9.もうこのゲーム、僕には向いてないのかもな
5/13 戦闘シーン差し替えました。微妙な時は言ってもらえれば、もう少しパターンあります。
心臓の音がうるさい。耳元で聞こえているのかという位に、はっきりと聴こえる。緊張しているのだろうか。それとも、不安なのだろうか。
そんなことを考えていると、ナツたちの真上を何かが飛んでいくのが分かった。足もとには、ナツの身体よりも数倍大きい影が一瞬だけ見えた。影は、そのままナツたちの前方へ泳いでいく。そして、ナツたちから10メートルほど離れた所で 止まった。
ミーシャさんの言っていたとおり、赤い羽根に紫のくちばし。間違えない。今回の標的だ。
ナツたちは、影の正体をしっかりと確認して、お互いに合図を送った。準備オーケー。そういう合図だ。
「今だ!タク」
全員の合図を確認して、ナツが叫んだ。それと同時に、タクの目くらましの魔法が炸裂する。地上に降りようとしていた標的が、予想外の光に怯んで地上に落下した。
その瞬間、僕は走り始めた。ハツサの詠唱が、少し後ろで聴こえる。標的までの距離、約7メートル。
すると、「ヴァーダ!」とハツサが作戦通りに唱えた。すると、無数の水の玉が発生して、標的に向かって勢いよく飛んでいく。そこで、タクが、「止まれ!」と叫んだ。
僕に言っているに違いない。そう思いながらも、ナツは止まらなかった。なりふり構わずに敵に向かって走り続けた。もしかしたら、ハツサの魔法が自分に当たってしまうかもしれない。しかし、ナツはハツサの力を信じ、走り続けた。きっと上手くコントロールしてくれると信じて。
標的との距離、約5メートル。ハツサの放った魔法が、僕の横を一直線に飛んでいく。やっぱり、僕には当たらなかった。背中に刺さっている剣を、握り締める。真っ直ぐに敵のほうへと進む水の玉を追いかけるようにして、僕は走った。
あと3メートル。ハツサの魔法が標的の腹部に当たり、標的の悲痛な鳴き声が鼓膜を震わせた。僕も剣を抜き、走っていく勢いのままで敵へと突っ込む。ずっと運搬クエストや採取クエストをしていたからか、動きは良くなっているような気がする。身体が軽い。身体の扱いに慣れたという表現が正しいだろうか。
しっかりと踏み込んで、剣を振りかぶった。そして、全体重を預けるように振りかざした。
*
ナツの攻撃を受けて、標的がのけぞった。青紫の体液が、その頬にはねる。
「ヴァーダ!」と次はタクが、ハツサと同じ魔法を使う。すると、タクの周りにいくつもの水の玉が出来上がり、タクが杖を少し動かすと こちらに向かって飛んできた。
しかし、このままではナツに当たってしまう。ハツサの魔法によって生み出された水の玉は、直線的にだけ進んだ。同じ魔法を使ったということは、タクの魔法もこのまま飛んでくるに違いない。あの時はナツは真っ直ぐに走っていたから問題なかったが、今のナツは敵の攻撃を避けながら攻撃している。
避けなくてはと思ってはいるが、相手の攻撃が不規則なので、とてもタクの魔法を気にしている場合ではない。完全に終わった。そう思って、ナツは攻撃をやめた。握っていた剣が、地面に落ちる。不快な金属音も砂に吸収されて、ナツの耳には届かなかった。
空しい最期だ。ナツはそう思った。仲間の魔法が原因で死ぬだなんて。仲間の攻撃を避ければ、敵に殺される。敵の攻撃を避け続ければ、仲間の魔法に当たって死ぬ。なんて間抜けなんだ。前回の討伐クエスト以上の失態に違いない。
こんなに討伐クエストに失敗し続けるだなんて、もうこのゲーム 僕には向いてないのかもな。
因みに、作者はゲームを一作も全クリしたことない民です。ゲームって難しいよね