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第一話 ダイナ・マイト、アリスお嬢様にお仕えする

挿絵(By みてみん)

<illustrated by BUMP>


金髪碧眼の完璧美少女アリス・ラドウィッグは破壊令嬢(クラッシャーレディ)と呼ばれていた。

またの名を危険な(デンジャラス)アリス。 

彼女が一度動けば、周囲は壊れる。

完璧なまでに。



神の粒子と呼ばれるヒッグス粒子。

 確認されれば世界の成り立ちが解明できる、とも言われている。

 この粒子を見つけようと、実験を行っているところがある。

 スイスのジュネーブの国境付近にある、世界最大の加速器大型ハドロン衝突加速器だ。

 直径27キロメートル、山手線とほぼ同じ円周の施設では、過去に何度かのテストが行われていたが、この日はさらに出力をあげての実験が行われていた。

 実験開始後。

 その制御室で、モニター類がありえない数値をたたき出していた。

 ほんの2フェムト秒。

 予測されるよりはるかに大きな数値を打ち出し、エネルギーはどこかに吸い込まれるかのように消滅した。

 


 ハドロン衝突加速器の謎のエネルギー消失の続報はなし。

 他に面白そうなサイエンスニュースはなし、ね。

 社会面はヤクザが壊滅した事件の続報。

 ローカルニュースは妖精目撃事件か、この辺はどうでもいいかな。

 はー、わたしもはやく研究者になって世界の謎を解明したいのになぁ。

 調理室の扉の影でニュースサイトをチェックして、赤毛のメイドはため息をついた。

「ダイナさん?」

 調理人のチャンドラー夫人に声をかけられて、あわててスマホをエプロンのポケットにしまう。

 キッチンの台の上には、ケーキやお茶セットが数人分用意されていた。

「ひとりで大丈夫? ジャネットさんにも頼みましょうか?」

「い、いえっ、大丈夫です。すみません」

 先週からこの城に雇われている新人メイドのダイナは、少々おぼつかない手つきでサービスワゴンの上に用意された茶器やお菓子を移動させた。

 この名前で、くりくりの赤毛でも、生粋の日本人だ。

 舞戸まいとという苗字で、名前が大奈だいな

 欧米風に姓名を逆にすると、ダイナ・マイト。

 あだ名には事欠いたことがない。

 当然ダイナマイトと呼ばれるし、爆弾娘や赤いボンバー、くりくりダイナボンなんて呼ばれた事もある。

 気弱な性格もあって、小学校、中学、高校とイジられキャラ。

 それがイヤで、日本を飛び出し、英国の大学に留学した。

 英国では赤毛はさほど目立たず、名前はローマ字綴りだと「メイトゥ」と読めるので、自己紹介の折でもなければ、そうからかわれることはなかった。

 順調な学生生活だったけれど、途中生活費が尽きた。

 それで他国人でも雇ってもらえる身元引き受け人(スポンサーライセンス)つきのこの仕事に飛びついたのだ。

 勤め先はイングランド(英国)の北デボンの片隅にある森に覆われた丘の上の城。

 黒い石積みのこじんまりした城で、周囲からは黒カラス(ブラックレイブン)城と呼ばれている。

 内部は黒一色の外観ほど威圧的はない。 ほどほどの伝統と現代的な機能を兼ね備えた居心地のよいインテリアである。

 ビクトリア時代のものと思われる肖像画が壁面を飾るその居間へ、サービスワゴンを押してダイナがはいっていくと、

「あーん、たいくつぅ〜」

 アリス・ラドウィッグ嬢がソファの上で、だらしなくタブレット型PCを放り投げていた。

 小柄ながら均整のとれた身体に金髪碧眼。

 しかも超とか絶とか、スーパーとかメガとかつくレベルのスィートな美少女。

 これで世界的富豪の末娘なのだから、羨ましいを通り越して別次元の存在だ。

 面接の際、城の管理人であるマッカン氏が口ひげをなでつけながら、

「君、名前がいいねぇ、弾けてる!

 サイコーだ。

 爆発物は扱えるのか? 猛獣を飼った事は? 物には動じないタイプかな?

 運動神経はいい?

 お嬢様づきメイドには必須条件なのだよ」

 と言われたのが腑に落ちない。

 どんな凶暴なお嬢様かと思えば、おっとりしていて一年間お仕えするのも心配なさそう。

 ちなみに質問には、バスケをちょっとやっていて、凶暴なニワトリを飼った事があります、と口ごもりながら答えてみた。

 あとで凶暴なニワトリは猛獣ではなく猛禽だったかも?と思ったけど採用されたのだからよかったみたい。なんであんなことを聞かれたのかしらん。

 アフタヌーンティーの支度をするダイナを尻目に、アリスお嬢様がむっくりとソファの上に起き上がった。

「ねぇ、アルネヴ。本当にここに1年間もいなきゃいけないの?

 お父様のおっしゃることを、聞き間違えてないかしら?」

「間違いなく1年でございます。アリスお嬢様」

 20代後半、メガネの長身の執事のアルネヴ・ジール氏が、タブレット端末を脇に片付けながら慇懃に答えた。

 褐色の肌に銀髪、そしてヘイゼル色の瞳には銀縁メガネ。

 多くの民族がいりまじった容貌を黒い蝶ネクタイに黒いスーツといういかにもな執事服に押し込めていた。

 アリスお嬢様と執事がロンドンからこの屋敷に到着したのが、小一時間前のこと。

 期間限定で黒カラス城に滞在予定とのことで、ダイナはこの城のお嬢様づきメイドとして雇われたのだ。

「お父様ったら、娘の貴重な一年をもったいないと思われないのかしら?」

 文句タレな美少女が年代物のソファの上でひっくりかえって、すらっとした手足をばたつかせた。

「しょうがございません。

 アリスお嬢様がヤクザごと町をひとつ壊滅させたからでございます。

 お父上はあと少しで準男爵を授与されるところだったのに、と非常にご立腹でございます」

 聞こえてくる物騒な話題は何かの聞き間違いだろうと、ダイナは皿を並べ続けた。

 異国語な上にセレブの会話。ヤクザというのも壊滅というのも、別のコトをさすに違いない。

 それにしても茶菓子や軽食の量が数人分。

 まさかと思うけれど、おひとりでこれを召し上がるのかしらん?

 ゲストを招いてのお茶会という話は聞いていないし、ナイフやフォークなどのカトラリーは一人分だし……。

 執事が何も言わないところをみると、セッティングに間違いはないようなのだけれど。


 ――豪勢に並べるだけで、ちょっとつまんであとは残す、なんて贅沢なことをするのかも。たしかどこかのセレブがそんなダイエットをしていたってテレビで見た事がある。

 お嬢様は文句無しのセレブだもの。極東の貧乏学生には想像もつかない世界だわ、と感嘆する。

「……それは、だって、ヤクザさんたちがわたしのクルマに幅寄せするから、ちょっとバンパーをこづいて……まさかそこから銃を出すなんて思わないじゃない?」

 赤毛メイドの作業の手がとまる。

 幅寄せ? 銃?

「現在時刻、午後3時55分0秒。

 予定通り4時ジャストにお茶の用意が整いますね」

 銀髪の執事は、スマートフォンを取り出し茶葉の蒸れ上がる時間を確認。

 その表情からは何も読み取れない。

 やっぱり、聞き間違い……なのよね? という顔のダイナ。

 ナプキンの位置を少し直してからアルネヴはアリスに向き直り、

「……その状態でパンパーをこづくのは『ケンカを売っている』というものでございます。

 あちらが組を上げて人数に任せて来たとはいえ、お相手の銃を奪い乱射、手榴弾を奪い、乱投。あの町をしきっていた組は壊滅。ついでに町もボロボロ。

 町民に死傷者がなかったのは奇跡でした」

 ????

 エイガカナニカノハナシデスカ?

 それとも、新人メイドにドッキリ?

 ダイナの目は真実を求めてめまぐるしくさまよった。

 お嬢様も執事もお天気の話でもするようにくつろいでいるし、どこかにカメラを抱えた人がいるようにも見えない。

 まったくもって、何を話しているのかわからない。

「……ちゃんと『ヤクザさんたちだけ』狙っていたもの」

 クッションの間から、涼やかでかわいらしい声が弁解した。

 ダイナのカップを支える手が小さく震える。

 もしかして、さっき続報が出ていた事件……。

「ひとつ町をつぶしたからって、ヤクザさんたちも全滅させたのだし、少しぐらい多めに見ても……というか、褒められてもいいと思うのよ?」

「その前にデパートを破壊、ドーバー海峡の客船一隻沈没させたりもおありでしたからねぇ」

「デパートは目の前で万引きされたらしょうがないでしょう?

 客船はシージャックされそうになったわけだし……。

 ヤクザさんとの事件の時には、3面記事扱いで目立たなかったのに、なぜあんなにお怒りになるのかしらね」

 言い訳を羅列するお嬢様を、

「目立つ目立たないではございません。結果が結果ですから」

 と、銀髪の執事はばっさりと切り捨てた。

 瀟洒で大ぶりのテーブルの上に、3段からなるティースタンドが5つセットされ、それぞれにスコーンにジャム、キュウリのサンドイッチがセットして、出来たてのバターと黒すぐりのジャムが添えられている。

 赤毛の新人メイド・ダイナがこれら準備を終えると銀髪執事がひとつひとつを確認し、軽く顎をひいた。

 どうやら新人の仕事ぶりはギリギリ合格の様子。

 本日の茶器はイギリスの伝統ある磁器会社ウェッジウッドの品で、ターコイスブルーの地に白い浮き彫り風模様が入っている。

 その図柄はキティちゃん。お嬢様専用の特注品で世界に立った一つの茶器セットだとチャンドラー夫人から聞いた。

 執事は華麗な手つきでキティちゃんポットをさばき、香り高い紅茶が同じくキティちゃん柄のお揃いの茶器に注がれた。

 お嬢様は日本のポップなキャラクター、キティの大ファンなのだそうだ。

 ダイナが一礼して退出しようとすると、

「ミス・ダイナマイト?」

 涼やかな声が引き止めた。


ダイナマイト??????

そ、そ、それを言っちゃあ〜〜!

初投稿でドキドキしています。だってね「小説家になろう」です。「小説を書こう」とか「みんなに読んでもらおう」ではなく「小説家になろう」。

いきなり、目指しちゃうんです小説家を。

そういえば、昔誰かが言ってました。「家がつく職業は、趣味の延長線上にある」

なるほど、漫画家も、料理研究家も、画家も、噺家も、政治家も趣味の延長線上にある……。

……ええっ!? 


それはともあれ、次回はお嬢様のあ〜んな姿を公開!

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