31.確かな希望を抱いて
後日談
翌日の朝、正規品のインターフェースが家に届いた。アイリスがオムニスにログインできるか出来ないかは分からないが、これを使えば完全な痛覚カットの状態でゲームを楽しむことが出来る。
早速ログインしようと思ったが、デスペナルティのことを思い出した。僕とアイリスは実質 敵の攻撃によるダメージで死んでしまった。ということは、明らかに今日一日、僕がログインできることは無い。
そういえば、タクはどうしているだろう。昨日に続いて、今日も学校は休みだ。直接会って話すことは叶わない。SNSで文章を送ると、何のことはない。タクも同じように時間を持て余しているらしい。適当に近くの喫茶店で待ち合わせることにした。
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「あの後、お前どうしたんだ?俺はすぐに敵にやられちまったんだが」
休日というだけあって、喫茶店は人で溢れかえっていた。なんだが、ギルドの酒場を思い出してしまう。
「僕もすぐに。撃たれてしまって」と僕が言うと、タクは「そうか」と短く返事をした。
沈黙が場を支配する。誰かがコーヒーカップを皿に置く音が、やけに響く。ややあって、タクが重苦しそうに口を開いた。
「なあ、俺たち もうオムニスにログインできないかもしれないって、お前は知ってたか?」
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タクに様々なサイトを見せてもらうと、ネットではあらゆる所でオムニスにログインできない不具合が報告されていた。
僕たちが死ぬ前に辺り一帯を包んだ、あの眩い光。あれが全てを破壊したのだという説。警察がオムニスを停止させたのだという説。超一流のハッカーの攻撃が原因だと言う説。掲示板でも色々な憶測が行き交い、まとめサイトが早くも記事を掲載している。
「これ、どういうことなんだ……?」
僕はというと、すっかりと気が抜けていた。もうギルドメンバーと笑いあうことは無いし、アイリスと話すことも無い。つまり、そういうことなのか……?
信じられない、という思いしかなかった。しかし、それも更に一日経つと、認めざるを得ない事実になった。
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また会えるかと聞いておいて、それを果たせないのは僕の方だった。アイリスは、もしかしたらオムニスノ世界でずっと待っているかもしれないのに。
僕は絶望に打ちひしがれていた。何も手につかない。学校にも行ったり、行かなかったり。勿論、親にも呆れられているし、学校の先生には心配されている。これ以上心配をさせてもかけるのはいけないと分かってはいるが、立ち直るにはもっと長い時間が必要なことに違いなかった。
その時だった、タクから電話がかかってきたのは。いつもチャットで済ませるはずのタクが、珍しく電話をかけてくるということは、重大な用事に違いない。気は進まないが出てみることにした。
電話に出ると、タクは興奮気味に訳の分からないことを叫んでいた。
「いいか、ナツ。俺の尊敬するローリー・レイエスはこう言った。『お前はお前の出来る最大限のことをやれ。俺は俺の出来る最大限のことをする』ってな。意味、分かるか?」
なんだ、この迷惑電話。もう切っていいかな。
「つまりだ、ナツ。お前に朗報だぞ」
朗報、と電話口から聞こえてきて、僕は電話を切るのを思い留まった。
「オムニスの復活を考えているコミュニティーがあるらしい」
オムニスの、復活……?タクに詳しく話を聞くと、何やらイーオン側のギルドでそういった企画が進行しているらしい。あの楽しかったオムニスを、もう一度。皆願うことは同じのようだ。
「なあ、ナツ。お前も加入するだろう?加入するよな?加入しておいたぜ!」
なんだよ、その三段活用。強引にもほどがあるぞ。しかし、このコミュニティーでオムニスを復活することが出来れば―――。
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まだ、アイリスにしていない話がある。「この戦いが終わったら言いたいことがある」と言ったきりだ。少し順序は違うかもしれない。それでも、アイリスも聞いてくれると言っていた。それに、また会えるって。
ナツは学校から帰ってすぐに、コミュニティーのチャットに参加する。どうしたらオムニスを復活させられるか。どうやって人を集めるか。必要な費用はどうするか。具体的な内容を、今日も話し合う。
アイリスにもう一度会って、必ず約束を果たすのだという確かな希望を抱いて―――。
最後までお付き合いくださり、有難うございました。クラ○はちゃんと立てたと思います。
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次は、ネットと現実の区別が完全に薄れている世界の話を書きたいと思います。前作に続いて、今作も鬱って言われそうですね。無意識なんですけど……次は意識鬱なんで!絶対いけるはず(フラグ)
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また、どこかで。




