少年とサンタクロース
夜、寝ていた健太少年は物音で目を覚ました。音のする方に目をやると、そこに赤い服の立派な白ひげを蓄えた、優しそうな老人が立っている。健太少年は、その老人がサンタクロースである事を一目で確信した。
「おじいさんはサンタさんでしょ?」
「おやおや、見られてしまったね。その通り、私はサンタクロースだよ。メリークリスマス」
「やったー!! サンタさんだ!!」
「君はお父さんやお母さんの言う事をよく聞いて良い子にしていたから、ご褒美におもちゃを持ってきたよ」
サンタクロースは大きめの布袋から、健太少年が以前から欲しがっていたラジコンカーを取り出し渡した。
「サンタさんありがとう!!」
健太少年は、サンタクロースから受け取ったプレゼントを嬉しそうに見つめていたが、そこでふと、抱いていた疑問を思い出し、サンタクロースにぶつけてみた。
「あのねサンタさん、うちには煙突がないけど、サンタさんはどうやって家に入ってきたの?」
健太少年の唐突な質問に、サンタクロースはどうしたものかと考えるが、この際、少年に真実を教える事にした。
「…本当は内緒だけど、健太君は良い子だから特別に教えてあげよう。私についておいで」
健太少年はサンタクロースに促されるまま後についていく。健太少年からすれば、欲しかったラジコンカーを貰えた事もそうだが、それ以上にサンタクロースに会えた事、そして、長く抱えていた疑問が解けるかもしれない、そんな嬉しさでいっぱいだった。やがて、洗面所へとやって来た二人。
「いいかい? 皆には秘密だからね…」
サンタクロースはそう言うと、突然サンタの身体が溶け始めた。着ている赤い服も、立派な白ひげも、背負っていた布袋までもが全てドロドロに溶けていく。例えるなら、それは何かのゲームで見たスライムの様だった。
目の前で起きている想像を越えた異常な光景に、
「うわぁ!! 気持ち悪い!!」
と、思わず悲鳴を上げた健太少年。一瞬、液状化したサンタクロースの動きが止まった気がしたが、サンタクロースはそのまま洗面台の排水口へと入っていき、姿を消した。
後に残された健太少年は、茫然自失で立ち尽くしていた。見てはいけないものを見た気がした。
どれ程の時間をそうしていただろうか…。我に返った健太少年のショックは大きかったが、寝て忘れようと自室に戻ると、先程、枕元に置いたはずのラジコンカーが消えていた。健太少年はその夜、
「『気持ち悪い』という言葉は人を傷つける、悪い子が使う言葉なんだ」
という事を学んだ。




