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プロローグ 今の終わり 始まりの始め

獅子 羊 (しし ひつじ)です。




山本 雪那(やまもと ゆきな)の視界はいつも虚ろだ。


メガネなしではものがぼやけて見えない。おまけに他人よりも眩しさを感じやすく昼間の空を存分に見上げることも叶わない。


また肌は卵のように白く髪も白の絵の具を絞り出したのかように真っ白だ。

もちろん名前から分かるよう雪那は日本人だ。


そんな少し変わった見た目の雪那は体調面を考えるとなかなか外に出ることはない。しかし今日は珍しく運動の為に外を散歩しようと日が傾き始めた頃準備していた。夏が近づき長袖では暑くなってきたが雪那は日差しを避けるために厚めのパーカーを来てフードをずっぽりと被る。愛用のメガネを掛け玄関に立つ。


「お母さん行ってくるね」


雪那が玄関の扉を引くと雪那の母親がパタパタと走ってくる。


「雪那、雪那。今日日が強くて暑いんだって。大丈夫?ひとりで行ける?」


「大丈夫だよ。お母さん過保護すぎるよ」


「う〜ん、じゃあなんかあったらすぐに電話するなり、帰ってくるなりしてきなさいよ」


「分かった、行ってきます」


雪那の母親は周りと違う雪那をできるだけ自分で自分の道を選べるよう大切に育ててきた。


「あっつ…」


雪那は外に出ると思わず暑いと声を出す。普段よりも強く照りつける日の光を避けるようフードをより深く被る。そのままいつもの散歩コースを歩き出す。まず右に曲がって小さな商店街を通る。商店街の人は雪那を見るとチラチラと見ながら噂話を始める。


「あの子って…」


「ああ、山本さん家の子よ」


「確か目と髪の毛の色が変わってるのよ」


「だからあんなにフードを深く被ってるのね」


近所の好奇心の目を他所に雪那は同じペースで歩き続ける。商店街を抜け左に曲がってしばらく歩いたあともう一度左に曲がるといつもの河原にでる。その河原は雪那のお気に入りの場所であった。夕日が雪那の白い髪を照らし赤く染め真っ白な肌を薄紅色に染めてくれるこの河原が好きだった。ポケットに手を入れペースを落としながらゆっくりと歩く。


「太陽が出てる時に来てみたいな」


雪那は目を閉じて夕日を見つめる。

大きく息を吸って吐くと後から声がかけられた。


「お嬢さん、太陽が恋しいか?」


風邪を引いたようなガラガラの声で腰の曲がった老婆がニヤリと笑いながら雪那に話しかけた。


「別にそんなことは」


「そう言わさんな」


老婆はゴソゴソと紫のマントを捲りながら懐からネックレスを取り出す。


「これはな、太陽の破片を集めたものだ。


雪那は嫌な感じがして一歩後に下がる。背中は沈みかけた夕日によって紅く染まる。


「いや、私そういうのは…」


もう一歩下がろうとするが雪那の体はピクリとも動かなかった。その間にも老婆は上がらない足を引きずりながら雪那に近づく。夕日が少し動くと老婆と雪那の距離はほとんど空いていなかった。そして老婆は動かない雪那の手を掴みネックレスを渡す。


「きっといいことがあるよ」


老婆はそういうと隙間だらけの歯を見せ笑う。老婆がゆっくりと歩いてその場から立ち去るとやっと雪那の体は動き座り込んだ。心臓はありえないほど早く動き普段はかかない汗をかいていた。


「なんだったの」


雪那が発した言葉は誰にも拾われることなくただ赤い空に消えていった。




ポケットに突っ込んだ手の中に老婆に渡されたネックレスを握りしめて雪那は行きよりも早いスピードで歩いた。普段はあまり怒らない雪那も今日はイライラしていた。あのネックレスを渡されてから変なやつに追いかけられたりしたのだ。しかも何回も。流石に四回

目くらいになると雪那もキレ出した。ドスドスと歩道橋の階段を登っていると隣に住んでいる柏木さん家の蒼葉ちゃんに会った。


「あっ!雪那お姉ちゃん!」


蒼葉は珍しく雪那と仲が良い人間だ。雪那を見ると蒼葉が駆け寄ってくる。雪那も小さな蒼葉を見ると癒されたのかニッコリと笑って一緒に手を繋いで帰ることになった。


「お姉ちゃん、今日も散歩してたの?」


「そうなの。蒼葉ちゃんは学校の帰り?」


「うん!今日も楽しかったよ!」


楽しかった。その言葉が雪那の胸に刺さったが表情には出さずに良かったねと返す。蒼葉は雪那と会えて興奮したため階段を一段飛ばししながら歩道橋を下がった。その時蒼葉が階段を踏み外しずるりと落ちる。


「蒼葉ちゃん!」


雪那は悲鳴のような声で蒼葉の名前を呼んだ。雪那が蒼葉に向かって必死に手を伸ばすと蒼葉は雪那に負けないほど真白になっていた。覚悟を決めて雪那は階段から飛び降り蒼葉をキャッチする。そのままくるりと回り蒼葉を押し出し階段に戻す。


「お姉ちゃん!」


蒼葉の真っ黒な瞳が揺れながら叫ぶ。雪那の視界に映っていたのは今までまともに見なかった夕焼け空に浮かぶポケットから飛び出したさっきのネックレスだった。


--あぁ、あのネックレスはきっと呪いのネックレスなんだ。ついてないなぁ、私。






雪那は夕日の眩しさに目を閉じた瞬間地面に叩きつけられ引っ張られるような感覚を味わった。












次回 「たどり着いた世界には」です。


よろしくお願いします。

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