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第八話 破壊! 爆破! 大団円!?

黒い獣はその気配を察し、校舎に逃げ込もうとする。


「そっちにいっちゃダメ〜〜」


 校舎にむかって遠慮のない銃撃。しかしその足はとまらない。

 制止できないとみるや、お嬢様は60ミリ対戦車バズーカ砲を取り出した。


「そ、それはっ!」


 黒大猫が向かって来ても冷静だったアルネヴが慌てた。

 対戦車バズーカ砲は、その名のとおり鉄壁の守りの戦車を攻撃するためのロケットランチャーだ。破壊力は銃や手榴弾の比ではない。

 周囲の空気をふるわせてロケット弾発射。

 黒い獣が逃げ込もうとしていた校舎の出入り口に着弾。

 扉はふっとび、壁面が崩れてがれきと化した。

 さらに追い打ちをかけるように続けざまの爆撃。


「校舎が……」


 額をおさえる執事。

 黒い獣はグルグルとうなり声をあげて空を見上げ、こいつが元凶か、といわんばかりにヘリに向かって方向転換した。


「そうそう、こっちにいらっしゃい♪」

 バズーカ砲を再び構えるアリスお嬢様に、ついにジャギュアのハンドルを握るアルネヴが動いた。

「ダイナさん、降りてくださいっ!」


 珍しい執事の大声に、キレキレだったダイナも我に返り、あたふたと助手席から転がり降りる。

 タイヤが鳴り、急発進。

 アルネヴは大猫に向かって突進していく。

 さすが執事、主を守るべく捨て身の攻撃かと思いきや、ヘリの真下にクルマをつけた執事は、上空にむけて言い放った。


「ストップです! お嬢様。

 これ以上ものを壊すと、旦那様のお怒りがっ……」


 銀髪の執事、どれだけ旦那様が恐ろしいのか。

 黒いオオネコは、目前に飛び込んで来たクルマか、ヘリコプター上のアリスを狙うか、迷いをみせ立ち止まる。


「アルネヴってば、ナイスタイミング♪」


 3丁のバズーカ砲をかかえてジャギュアの後部座席に飛び降りて来た。

 小柄で華奢な体躯からは想像できない身体能力だ。


「お嬢様おやめく……」


 執事の言葉を最後まで言わせず、バズーカ砲の一つを華奢な肩にかついで、黒オオネコにむけてぶっぱなす。

 ロケット弾はオオネコの足下に着弾。

 さらに次のバズーカ砲を構えて発射。

 装填のタイムロスなしに3発を立て続けに撃つ。

 黒い獣は退路を断たれ、足止めされ、最後は砲弾の爆風をうけふっとんだ。

 耳元でロケット弾を連射されたアルネヴはもはや言葉を失い、ひたすら耳を押さえていた。


「何か言った?」


 防音ヘッドセットを外したお嬢様が、きょとんとした顔を向ける。


「……いえ、別に」


 黒い獣はグラウンドに伏して、動く気配はない。


「これでぇ、一件落着! めでたし、めでたし」


 かわいくガッツポーズをとるアリス。


 外野席から拍手喝采が起こり、アイドルのコンサートばりの声援も飛び交った。


「今のをごらんいただけましたでしょうか。

 バズーカ砲ですっ!

 デンジャラス・アリスがバズーカ砲を、連射しました。

 砲身を変えての連射。

 どこの伝統花火師かという技あり連射で動きを封じて、とらえました。

 黒い獣は動きません。

 5、4、3、2、1、ゼロ!

 勝利です。完全制圧です」 


 ロリーナ、興奮し過ぎで実況アナウンスが変になっているが、誰も気がついていないようだ。

 ヘリは少し離れた穴の開いていない場所に着陸し、ジャックが操縦士とともに機内から降りて来た。


「今回は被害が少なめですね〜〜」

 ひょうひょうと、天気の話でもするような口調で周囲を見回し、まぶしそうに眼を細めた。


「でしょう?」

 ドヤ顔のお嬢様。


「バスに校舎が一棟、それにグラウンド、あとは馬一頭の治療費といったところですか」

 アルネヴは相変わらずの仏頂面ながら、それでも眉間の影がさほど深くはないあたり一応、安堵しているらしい。


「お父様これなら文句ないと思うけどぉ」


 グラウンドのフェンスの後ろでやりとりを見ていたダイナは、小市民の出る幕ではない、とつくづく思った。

 アリス・ラドウッグ嬢に仕えて数時間ほどだけれど、一週間ぐらい振り回されたような気がする。

 こんなので一年も勤め上げるなんて死んでも無理。

 っていうか勤め上げる前に死ぬ。

 違約金は手榴弾を投げるお手伝いをした分、危険手当ってことで値引きしてもらおう。


 ダイナは今度こそ絶対、執事に「辞める」と言うべく、アリスたちのいる方へと足を踏み出した。

 その目の端に、動くものがうつった。


 !


 もしかして。

 映画やドラマによくある展開のアレ?


 ダイナの読みは真夏の野外に一時間放置したカキ並にあたった。


 黒い獣がアタマを持ち上げて空を見上げていた。

 その視線の先、空には波紋が広がっている。

 波紋はどんどん広がり、その中央から水中から何かが出てくるように、ぬぅっと突き出してくるものがあった。

 巨大な、かぎ爪のようだ。

 さらにそれはかぎ爪のついた腕になり……、それに続くウロコに覆われた胴の一部が現れた。

 全体はサッカーグラウンドの半分以上はありそうだ。


「あああ、あれ、あれ、あれっ!?」


 ダイナの様子に気がつき、アリスお嬢様は黒い獣に走り寄った。

 手には無装填のバズーカ砲。けれどそれをかまえることなく、

「お友達を呼んじゃダメ!」 

 砲身をそいつのアタマにゴン、と打ち付けた。


 とんがった耳がへたっと下がり、びぎゃと気が抜けたような声。

 グリズリーサイズの巨大黒猫は、子猫のように大人しくなっていた。

 え? そんなのでいいの? という雰囲気がグラウンドの外野席に広がった。

 ともあれ、その頭上で、かぎ爪が逆回しのように波紋を描く空へ消えて行く。

 気がつけば太陽は沈みかけ、西の空が赤く染まりかけていた。


「まったくもぉ、やぁっとこれでおしまい」

 黒い巨大なアタマをぽふぽふと叩いて、

「お家にかえりなさい。ほら日が沈む前に」

 へたりこむ黒大猫のお尻をぐいぐい押す。


 獣はもうくってかかる元気もないのか、ちらっとお尻をおす少女をふりかえると、鼻先からもぐるように異世界へ消えて行った。


「ほとんどものは壊さなかったし、むしろ被害が大きくなるのを守ったんだから、お父様もロンドンに戻るのを許してくださるわよね」

 得意満面、美少女がドヤ顔で皆のところに戻って来た。


 ごごごごご。


 地鳴りがする。



 ごごごごごご。


 段々大きくなる。



 と……。


 次の瞬間ヘリコプターが消えた。  


 何が起こったのかと外野席の野次馬が騒然とする。

 出入り口付近に集まったアリス、アルネヴ、ジャック、ダイナも。

 見れば、ヘリが着陸していた大地が陥没し、穴を広げて行く。

 校舎もグラウンドに面したところから傾き、大穴に向かって崩れていった。


「そういえばこの町は元々鉱山で栄えて、地下が空洞になっているところが多いって」

 と観光ガイド本の記事を思い出したダイナ。


 一同、あ〜という表情。


 そんな中、

「あぁ、そういえば」

 ジャックが気の抜けた声をあげた。


「あのヘリの中、弾薬がいっぱいなんですよね。

 ビッグベンがふっとばせるぐらい……」


「!」


「逃げろっ!」

 誰ともない叫びに、散り散りに逃げる野次馬。


「やーん」


 グラウンドから飛び出て、向かいの湖に次々に飛び込むお嬢様&一行。

 ダイナも、もちろんその中に混じっている。

 ……その後、周囲は盛大な爆発音と閃光に包まれた。




「……こうしてミルバートン高校は跡形もなく崩壊。

 爆発の規模にかかわらず死者、重傷者はでなかったのが奇跡ともいえる出来事でした。

 さて、空のかぎ爪と黒い獣が消えたのと同時刻。

 スイス、ジュネーヴにあるハドロン衝突加速器施設の上空に、ミルバートン高校グラウンド上空に消えたものと同じものが出現しました。

 こちらの映像です」


 映像は夕暮れの空に、巨大なかぎ爪が現れるのを捉えていた。


「ほぼ同時刻、妖精やブラックドッグの姿がこの周辺にある研究施設の防犯カメラに映り始めましたのです」

 映像が切り替わり、施設の内外を飛び回る妖精や小鬼の姿が断片的に映し出される。


「この地域は研究施設の他は牧場であるという立地。

 人的なチェックは定期的にされてはいますが、それでも人々が異変に気がついたのは一日後のことです。

 その結果、最先端科学施設を中心にファンタジーな生き物達が溢れ出ることになりました。

 二週間を経た現在、この地域を中心に人的、建造物的な被害が拡大中です」


 映像は翼を広げたドラゴンが近隣の町の教会の尖塔にじゃれて破壊する様や、

黒い獣が与えたジュネーブブランド牛の被害や、小鬼たちが畑を荒らしている風景を映し出していた。


「こうした現象は、高エネルギー実験中になんらかの次元変換が起こったためと公式発表されており……」

 映像はスタジオに戻り、原稿を呼んでいたニュースキャスターの上半身が映し出された。


 テーブルにつく特別番組のキャスターは、二週間前アリスにスマホを蹴っ飛ばされて水没させられたロリーナだった。

 スクープ映像をものにして抜擢というわけらしい。


「やっぱりあのときのスーツとヘッドセットの色があってないわね。

 あそこだけ撮り直しして欲しい」

 アリスはリモコンスイッチをオフにしてテレビ鑑賞を終わりにした。


 黒カラス城の居間は、くつろぎのティータイムを迎えようとしていた。

「妖精というか変な生き物は、ミルバートンとジュネーブだけでなく、世界各国でも目撃が増えているみたいですよ。

 グーグルが妖魔出現マップを作ったそうです」


 アフタヌーンティーを用意する手を止めずに、ダイナが先ほどスマホでチェックした情報を伝える。

「ほんと〜〜♪ 行ってみたくなっちゃうわねぇ」

 とさっそくタブレット端末で検索してチェックするアリス。


「それにしてもお父様ったら、一ヶ月間、外出禁止なんてちょっと厳しすぎぃ。

 一歩も外に出ちゃ行けないなんて、むしろ世界の損失だと思うのよ。

 あの黒い猫ちゃんもドラゴンも、わたしならなんとか出来そうなのに」


「いっそのことペットになさったらいかがですか?」

 ダイナは本心半分、適当半分に答えながら、数人分の菓子をセットしていく。


 あの事件から二週間。

 何事もなければ、ちょっと天然なだけの美少女お嬢様。

 今回、危険手当も追加で貰ったダイナに辞める気は、すっかりなくなっていた。


「それ、いいアイディア!!

 アルネヴ、あと二週間大人しくしていて、その後、ジュネーブに半日行くだけなら館を離れたことにはならないわよねぇ?」


「お嬢様のお好きになさる方が、"まだ"被害は少ない筈ですから」

 アルネヴは諦めとも悟りとも見える表情で、アフタヌーンティーのテーブルを一瞥し、スマホで時間を確認する。

「4時00分00。時間通りですね」

 その銀縁メガネの下にクマが見えるのは、いまだミルバートン事件の被害の保障やらなにやら後始末を続けているためだろうか。


「お嬢様、ご用意が整いました」

 ダイナが一礼とともに案内する。

 金髪のお嬢様が優雅な仕草でテーブルに移動した。


「ともあれ、お茶をいただきましょう♪」


 銀髪の執事が華麗な手つきでカップに香り高いお茶を注ぎ、赤毛のメイドは、スタンドのミニタルトとサンドイッチを小皿にとって給仕する。


「ダイナもジュネーブに一緒に来てね」

「喜んでお供します。

 衝突加速器を一度見学したかったんです。 

 あの、その際、防弾チョッキを誂えていただいていいでしょうか?」

「かわいいのにするわねぇ♪」

「ありがとうございますっ♪」


 盛り上がる二人を前に、

「ダイナさんならお嬢様の抑止力になるかと思ったのですが……。

 促進力にだけにはならないでくださいね」


 アルネヴの眉間が、ひときわ険しくなる午後のティータイムだった。




これで完結。お読みいだだいて感謝の言葉しかありません。


作品冒頭にあった実験は、実際に行われているものです。

最新の学説では世界は13次元とか14次元とかとんでもない多次元であるとかで、そんな実験がもしかしたら世界の均衡を破り、他次元で存在していたものをこちらに召喚してこんなドタバタ騒ぎになってしまうかも。


というわけで。

…というわけでもないのですが。


本日、「魔物と契約する作法についての十ヶ条」なるファンタジー作品も同時更新しています。

イケメン(?)のやる気だけはある若い魔物と、魔物に捧げられるはずだった姫との逃避行。

もし、気が向きましたらそちらもご一読いただければ。


またのご縁を楽しみにしつつ。では♪ 


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