3.NPCにセンスがあるだなんて過度な期待に過ぎない
服って難しい
どこへ向かっているのかと僕が尋ねると、タクは街へ向かっているのだと言った。
「正確に言うと、国というか、世界というか……。とにかくだ。俺たちがいた所があるだろ?さっきまでお前がのたうち回ってたあそこだ。あそこは太陽の神殿と呼ばれている」
あそこ、神殿だったのか……。神殿にたむろする野次馬ってどうなんだろうか。神格から祟られそうなものだが。
「太陽の神殿にいるやつは、ゲームを始めたばかりの奴と、一度死んだ奴、そして野次馬だ。野次馬は見ての通り、初心者を見て面白がってる奴が多いかな。そうだ、一度死ぬといえば、死んだら24時間はログインできないんだったかな。気をつけろよ」
死ぬのに気をつけろって、そんな事言っても死ぬときは死ぬだろうに。こいつは、僕に奇跡でも起こせというのか?
「神殿を中心に考えて、ずっと西へ行くと“イーオン”という世界があるんだ。そこは、技術が進歩した世界と言えばいいかな。まあ、そんな感じだ」と、タクがこの仮想空間のついての説明を始めた。説明が適当になってきている気がするが、大丈夫なのか?
「で、俺たちが今向かってるのが、東。そこには“アエラ”と呼ばれる世界がある。魔法とか錬金術とか、まあファンタジックな世界ってわけだ」
なるほど。アエラがファンタジックと言うならば、対照的にイーオンはSF的な世界観というわけか。しかし、それにしても―――「おい、タク。なんで勝手にアエラに向かってるんだよ。 僕は、一度たりとも、そのアエラとかいう世界を選んだ覚えはないぞ。」
「え?ああ。俺がアエラの世界の住人になっているから、アエラに向かっているわけだが。どうせお前も来るだろう?」
なんだ、そのついてきて当然のような考えは。
「お前がアエラなら、僕はイーオンがいいんだが」
ただでさえ、僕とお前とは腐れ縁なんだぞ。幼稚園、小学校、中学校。挙げ句の果てには高校まで、ずっと同じで……。せめてゲームの中でくらいは、別々に行動したい。
「えー。でも、もう着きそう」
「なん……だと……」
僕が文句を言っているうちに、"アエラ"というところに着いてしまったらしい。なんということだ……。
「ようこそ!アエラへ!!」と、こちらに向き直って笑うタクに、僕はラリアットをお見舞いした。
*
アエラに着いて一番初めにしたことと言えば、服を調達したことだろうか。なにせ、神殿にいたときからずっと、僕はローブ一枚の実質真っ裸なわけで。男の裸なんて、見る方も見せる方もいい気はしない。
それにしても、この初期仕様はどうにかならないものかと思わずにはいられない。見た目で初心者だと分かってしまうのは ゲームではお約束かもしれないが、ローブ一枚と言うのは正直笑えない。適当にTシャツでも着せるとか、もっと対策の方法はあっただろうに……。もし、これが開発者の好みを反映させているのだとすれば、もっと笑えないが。
結局僕たちは、初心者向けの仕立て屋に入った。低価格のものは勿論のこと、あらゆる価格帯のものを取り扱っているようなので、適当に安いものでいいと店の人に伝える。取り敢えず着られるものならば、なんでもいい。そう思ってはいたが、ありえない色合いのものを組み合わせてくるものだから、思わず目をそむけずに入られない。なぜ上がオレンジで、下が紫なんだ……?
まさかそこまで適当に持ってくるとは思わなかった上に、それを見ていたタクには大爆笑されるしで、もう散々な思いをした。NPCに色彩的なセンスがあるとは到底思えなかったが、安さ重視だとこうなるのか。それにしても、まさかタクにまで笑われてしまうとは。
「そこまで笑うなら、お前が持って来いよ」と言って、タクに見繕ってもらうが、これがなかなかセンスのいい組み合わせで、ますます面白くない。そういえば、こいつの私服はかなりお洒落だったような気がしなくもない。
「ローリー・レイエスはこう言った。『俺がここまでビックになるってことは、俺が一番分かってた』ってな」
どういうことかと意味を尋ねると、タクは得意そうに鼻を鳴らした。
「つまり、俺のセンスがピカイチなのは、俺が一番分かってるってことだ。誉め言葉はいらねえぜ?」
自画自賛かよ。
次は初の女性登場