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NATSU:2045  作者:
8/31

8.適材適所って知ってるか?

 今回の依頼は、あまりにも事前に得られる情報が少ないということで、依頼主に 直接会って情報収集をすることにした。依頼主の住む村は、物静かな様子で レンガ造りの家々とたくさんの風車が印象的だ。


「あなたが依頼主の、ええっと……」


「ミーシャと言います。今回は引き受けてくださり、有難うございました」


 僕が 依頼主の名前を依頼書で確認する前に、依頼主のほうから名乗ってくれた。ミーシャさんというらしい。僕たちが依頼を受けたことに対しても、深々と頭を下げている。かなり礼儀正しい人だ。


「今回の依頼のことで、少しお尋ねしたいことが。お時間よろしいですか」という僕の言葉に、ミーシャさんは「勿論です」と答えた。そのまま家の中に通され、一人ずつお茶を出された。


「早速本題に入らせていただきますね。ミーシャさんは、この村の畑を荒らす鳥類の討伐を依頼されていますが、その鳥の名前は分かりますか?」


 僕の質問に、少し考えるような素振りを見せた後、ミーシャさんは 申し訳なさそうに首を横に振った。


「そうですか。では、何か特徴はありますか?」


 その様子を見ていたタクが、ミーシャさんにさらに質問する。こいつ、いつもはふざけているくせに、真面目に受け答えも出来るんだな……。


「ええ。確か、赤い羽根をしていて、くちばしが……そう、紫だったと思います」


 僕が タクの態度に感心していると、ミーシャさんは自分の記憶を必死に思い出すようにして 途切れ途切れに答えてくれた。それを聞いたタクが、「赤い羽根に紫のくちばし……プティーツィかな」と呟く。どうやら今回の標的の名前は、プティーツィと言うらしい。


「その鳥の現れる時間は分かりますか?いつも、どのくらいの時間に現れるかとか」と、ハツサがタクに代わって尋ねた。


「いつも、夕方くらいに現れていると思います」


 なるほど、夕方か。って、もうすぐじゃないか!?


 「おい、タク」と僕が声をかけるよりも先に、タクは準備を始めていた。僕たちも、焦って準備を始める。


 一番に家を飛び出したのは、タクだった。「お嬢さん。俺が必ず悪い鳥を退治してまいります。今夜の予定は、全てキャンセル。俺のために、空けておいて下さいね」と去り際に、ミーシャさんの手を握り、手の甲にキスをして 家を出て行く。ずるい……げふんげふん、いや 失礼だぞ、タク。


 僕とハツサも、タクに続いて家を出る。その時に、情報提供とお茶に対する礼を 忘れずに言っておいた。焦って出て行く僕たちに、「お気をつけて」と手を振るミーシャさんの姿が、微かに見えた。



「遅いぞ!」


 タクが、先に畑の方に行って待っていた。遅いぞって、お前が勝手に飛び出したんだろうが。しかし、タクに文句を言う前に、僕とハツサは周囲を見渡した。まだ、標的の姿が見えていない。気配も無いので、取り敢えずは問題なさそうだ。


 畑を見渡すと、完全に荒れ果てていて ほとんど作物も育っていない。安心して戦えそうではあるが、ここまで荒廃していると 同情の気持ちさえ湧いてくる。ミーシャさんの、あの深々と頭を下げる様子がよぎった。確かに、あの感謝の仕様も頷ける。


「それで、今回はどうする?」と、ハツサが僕たちに尋ねた。


 今回の標的は、プティーツィという鳥型のモンスターだとタクが言っていた。ということは、飛びたったり 着陸したりする時に、砂埃が舞って視界が悪くなることが予想される。かといって、飛んでいる鳥に攻撃するのは難しいだろう。


「一度地上に落として、その後は飛ばせないようにするのが現実的じゃないか?」


 僕の言葉に、二人が頷く。


「作戦は、基本的に前回のクエストと同じ流れでいこう。ハツサが目くらましの魔法をかけて、次にタクが火系統の魔法で攻撃。そこに僕が突っ込む」


 僕がそこまで言ったところで、タクが口を挟んだ。


「今回の攻撃は、前回と同じではダメだ。相手は火系統の魔法がきかない」


 なるほど、属性のようなものがあるということか。しかし、タクは水系統の魔法は習得していただろうか……?


「今回の相手は、水系統の魔法が有効だ。ただ、何においても天才的な才能を発揮する俺でも、水系統だけは正直あまり得意ではない。そこで、だ」


 やはり、タクは 水系統の魔法が得意ではないらしい。火系統の魔法が派手でいいんだとか言ってたな、確か。とはいえ、全く使えないと言うわけではないようだ。等級で行くと、火系統は中級まで、水系統は初級まで、ということだろう。


「そこで、ハツサと役割を交代したい。適材適所って知ってるか?今回はそれで行こう。確かハツサは水系統の魔法も使えたよな?」


 タクの問いに、ハツサが頷いた。


「でも、私 まだ初級までしか使えないよ?だから、タクが水系統の魔法を使うのと、威力の面では変わらないと思う……」


 確かに、ハツサの言うとおりだ。同じ初級ならば、誰が使っても同じ威力ではないのか。


「いや、ハツサ。ポイントは、お前のその杖だ。それは、水系統の魔法を僅かにだが 強める効果がある。だから、俺が魔法で攻撃するよりも、攻撃力としては高い。勿論、俺も目くらましの魔法を使った後は 水魔法で協力するし、他の得意な魔法で戦局を有利に出来るように工夫してみる」


 なるほど。今回、ハツサは回復以上に攻撃に重きを置くということらしい。


「じゃあ、タクが目くらましの魔法をかけて、ハツサが水系統の魔法で相手をさらに怯ませる。その隙に、僕が突っ込んで 攻撃。その後は、二人共 なるべく俺を避けて 魔法で攻撃してくれ」


 僕がそこまで言った時、何かの鳴き声が聴こえた。まだ遠い。しかし、間違えなく近づいてきている。


「来るぞ!」とタクが叫ぶ。


 僕は、背中に背負っている剣に手をかけた。引き抜く準備は万端だ。


 さあ、来い!僕は、このクエストで生まれ変わるんだ!!

次こそは、主人公くんも活躍してくれるでしょう。……でしょう……でしょう(エコー)

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