5.ギルドメンバーが優しすぎる件について
初めてギルドに入った時、何をしていいのか分からないあるある。
ウォーリアの制服に着替えると、いよいよ冒険が始まるのだという気持ちが高まった。これからどうしようか。僕個人としては、少し実戦形式で今の力を試してみたい所だ。
「じゃあ、俺の所属しているギルドに行こうぜ」
僕の希望を聞き、タクがそう提案した。ギルドか。今は一人でどうこう出来るレベルではないだろうし、それがいいかもしれないと思い、その提案に頷いた。
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中世ヨーロッパ風の建物の合間を縫うように抜けていくと、小さな酒場にたどり着いた。中に入ると、オレンジ色の優しい光の下で、十数人の男女が自由に談笑しているのが目に入る。
「いらっしゃい!って、タクじゃないの。そっちの彼は、新人さん?」
僕たちが足を進めるよりも前に、テーブルの隙間をくるくると忙しそうに動き回る女の子に話しかけられた。ピンク色の髪を後ろで一つに結んでおり、瞳のグリーンと髪のリボンのグリーンが印象的だ。
「そうそう。こいつ、俺のリア友」とタクが答えると、女の子はうんうんと頷いた。
「私はミーナっていうんだ!よろしくね」と料理の載っている皿を持ち替えて、手を差し出してくる。
「ああ、よろしく」と僕も右手を差し出した。目の前の少女としっかりと握手を交わす。しかし、その女の子は、「ゆっくりしていって!」と言い残して、注文の声に応じるべく再び忙しそうに動き始めた。
「おい、ナツ。こう言ってはなんだが、あいつ……」
「その先は、言うな……」と、僕は無言でタクを制した。
なぜこうもNPCに美人が多いのかと、嘆かずにはいられないものだ。全く。
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タクの所属しているギルドはかなりアットホームな雰囲気で、この酒場を拠点にしているらしい。なんでも、あまり人数が多すぎると、クエストのメンバーを募集してもなかなか集まらないのだとか。名前をお互いに覚えられるくらいの人数が、ゲームの上では丁度いいらしい。無論、膨大な人数のメンバーを抱えているギルドも存在するようだが。
さあ、自己紹介でもしようか、というところで、タクが、僕の一週間の苦労を皆に暴露するものだから、一気に僕の名前も知られてしまった。これでは、自己紹介の意味が無い。しかも、一週間も立てなかったのに、たくさん動かなければならないウォーリアという役職を選択したことが、なかなか強烈な印象をギルドメンバーに残しているようだ。
この僕の意思に反したタクの紹介もあって、すっかり僕の周りには人が集まっていた。感謝すべきか、怒るべきなのか……判断に悩む所だ。
「ところで、二人はリア友だって話だったけど、かなり自然にお互いの名前を呼び合っているわね」と、同じテーブルを囲む一人の女性に尋ねられ、僕は意識を会話に戻した。
「だって、俺たち学校で呼ばれるあだ名を そのまま名前に使っているもんな?」と確認を取ってくるタクの言葉に頷くと、珍しいと口々に言われてしまう。
「普通は、全然関係ない名前にするんだけど……。実際、私のハツサっていう名前も 本名とは似ても似つかないし」
今度は、別の女の子が発言した。
「俺ら、リアルにかなり似せて作ってるよな。顔くらいか?変えているのは」
そうだな。確かに、僕もタクも、声も体格も大体リアルと同じくらいの設定だ。顔だけを変えているといっても、過言ではない。
「そんなに似せて作っているのか。じゃあ、リアルで会ってもすぐに分かるかもしれないな」と、会話に途中参加してきた男性が、感心したように呟いた。
これはどうなんだ、あれはどうなんだと次々とされる質問の波に酔いながら、僕はほぼタクに任せる形で質問を切り抜けた。
結局タクが答えるなら、僕の存在の意味が無いのでは というコメントに関しては、こちらからはノーコメントを貫かせていただきたい所だ。
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次の日、僕たち二人は、ギルド内でメンバーを募集して 簡単なクエストを受けることにした。集まったメンバーは、僕とタク、そして昨日話したばかりのハツサの三人だ。偶然にも、ウォーリア、メイジ、ヒーラーの全てを取り入れる形のバランス型のパーティーに仕上がった。
「よろしくー!」と愛想よく笑うハツサに、昨日の礼と今日はよろしくという旨を伝える。ハツサもどうやら最近入ってきたばかりらしく、上手く回復魔法をかけられるか分からない と自信がなさそうではあるが、「初心者同士、頑張ろうね!」と気合は十分な様子だ。
ということは、このメンバーの中で 一番このゲームを長くプレイしていたのは、タクということになる。それにしても、一番の経験者がタクとは……最近やっと立ち上がることができた僕の言うことでもないが、このメンバーで、大丈夫か……?
次は、初クエストですね。