表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NATSU:2045  作者:
28/31

28.本気の準ヘタレは、一味も二味も違う

バトルシーンだけ三人称って、モテないと思う?

 戦況は有利なように思えた。盾を持って前進しながら、ウォーリアがその隙を縫うように攻撃する。中間に位置するメイジが、遠距離攻撃。そして、ヒーラーが様子を見ながら回復。


 作戦としても悪くない、と言うよりは一般的なものだろう。後方のヒーラーがやられない限りは、実質不死身の兵士と言うわけだ。地上部隊として 前進を続けるナツたちの上空でも、地上と同様に 激しい戦いが繰り広げられていた。そちらの方も、同じように現在はアエラ側が優勢のようだ。


 ナツは、一先ず安堵した。アエラが何年もの間、この戦争に負けていないというのは本当のことらしい。指揮体系は整っているし、正攻法かもしれないが奇策を実行するよりは 作戦としても信用できる。このままいけば、アイリスを守れるに違いないと確信した。



「攻撃中止!前進も止めろ!総員、すぐに自主的にログアウトをするように!」


 しかし、事はそう簡単には進まなかった。突如として、ログアウト命令が下されたのだ。


 意味が分からないというような声が、次々と湧き上がった。有利な戦況の中で、自分から負けに行くなど、納得できないと抗議の声がやまない。


「いいから、今すぐにログアウトしろ!」と、指揮を務めていたプレイヤーの一人が叫び、その直後 自主的にログアウトした。



 指揮を失った部隊に、もはや統率などなくなっていた。続いてログアウトする者、敵に気にせず斬りかかる者、とにかくアエラへ戻ろうとする者―――。


 その混乱の中で、ナツは急いでアイリスの手を取り、すぐに走り始めた。


「なんですか。突然」とアイリスが驚いたように声を上げた。


「いいか。誰がどう見ても、戦況はアエラが優勢。実際にイーオンにまで、僕たち地上部隊は迫っていた。それなのに、指揮を執っていた奴が突然ログアウトしたんだ。おかしい」


 ナツの言葉に、アイリスが納得したように頷いた。


「すぐにここを離れよう。ここをと言うよりは、ここら一体を。撤退すれば間に合う範囲であれば、撤退させたはず。しかし、命令はログアウト。すぐに走らなければ、間に合わないということだ」


 いつもだったらこんなに頭は回らないというのに、とナツは自嘲気味に笑った。そして、アイリスと一緒に混乱の渦を抜ける。しかし、二人だけで守りも無く 走っているプレイヤーなんてものは、格好の的に違いなかった。四方から銃弾が飛んでくる。


 ナツはその銃弾を剣でいなした。そして、アイリスに目で合図し、敵に向かって走る。その間も、敵は容赦なく銃弾を打ち込み続ける。


―――遅い。


 ナツは、一つ一つの銃弾を避け、避けきれないものを剣で斬る。それほど距離も無かったために、すぐに敵のもとへ辿りついた。


 目の前には、二人。一人は、膝が笑っている。もう一人は、必死に新しい弾丸を込めていた。敵の恐怖した顔が、ナツの黒い瞳に映る。


「これ以上、痛い思いをするのは嫌なんだ」


 一瞬 ナツの言葉を聞いて意味が分からないというように、二人は 眉間にしわを寄せた。しかし、次の瞬間には、ナツの斬撃を浴び、淡い光を放って散った。


―――痛覚がカットされたとはいえ、やはり僅かにでも痛いものは痛いと言われているんだ。そんな状況で、撃たれたいと思う奴はまずいないだろう……と思ったんだが、そういえば痛覚は標準装備じゃないんだったな……。


 ナツはため息を一つついて、アイリスの方へ向き直った。アイリスは、一人目を倒した所らしい。丁度、二人目と戦っているところだった。


 アイリスもナツを真似て、上手く剣で銃弾をさばく。そして、一直線に敵の元へ向かい、そのまま敵を剣で貫いた。敵の口から、なんとも言い難いうめき声が漏れ、そして同じように淡い光を放った。



「ヘタレはどこへ行ってしまったんでしょう?」とアイリスがナツをからかう。


「ヘタレじゃなくて、準ヘタレだろう?まあ、あれだ。準ヘタレでも、本気の準ヘタレは一味も二味も違うというか」とナツが返すと、アイリスが「そうでした。すっかり忘れていました。でも、二味も違うだなんて、少しお得感ありますよね」と笑った。


 その時だった。ナツの瞳に、赤い月に照らされて ほのかに光る銃口が映ったのは。


もう少し、お付き合いください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ