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NATSU:2045  作者:
30/31

30.また、会えると思う?

 僕は、自分の耳を疑った。僕は、アイリスを守れなかったということか―――。


「本当にごめんなさい。気づいたときには撃たれていて……」


 アイリスは、こんなときでも笑う。


「もう、お別れですかね。あの時、探してくれて嬉しかったです。私が突き放しても、探してくれて」


―――やめてくれ。そんなこと言わないでくれ。


「本当にびっくりしちゃいました。どれだけ逃げても、追いかけてくるんですから」


 アイリスの身体が、赤い光に包まれる。そして、何発も銃弾を撃ち込まれた僕の身体も―――。


「ナツさん、私たちって結構頑張ったと思いませんか?」


 絶望しかけている僕に、アイリスが突然そんなことを言い始めた。


「ナツさんは人型モンスターも倒せるようになって、それに こんなイベントにも私のために参加してくれて。あまりこういうこと言うのも何なんですが、戦うナツさんはとても格好良かったです」


―――それは、全部アイリスのためだ。僕自身も驚いたくらいで……だって、まさかあんなに人を抵抗感なく斬るだなんて、普段の僕ではありえない。あの時は、ただ必死だっただけだ。


「最後も、私のために戦ってくれて……ああ、でも、あれはダメです!ちゃんと自分の身体を大切にしないと」


 アイリスの身体は、みるみる淡い光に包まれていく。


「あと、言わないといけないことありましたっけ?ちょっと待ってください。今思い出すので」


 僕は何も言えなかった。もう、何も声に出ない。自分も消えかけているというのに、そんなことに構う余裕も無かった。


「ああ、思い出しました。一つお願いがあるんでした、ナツさんに」


 アイリスの願い。これが、最期のお願いかもしれない。アイリスがまたこのゲームにログインできるという保障は、どこにもないのだから。


「ナツさん、私にキスしてくれませんか?」



 時が止まった。僕の思考は完全に停止した。こういっては何だが、彼女いない歴イコール年齢の僕には、その「お願い」はエベレスト並みのハードルの高さだ。


「ハツサさんが、教えてくれました。仲のよい男女は、別れ際にキスをするのだ、と」


 ハツサ……何を教えているんだ、お前は……。


「だから、どうぞお願いします」


 未知の世界に心を躍らせている所申し訳ないのだが、僕は本当にそんなこと……しかし、「さあ!さあ!」と期待のまなざしを向けるアイリスを見ていると、しない訳にはいかないだろうという気になる。



 漫画で見たようなロマンチックさも、小説で呼んだような耽美さもない。そんなキスをした。なんだか気の抜けるようなものだったけれど、実に僕たちらしいんじゃないかな。


 すれ違いもあったし、言い合うこともあった。沢山のものを一緒に見たし、いろいろな人に出会った。笑い合うこともあったし、一緒に喜ぶこともあった。ちぐはぐで、いつも上手くいったわけではない。そんな僕たちらしいキスだった。



 僕とアイリスは、もう一度笑いあった。少しの恥ずかしさを、噛み締めるように。


 僕たちの身体は、みるみるその色を失っていく。最期に僕は、一つアイリスに質問をした。


「また、会えると思う?」


 アイリスはその質問に、何を言っているのかというような顔をし、そして微笑んだ。


「勿論ですよ。ただ中身は中年男性かもしれませんので、その点に関しての保障はしませんけどね」



 辺り一帯を眩い光が包み込む。その光に包まれて、僕とアイリスは粒になり、あの赤い月へと上っていった。


もうすぐ完結です。別に鬱にしたいわけじゃないんだ。そうなるだけで。そうなるだけで。(大切なことなので二度ry)

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