カラシニコフ祭り
山口多門様が主催する『架空戦記創作大会2018冬』のお題2参加作品です。
『カラシニコフ祭』。
それは、世界最高の自動小銃AK-47とその銃を設計した偉大なるカラシニコフ氏、そしてその才能を見出し設計の機会を与えた偉大なる同志書記長をたたえるイベントである。
その目的は、ソ連崩壊以来凋落著しいロシアの国威発揚を図る事、旧ソ連諸国およびソ連が軍事援助をして来た国々の友好と団結強化を図る事、そして、AK-47をはじめとするロシア発祥の武器の大規模商談会という色々と生臭いものであった。
しかし、イベントの大部分は、一般人観光客にも公開され、世界中で作られたAK-47とその派生銃の展示や試射会、AK-47の特長を生かした各種競技会なども開催され、世界一楽しめる軍事イベントとして大好評なのであった!。
特に国内では実銃を撃つ事が難しい日本人観光客には、本物の銃が好き放題撃てるとあって大好評であった!。
ミハイル・カラシニコフとスターリンの巨大な肖像画が掲げられたゲートを入ると、中央通路の両側に、歴代のAKー47系列銃がずらりと並べられた展示コーナーになっている。
その終わり近くには、再ライセンスを受けた現在の各国の生産メーカーが出店を出していて、すぐ近くに設けられた射撃場では各メーカーの銃の試射が出来るようになっている。
さて、ここまでが前座、この奥がいよいよ本イベント会場となる。
AK-47の、『分解整備と取り扱いの容易さ』、『高い信頼性』、『銃としての優秀さ』、『世界的な普及の多さ』の各長所ごとに、中央通路の両側にイベント会場が分かれて行く。
『分解整備と取り扱いの容易さ』コーナー。
今年のイベントの目玉は、AK-47の分解組み立て整備の容易さをアピールする『サルでも分解出来るAK-47!』と銘打った、訓練されたゴリラによるAK-47の分解組み立てショーだった。
直接ガラス越しにあるいは大画面のスクリーンに映し出された映像を観客が固唾を呑んで見守る中、訓練士にAK-47を渡されたゴリラが、てきぱきとそれを分解していく。完全に分解し終えた時、観客から怒涛の歓声と拍手が上がる!。
ゴリラが誇らしげに片手を上げ、訓練士がお辞儀をする。
そして、続けて今度はゴリラが分解したAK-47を組み立て始めると、更なる大歓声が上がるのであった!。
その次の会場では、AK-47の組み立て競争会が開かれている。
各国から集まった熟練者によるスペシャリストクラスでは、目隠しをした競技者が目にも留まらぬスピードで分解、組み立てを競う。
年少者クラスでは、紛争地域から招待されたぼろぼろの服をまとったあどけない子供や、主催者が用意した目を見張るような美少女や美少年が分解組み立てを行っている。
招待された少年たちはイベントが終わったあと、故国に多額の出演料を持ち帰る事になっている。それを通じて紛争地域に援助を行う、というふれこみだった。
世界各国から来た観光客が、ある者は興味深げに、ある者は複雑な表情で、ある者は嫌悪の表情でその様子を見ている。
そして、歓声を上げながら、その様子を動画に写しているのは、日本や中国、米などから来た観光客だ。
その次には、観光客相手の分解組み立て体験会場があり、日本でAK-47のモデルガンなどで腕を磨いたマニアから、銃に触るのが始めての初心者まで、それぞれのペースで分解組み立てを楽しんでいた。
さて、お隣の『高い信頼性』を展示するコーナーの目玉は、毎年恒例の『カラシニコフスロン』という競技の中継だ。
この競技は、高温多湿の熱帯の泥沼のジャングル、過酷な熱い砂漠、極寒のツンドラや深い雪の中といった条件を作った特設競技場を、24時間かけてAK-47で精密的や動的に対して射撃を行いながら回るという過酷な競技だった。
各国の特殊部隊員や、ゲリラなどの選手がその体力と技を競っている。
紛争地域から来て選手同士が殺し合いを始めそうな関係の選手も多いため、出場順や待機室の配分には細心の注意が払われていた。
巨大なスクリーンで、中継画面、録画画面、録画ダイジェストなどが流されている。
ちなみに、この大画面スクリーンは、日本の某競馬場が最新のスクリーンに替える時にあまった古いスクリーンを某政治家の口利きによって格安で譲り受けたものだという。
そんな息詰まる競技の次にあるのは、少々コミカルな『ここ掘れワンワン銃競争(日本語訳)』だった。
砂や泥の中に埋められたAK-47と弾丸を愛犬とペアになった選手が探して掘り出し、簡易な的を撃ってゴールするというパン食い競争のような競技だった。
息詰まる競技の後のお気楽な競技で、観客は会場に設けられた飲食コーナーで食べ物や飲み物を買って飲み食いしながら、のんびりと観戦していた。
その次にあるのは、ゾンビ退治ゲームを模したアトラクションで、ゾンビに占領された建物を、あちこちに隠されたAK-47の部品や弾薬を探し出してゾンビを退治しながら開放する、というもので、弾薬は空砲(命中判定は空砲に反応して光るレーザーポインター)であるものの、実戦さながらの緊張感が楽しめると、作られた10個の建物にはどれにも長蛇の列が出来ていた。
次の『銃としての優秀さ』を展示するコーナーでは、AK-47とその派生銃による実物射撃展示が一応のメインとなっていた。
これは、防弾チョッキや、防弾板、防弾ガラス、ゼラチン、色々な厚さの鉄板、車やはてはスクラップの戦闘機にスイカまでが並べられ、それをAK-47とその派生銃で撃つという趣向であった。
ここでは、観光客も頑丈な防弾版で仕切られたブースの中から、フルオートでAK-47系列銃を撃てるようになっている。
係員による実射撃演示の他に、超高速撮影や各種センサーによる映像なども大画面で流されている。
また、ロシア軍特殊部隊員による実弾を使った緊迫した色々なシチュエーションでの戦闘射撃演示も行われ、各所に仕掛けられたカメラによって撮影した映像を大画面のスクリーンで中継して、AK-47系列の銃の優秀さを遺憾なく示している。
その隣では、紛争地域から招待された少年兵達が、空砲を使って実戦に見立てた射撃演示をして、AK-47系列の銃の扱いやすさをアピールしている。
だが、実際に人(主に観光客)が最も鈴なりに集まっているのは、その次のコーナーだった。
そこでは、まるで妖精のように美しいロシアの誇る若き少女射撃選手がドラグノフを手に、流れるような動作で300m先の的のど真ん中を撃ちぬいて行く。色々な角度で設置されたカメラによって映し出されるファンタジーの世界から抜け出てきたようなその美しい映像に、少女が的を撃ち抜くたびに、大きな感嘆のため息が流れるのであった!。
(ドラグノフは、厳密にはAK-47系列の銃ではないが、構造に一部AK-47の流れを汲む要素があり、何よりも美しい少女に持たせた時の見てくれの良さのために、選ばれていた。)
さて、最後の『世界的な普及の多さ』を示すコーナーは、説明員等もたくさん配置されロシアの国威を発揚すべく力が入っていたものの、人の姿は閑散としていた。
大きな世界地図が張られ、AK-47系列の銃を軍が採用している国、AK-47系列の銃によって独立がなされた国などが事細かに表示され、そういった国のAK-47が描かれた国旗などもその独立の歴史とともに誇らしげに展示されている。
しかし、難しそうな顔をした一部の人間を除いて、ほとんどの観光客は、このコーナーを素通りして行くのだった。
そうして、メインイベント会場を抜けたあとには、お土産コーナーが賑わいを見せている。
その中でもひときわ人が集まっているのは、モデル撮影コーナーだ!。
主催者が用意した、たくましい兵士、精悍な特殊部隊員、キリッと引き締まった女性士官・・・、などなどのモデルたちが、各種のAK-47系列銃を順番に手にしてはポーズを取っている。
その賑わうモデル撮影コーナーの中でも人があふれんばかりなのは、今年から設けられた軍服を着た少年少女モデルのコーナーだ。
思わず息を呑むようなあどけなさと美しさを兼ね備えた美少女美少年が無骨な軍服を着て銃を手にポーズを取っている。
そのあまりの美しさに、ある者はぼう然と、あるものはうっとりと撮影するのすら忘れてその姿に見入っている。
当初は、日本円にして1万円程度でモデルとツーショットも取れる計画であったが、あまりの希望者の多さに、ツーショット撮影権は急遽オークションとなり、日本円にして100万円を越える値がついたのであった!。
販売コーナーではこれらのモデルの絵葉書やブロマイド、映像DVD、はてはこれらのモデルを基にした限定版高級着せ替え人形と、それ用の衣装セットともちろんAK-47系列銃の模型まで売られる有様であった!。
日本人観光客のお土産好きを反映して、それ専用のお土産コーナーが設けられている。
ロシアのAK-47銃メーカーによる高精度のモデルガンやエアソフトガン、AK-47をすっぱりと縦割りにした飾り物、使用不能化した部品、などなど。
一部平和団体等からの抗議も何のその!、AK-47のもたらした殺戮に悩んだというあの世のカラシニコフ氏の嘆きも何のその!、ロシアに大きな経済効果をもたらしつつ、『カラシニコフ祭』は続くのであった。
ちゃんちゃん!