて体温が異常に下がっていた。レーピオは雪那の頬を触りながらラントに向き合う。
「少年ここで止まるのは得策ではない とりあえずお嬢様を連れてこの城から逃げるのだ その後どうにでもなる」
ラントは頷き雪那を抱えるとまた走り出す。扉を開けてずっと続いている森の中へ入る。しばらくの間走り続けると突然カヘルとアトナが飛び出してきた。ラントに抱えられた雪那をみてアトナは悲鳴に近い声を上げる。カヘルはその場に立ち止まり大きく手を叩いた。すると先程よりも大きな光のモヤがその場にいた全員を覆うようにドーム状になる。
「少年、お嬢様を下ろしなさい」
レーピオが指示を出すとラントは大人しく従う。地面に寝かされた雪那の心臓付近にレーピオが手を浮かす。
「お嬢様は初めて魔力を使えるようになったのに一気に使ったのだ 体がついていかなかったのだろう 少し休んで私の魔力を少し分ければ回復するはずだ」
レーピオの予想通り雪那の顔色はだんだんと元に戻っていく。雪那の白い肌をみてラントは思い出す。
「あの…ユキナは肌が弱いらしくて日に当たると肌が赤くなるらしいです 誰か羽織るものを持っていないでしょうか」
ラントがよそよそしく話すとアトナがクスリと笑って着ていたフードの付いたマントを雪那にかける。
それから五分ほど経つと雪那が小さく声を上げてゆっくりと目を開く。
「あれ……私……」
周りの状況が理解出来てないのか雪那はキョロキョロと周りを見渡す。
「…ラント…そこにいるのは誰?」
雪那はラントは分かるようだがさっき自分で呼び出した神々を全く覚えていなかった。それでも神々は怒ることもなく自己紹介を始めた。
「初めましてユキナ 私はアトナ 」
「ど どうも」
アトナは雪那の手を握る。
「俺はカヘル!」
「私めはレーピオと申します よろしくお願いしますお嬢様」
「お嬢様なんて…ユキナでいいです」
雪那は顔を赤くして下を向いた。
「…………でもなんであなた方はここに?」
雪那が未だに現状を理解出来ない様子を見てラントはため息をつく。
「今までのこと全部話してやる ただし長くなるぞ」
何とか逃げ切りましたが雪那の記憶があやふやです。
次回は「話そう お互いのこと」です。