25.僕はただの高校生だ
それから、アイリスの捜索がギルド全体で行われた。まさか、皆が協力してくれるとは思わなかった。ハツサも、「新メンバーは女の子だ!」と意気込んでいる。
しかし、その必死の捜索も空しく、アイリスは見つかっていなかった。もう遠くへ行ってしまったのだろうか。任務である視察を存分に果たすには、一箇所にずっと留まることがあってはならない。
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時間が経つにつれて、少しずつ手伝ってくれる人数も減ってきた。しかし、それが悪いことだとは思わなかった。僕の勝手に付き合ってもらっているだけなのだから。それにしても、目撃情報すらもない。まさか、アエラから出て行って、イーオンに行ったのだろうか……?
隣を歩いているタクに、声をかけようとしたその時だった。向かいからフードを被った人がやって来るのが見えた。ああ、アイリスは丁度このくらいの身長だったなあ。そう思いながら、その人とすれ違う。俯きがちであるために、顔は確認できない。しかし、フードの隙間から藍色の髪が 微かに覗いた。
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声をかけようと思ったが、止めておいた。以前の失敗を繰り返してはならない。その代わり、タクに耳打ちして静かに近づいた。ゆっくりと手を伸ばす。今度こそ。今度こそ、捕まえることが出来た。
「離して下さいませんか」と、懐かしい響きが聞こえた。
「逃げないと約束できるならば」と僕が言うと、「それは出来ませんね」と微かに笑うのがわかった。
「じゃあ、離せないな」と僕も笑う。
「もう探さないでって、私 言いましたよね?」と、藍色がこちらを向くことなく言った。
「AIでもなんでも、僕は構わない。僕の見てきたアイリスが、本物だと思うんだ」
これは、タクに教えてもらったこと。
「それに、視察なんだろう?そんなもの、僕と一緒でも出来る。護衛として使ってもらっても構わない。いや、僕自身がそんなに強いとは言えないんだけど……」
藍色はまだこちらを向かない。
「こんなの、建前だ。視察だ、護衛だなんて、そんなもの 本当はどうでもいい。僕が、君と一緒にいたいだけなんだ。それじゃ、ダメかな……?」
そこまで言い終えた所で、アイリスがぷっと吹き出した。そして、こちらを向いて涙を拭いながら話し始めた。
「馬鹿なんですか。どうせなら、もう少し格好いいこと言ってくださいよ。でも、丁度良かったです。私も、一人の視察に飽き飽きしていた所だったので。連れて行って差し上げますよ。というか、連れて行ってください。この世界では、右も左も分からなくて」
「それは、本当にタイミングが良かったな」
僕とアイリスは一緒になって笑った。タクのやれやれと言うような顔が、視界の端に映る。
何も難しいことはなかった。僕はただの高校生だ。難しいことは分からないし、分かりたくも無い。警察のAIだとか任務だとか、そういう難しいことに興味さえない。
でも、一つだけ確かなことがある。僕は、僕の見てきたことは信じている。アイリスと過ごした時間も、アイリスの仕草も、そしてアイリスの笑顔も。僕の見てきたことだけは、本物で本当だと信じているのだ。
―――敬語女子の魅力に取り付かれてしまえ!!
おっと、失礼。心の声が。




