28.本気の準ヘタレは、一味も二味も違う
バトルシーンだけ三人称って、モテないと思う?
戦況は有利なように思えた。盾を持って前進しながら、ウォーリアがその隙を縫うように攻撃する。中間に位置するメイジが、遠距離攻撃。そして、ヒーラーが様子を見ながら回復。
作戦としても悪くない、と言うよりは一般的なものだろう。後方のヒーラーがやられない限りは、実質不死身の兵士と言うわけだ。地上部隊として 前進を続けるナツたちの上空でも、地上と同様に 激しい戦いが繰り広げられていた。そちらの方も、同じように現在はアエラ側が優勢のようだ。
ナツは、一先ず安堵した。アエラが何年もの間、この戦争に負けていないというのは本当のことらしい。指揮体系は整っているし、正攻法かもしれないが奇策を実行するよりは 作戦としても信用できる。このままいけば、アイリスを守れるに違いないと確信した。
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「攻撃中止!前進も止めろ!総員、すぐに自主的にログアウトをするように!」
しかし、事はそう簡単には進まなかった。突如として、ログアウト命令が下されたのだ。
意味が分からないというような声が、次々と湧き上がった。有利な戦況の中で、自分から負けに行くなど、納得できないと抗議の声がやまない。
「いいから、今すぐにログアウトしろ!」と、指揮を務めていたプレイヤーの一人が叫び、その直後 自主的にログアウトした。
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指揮を失った部隊に、もはや統率などなくなっていた。続いてログアウトする者、敵に気にせず斬りかかる者、とにかくアエラへ戻ろうとする者―――。
その混乱の中で、ナツは急いでアイリスの手を取り、すぐに走り始めた。
「なんですか。突然」とアイリスが驚いたように声を上げた。
「いいか。誰がどう見ても、戦況はアエラが優勢。実際にイーオンにまで、僕たち地上部隊は迫っていた。それなのに、指揮を執っていた奴が突然ログアウトしたんだ。おかしい」
ナツの言葉に、アイリスが納得したように頷いた。
「すぐにここを離れよう。ここをと言うよりは、ここら一体を。撤退すれば間に合う範囲であれば、撤退させたはず。しかし、命令はログアウト。すぐに走らなければ、間に合わないということだ」
いつもだったらこんなに頭は回らないというのに、とナツは自嘲気味に笑った。そして、アイリスと一緒に混乱の渦を抜ける。しかし、二人だけで守りも無く 走っているプレイヤーなんてものは、格好の的に違いなかった。四方から銃弾が飛んでくる。
ナツはその銃弾を剣でいなした。そして、アイリスに目で合図し、敵に向かって走る。その間も、敵は容赦なく銃弾を打ち込み続ける。
―――遅い。
ナツは、一つ一つの銃弾を避け、避けきれないものを剣で斬る。それほど距離も無かったために、すぐに敵のもとへ辿りついた。
目の前には、二人。一人は、膝が笑っている。もう一人は、必死に新しい弾丸を込めていた。敵の恐怖した顔が、ナツの黒い瞳に映る。
「これ以上、痛い思いをするのは嫌なんだ」
一瞬 ナツの言葉を聞いて意味が分からないというように、二人は 眉間にしわを寄せた。しかし、次の瞬間には、ナツの斬撃を浴び、淡い光を放って散った。
―――痛覚がカットされたとはいえ、やはり僅かにでも痛いものは痛いと言われているんだ。そんな状況で、撃たれたいと思う奴はまずいないだろう……と思ったんだが、そういえば痛覚は標準装備じゃないんだったな……。
ナツはため息を一つついて、アイリスの方へ向き直った。アイリスは、一人目を倒した所らしい。丁度、二人目と戦っているところだった。
アイリスもナツを真似て、上手く剣で銃弾をさばく。そして、一直線に敵の元へ向かい、そのまま敵を剣で貫いた。敵の口から、なんとも言い難いうめき声が漏れ、そして同じように淡い光を放った。
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「ヘタレはどこへ行ってしまったんでしょう?」とアイリスがナツをからかう。
「ヘタレじゃなくて、準ヘタレだろう?まあ、あれだ。準ヘタレでも、本気の準ヘタレは一味も二味も違うというか」とナツが返すと、アイリスが「そうでした。すっかり忘れていました。でも、二味も違うだなんて、少しお得感ありますよね」と笑った。
その時だった。ナツの瞳に、赤い月に照らされて ほのかに光る銃口が映ったのは。
もう少し、お付き合いください




