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第五話 執事アルネヴの憂鬱

 信じられない、とダイナは思った。


 町のあちらこちらに妖精や、魔物がいる。

 そして目の前で瞬く間に破壊されたバス。

 いろんな事一度に起こって、アタマ・ホエホエ状態で後部座席を見れば、金髪の美少女が散弾銃をぶんぶん振り回していた。


「アルネヴぅ、早くクルマをだして、あのコを追いかけなきゃ」

 運転席のヘッドレストをパンパン叩く。

「ヤクザ相手ならいざ知らず、人外相手に何ができるのです。

 いったん城に戻りましょう」

 アルネヴがエンジンをかけざま、城に向けてハンドルを切ろうとする。

 そのハンドルのど真ん中に、ばんと編み上げブーツが降って来た。

 耳をつんざくクラクションが鳴り響く。

 思わず執事がハンドルから手を離すと、ブーツも引っ込みクラクションはとまった。

「あのね、アルネヴがわたしの言う通りにしてくれれば、危ないことはひとつもないの」

 上からアリスがかがみ込み、銀髪の執事に言い聞かせる。

「今まで、そうだったでしょ?」

 さらさらの金髪をふれんばかりに顔を寄せ、ね? と小首をかしげる。

 唇をかんで沈黙するアルネヴ。


 どうして悩むの?

 ここで怪しいモノたちに囲まれているより、城に帰る方がゼッタイいいはず。いえ、逃げるべきっ!


 助手席からの声なきエールも届かず、執事は眉根をひそめ続ける。

 お嬢様と執事が沈黙の中で火花を散らすこと数秒。

 やがて大きな吐息がもれた。


「わかりました

 でも行き先がわかりません」

 自棄気味に肩をすくめる。

 お嬢様はすとんと後部座席に落ち着き、

「えっとね。ひとまずあっち〜」

 と北を指差した。

 そちらから、パトカーのサイレンや何かがぶつかると音、悲鳴などが聞こえてくる。

 ジャギュアは騒動の中心へとメインストリートを北に走ると、悲鳴を上げてこちらに向かって走って来る人々の群れに遭遇した。阿鼻叫喚とはこのことか。


 路上にバッグや靴などが散乱している。

 クラクションは鳴りっぱなし。

 獣が乗って凹んだクルマの中で呆然としている人もいる。

 そんな人々をからかうように漂う妖精と、転がった買い物袋をあさる小鬼たち。

 警官達が対応に追われているが、なにせ相手は妖精や小鬼。

 つかまえようとして、するりと空ににげられ、あるいは腕をかじられそうになりとパニック状態。

 ゴミ袋につかまえた小鬼をぶらさげ、うろうろしている強者もいる。


「あのコに追いつく間に、おやつーっ♪」

 状況にもかかわらず、アリスは上機嫌。

 ほんの1時間ほど前、数人前をたいらげた気配もみせずに、持って来たバスケットからカップケーキを取り出してほおばりはじめた。


 先に進むにつれ、妖精や小鬼ゴブリンの数が増え、中世の名残の残る町並みの中で、猫をからかい、店先の果物を食べ散らかし、ウサギほどのドラゴンのようなものが街路樹にぶらさがって遊んでいたり、緑色の小人が車道を行進しているのも見えたりと、遊園地もかくやという有様。


「このまま、このコたちがいるなら、ここで過ごす一年も楽しいかもぉ」

 状況を楽しんでいるお嬢様を尻目に、ダイナは執事にこっそり耳打ちした。

「あのっ、強引に城に帰ってしまうのはナシなんですか?」

「今までの経験上、お嬢様の邪魔をするほうが、被害が拡大するのです。

 不思議なことにお嬢様が好きなだけ暴れても、今のところ無関係な人間にケガをさせたことがないのです。

 ご本人いわく、『アリをふみつぶさずにお散歩するのと同じ♪』だそうで。

 銃をむちゃくちゃ撃ったり、手榴弾をポンポンなげて、ほんっとーに好き勝手に暴れまくっているように見えるのですがっ。ある意味天才、いえ超人です。

 その分、物的被害にはぜんっぜん、配慮してくださいませんがっ」


 途中まではお嬢様に聞こえないよう、小声だったアルネヴだが、途中からこみ上げるものがあったのか、むしろ後部に聞こえよがし。


「お嬢様をとめようとする方が危険。

 究極の選択ですよ。被害がより少ない方がどっちかってね。

 お嬢様を好き勝手させるほうが、人的被害がないだけましなんです。

 マシ、ってだけですけど」

 ははは、と乾いた笑い。


 メガネごしの目が全然笑っていない。


 執事の今までの苦労がうかがえた。

 おそるおそる後部座席を見れば、そんな執事の暴言が聞こえてなかった様子で、お嬢様は上品に、水筒からお茶をカップに注いで飲んでいる。


 そんな風景の中、先ほどのテレビクルーたちのミニバンを見つけた。

「あの人たち、ついてきっ、わっ!」

 ジャギュアが急ハンドルで何かをよけ、かかった横Gに振り返っていたダイナは舌を噛んだ。

 通り過ぎた路上には、人型のカエルに似た何かがうずくまっている。


「湖からあがって来たみたいねぇ。

 出てくるのが増えて来たし、段々大きくなるし、

 これはちょっと気合いいれなきゃ、ダメな事態かもぉ」


 アリスお嬢様はつぶやくようにそう言うと、

「ねぇ、アルネヴ。

 この間ヤクザさんたちが使っていた銃、使いやすかったから、ジャックにあれを急いで用意するよう言って。

 たしかAKB48とか……」

 極東のアイドルグループの名前を言う。


 執事は冷静に訂正した。

「AK47カラシニコフでございます。

 ですが、旦那様からはくれぐれも騒動を起こさないよう注意されたではありませんか」

「騒動はもう起こっているじゃない」

「起こっていてもお嬢様の出る幕ではありません。

 得体のしれないものは警察や教会に任せましょう」

「ほっとくともっと沢山、もっと大きなものが出てくるわよぉ」

「どうしてわかるのですか?」

「わかるというかぁ直感っていうかぁ、そういうもの♪」

「アタマ空洞的な口調は慎まれた方がよいかと。

 だから『不思議ちゃん』などと言われてしまうのです」

 アリスは無礼千万な忠告を一瞬口を尖らせただけでやり過ごした。

「ちっちゃい妖精とか小鬼とかは大したコトをしないと思うけど、あの大きな黒い大きなネコちゃんをなんとかしないと。

 この銃は散弾で、細かいタマが、近い距離にばらまかれるタイプでしょ。

 バンバン撃ちまくったら、わたし、どうなるか責任がもてない。だからAK47が必要なの。

 ついでに使えそうな道具があったら、ジャックに一緒に持ってくるようにって」

 こめかみを痙攣させながら、アルネヴは懐から取り出したスマホでどこかに指示をだした。

「あの」

 小声でそっと尋ねてみる。

「お嬢様って小柄で華奢なのに、銃なんて扱えるんですか?」  

「お嬢様の身体能力や認知能力は抜群。

 他者が使っているのを見るだけで、歴戦の勇者並みに武器を扱いこなします。

 突然変異の新人類か、もしくは産院で取り違えられた宇宙人かもしれません」

 表情の変わらない横顔からは英国流のジョークなのか、本気なのか読み取れない。

 どちらにしても、この先もっと恐ろしいことに巻き込まれそうな予感がした。

 予知能力者じゃなくても、この予感はきっとあたる!

 ダイナは意を決した。

 「あのっ、あのですね。もし今すぐメイドやめたい、と言った場合……」

 通話を終えた執事におそるおそる切り出した。

「マッカン氏から話がいっているはずです。あなたのかわした契約は一年契約。

 途中解約については違約金を請求します。

 お嬢様付きのメイドに今逃げられては困ります」

「い、違約金って?」

 執事はスマホを操作して、

「この金額、払えますか?」

と画面をダイナに向けた。

 目玉が裏返りそうな額がそこにあった。

「は、払えませんっ。払えるわけ、ないですっ!!」

 その時、アリスが銃をダイナに向けた。


 に、逃げるメイドは射殺ですか〜〜〜!?

読んで下さってありがとうございますっ!


↑これって誰にも読まれていなかったら妙な文句ですよね。

シュレディンガーの猫的というか、読まれた瞬間に成立する文章だなぁ。

……なんて書いていたらちょっと悲しくなりました。


ところで大型のネコ科肉食獣は、英語でビッグキャットなんです。大きな猫。

ライオンも虎も豹もみんなまとめてビッグキャット。

彼ら、キャットだけあって箱を見せると入っちゃうらしいです。そんな動画がありました。

なので、もしあなたがジャングルや草原でビッグキャットに出会ったら箱を見せると逃げきれるかも!?


さて、ビッグキャットといえば黒い野獣! いよいよお嬢様と野獣の決戦!





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