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NATSU:2045  作者:
6/31

6.初めてのクエストは、大抵計画通りにはいかないのが定石

一回データが消えた。正直半泣き。

5/13 戦闘シーン差し替えました。実験的に変えてみたけど、どうでしょう?

「その依頼書、少し見せてくれないか?」と言って、僕はタクから一枚の紙を見せてもらった。


 今回のクエストは、雑魚モンスターの討伐が主のようだ。最近 街までおりてきてイタズラをしていくゴブリンを討伐してほしい、という依頼だ。街近くの鉱山に住み着いているということなので、そこまで行ってほしいとも書いてあった。つまりは、殲滅してほしいということだろう。


 そこまで読んだ所で、僕はふと依頼書の右下に何か書いてあることに気がついた。なんでも、竜の住処も近くにあると言われているそうだ。なんてことだ。こんな豆粒のような字で書くだなんて、これは詐欺の広告か何かか!?あれか。一回開封したら、返品できませんっていうやつか。そして、有無を言わさず 振り込ませる手口だな!?


 これは、今回は別のクエストを受けようと 二人に言うべきだろうか。しかし、それをパーティーに進言することで、死亡フラグを立ててしまうのは 僕のよしとする所ではない。言葉は口に出すと本当になる、というのは案外外れていないと僕は思っている。だから、ここで、竜がでるんじゃないか などと言ってしまったが最後、本当に出てしまっては何の洒落にもならない。


 それにしても、こういう微妙なクエストに限って、報酬が良い。竜が出るかもしれないからだろうか。このクエストの報酬は、初心者用としては破格の金額だ。


 僕は、思い出したように自分の装備を確認した。役所で支給された制服に、安物の剣と盾。所持金額は残り300ロス。日本円にして30円。対して、このクエストの報酬は一人当たり20,000ロス。


 僕は、そっとタクに依頼書を返す。装備とクエスト報酬を確認した時点で、迷いは完全に消えていた。


「さあ、行こうか!」



 鉱山は、全体的に薄気味悪い雰囲気が漂っていた。しかし、幸いなことに道中に竜と遭遇することはなかったし、ゴブリンの巣も驚くほど簡単に見つけることができた。ナツは一先ず安堵した。標的であるゴブリンの数を確認してみても、さほど多くはない。数にして、五体ほどだ。


 軽い打ち合わせの末、最初にハツサが初級魔法である目くらましの魔法をかけることに決まった。その後、タクが中級魔法である烈火の魔法を放つ。それと同時に、ナツが突っ込んで生き残っているゴブリンを仕留める。計画通りに行くとは限らないものだが、計画通りに進めばスムーズに事が片付きそうな様子だ。


 準備はいいか?そうお互いに確認する。全員が頷いた時。その時こそが、攻撃開始の合図だ。3人は 互いに目を合わせ、そして頷いた。


 ハツサがそれを目視して、すうっと息を吸う。彼女も初心者だという話だったから、魔法を放つのに緊張しているのだろうか。一瞬の間が、場を支配した。


「イスクラ!」


 次の瞬間、ハツサの元気な声が空気を震わせた。それと同時に、眩い光が視界を覆う。かなり眩しい。巣から出てきていたゴブリンたちは、突然の光に怯えるように 二、三歩後退した。


「俺の出番が来たようだな。見よ、この素晴らしき魔法の力。そして、俺を尊敬しろ!」


続いて、タクが劣化の魔法でゴブリンを焼き払う作戦だ。しかし、こういう時でもタクは平常運転だから困る。タクの使う中級魔法は、初期魔法よりも少しだけ詠唱が長いというのに、のんびりしすぎだ。ナツは深くため息をついた。


「どうでもいいから、お前は仕事しろ!」


 ナツがそう言うと、タクはやれやれという顔をして、大きな声で詠唱した。


「全てを包み込め!オーガン・ブズルーブ!」


タクの唱えた言葉に反応するように突然火が発生して、五体のゴブリンを包み込み、爆発する。

 

 その爆発が収まる前に、ナツは飛び出した。爆風が頬を撫でる。煙の中で、視界が悪い。なんとか見える影に向かって、全力で走った。まだ微かに残っている火の熱が、皮膚に伝わる。


 標的の近くまで駆け寄ったナツは、背中に背負っていた剣を抜き、振りかぶった。


 完全に火が消え、煙も風に流されていた。視界は良好だ。最高の条件。クエストデビューとしては、華々しい活躍ではないか。


 ナツは、そのまま剣を振り下ろした。



 翌々日。僕は、ギルドメンバーで賑わう酒場へ再び訪れていた。


「いらっしゃい!」と、今日も変わらない笑顔で、店員であるミーナが迎えてくれる。ピンクの髪に、今日も同じグリーンのリボン。僕は、彼女に軽く挨拶をして、テーブルで談笑しているメンバーの中から タクのいるテーブルを見つけ出して、そこに近づいた。


「おう!ナツじゃねえか。一日ぶりか?このゲーム、ペナルティきつすぎだよな。24時間ログインできないだなんてさ」


 僕に気がついたタクが、僕の座る場所を作りながら声をかけてきた。


「……この前は、悪かったな」


 僕は素直に謝った。勿論、二日前のクエストのことに関して。


「気にすんなって!あの後、俺らだけでちゃんと討伐できたわけだし」と、タクが寛大な言葉をかけてくれる。


 結果から言うと、二日前に受けたゴブリン討伐のクエストだが、僕だけが死んでしまった。理由は単純かつ明快だ。ゴブリンを討伐することが出来なかった、それだけだ。


 あれだけの勢いで突っ込んでおきながら、結局僕は剣を振り下ろすことが出来なかった。ゴブリンが人型だったからだろうか。僕は、恐ろしさで剣を振るうことが出来なかったのだ。


 このゲームのモンスターは、想像以上に人間的だった。焼けただれた皮膚も、うめき声も、苦痛にゆがむ顔も、全てが人間のようであった。あのまま煙で視界が悪いままだったら、こんなものを見ることはなかったし、こんな事にもならなかったかもしれない。しかし、今となっては 後の祭りだ。


 後から現れたハツサにも、謝っておいた。すると、ハツサに「タイミングよく回復魔法をかけられなくて、ごめんなさい」と逆に謝罪されてしまった。女の子に謝らせるだなんて、全くもって、不甲斐ない話だ。



「タク、頼むから 今回僕がクエストを失敗したことは、誰にも言うなよ」と僕は、タクに念を押した。ここまで自分に実力がないと分かってしまっては、恥ずかしいの一言に尽きる。


「ああ。今後は言わねえよ。安心しな」とタクが笑った。


 僕は、寛大で信頼のおける友に対して、最大限の敬意を持って礼を言った。



 酒場には、時間が経つにつれて人が集まってきた。タクも用事があるからとログアウトしてしまったので、自棄になって 一人でたくさん飲んでいる最中、僕は隣のテーブルの話に耳を傾けてみることにした。


「おい、あいつ あんなに飲んで。どうしたんだ?」


「ああ。なんでも、初心者用のクエストに失敗したんだとか。加えて、死んだのは自分だけときた」


「そりゃあ、ああなるのも納得だな。そっとしといてやろう」


「ああ、会計は俺たちで持ってやろうぜ」



 翌日、タクを呼び出して 回し蹴りをお見舞いしたことは、言うまでもないだろう。


「お前に『言うな』って言われた後は、誰にも話してねえからな」と、蹴られたふくらはぎを擦りながら タクが言い訳をした。


 デスペナルティ……僕は、お前の存在を一生恨むことになるだろう。

デスペナ一回目。

推しキャラについての議論って、終わりのない不毛な戦いだよね。

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