23.そんなんでいいのかよ!
もう1週間もオムニスにログインしていない。ぼうっとして過ごす毎日だ。ここ最近は、ゲームをして時間を潰していただけあって、ゲームがないと案外することが無いのだなと思い知らされる。偶にタクからくる連絡にも応じずに、意味もなく本のページをめくってみたり、目的地もなく散歩してみたり……。
学校も、行ったり行かなかったり。早退することもしばしばだ。タクとは違うクラスなだけあって、全くと言っていいほど会っていない。
それにしても、アイリスがAIだっただなんて、思いもしなかった。プログラミングされたシステムに従って、僕について来ていただなんて。
少しの間だが、一緒に過ごしてみて、AIだと疑わせる要素は殆ど無かった。少し物を知らないのも、初心者ならば普通のことだ。普通に会話も成立していたし、彼女は笑っていた―――。いや、それも偽物だったということだろうか。感情もプログラミングされているのだとしたら……?
僕とアイリスの過ごした時間は、偽物だらけだったというわけだろうか。偽物の好意、偽物の笑顔、偽物、偽物、偽物―――。
*
さらに1週間経つと、アイリスに対する全ての感情が薄れてきた。人間って、案外薄情だ。あんなに悲しかったのに、それもすぐに消し去ってしまう。そんなことを思いながら、僕は約2週間ぶりのログインを果たした。
ログインして一番初めに目についたのは、タクからのメールの嵐だ。ヤンデレ彼女もびっくりな量。リアルでも連絡がたくさん来ていたが、まさかこっちまでとは。感服いたしました。
タクに、迷惑をかけたことに対する謝罪の文言を入力すると、すぐに返信が来た。今どこにいるのか、という内容だったので、タクと最後に別れた場所で再会の約束を交わした。
*
少し待っていると、タクが走ってこちらへ向かってくる。
「よっ!久しぶりだな!」とタクは元気な様子だ。僕もそれに応じて挨拶をした。
しばらく僕は、適当な話題で場を繋いだ。しかし、ついにタクが核心に触れる質問をしてきた。
「それで?あの後どうなったのか、俺は聞いていないわけだが」
あの後。それは、僕がタクをおいて、アイリスに向かって走っていった後、ということだろう。
「ダメだったよ」
単刀直入。それ以上も、それ以下もない。ただ、ダメだった。それだけ。
「ダメだったって、そんなんでいいのかよ!あんなに頑張って探してたじゃねえか!それに、見つかったんだろう?何がいけなかったんだよ!」とタクが、息継ぎをせずに僕を問い詰めてくる。
そんなこと言ったって、仕方がないじゃないか。もうどうにもならないんだ。
「どうにもならないって、どういうことだよ!何を諦めてるんだ!ローリー・レイエスはこう言ったぜ。『俺は自分の行動を恥じたことはない。しかし、それは諦めたことが一度もなかったからだ』ってな!」
だから、誰だよ。そのローリー・レイエスって。
「俺の尊敬する、アメリカのロックンローラーだよ!」
誰も知りたいと思ってねえし、結局誰だか分からなかったんだが……。マイナーすぎるぞ、タク。
「それはともかく」とタクが 話を一度戻した。「そんなことで諦めてもいいくらいの気持ちだったのか?だったら、始めから探すなよ」タクの落ち着いた声に、すっと自分の気持ちの波が静まるのを感じた。
確かに、その通りだ。でも―――。
「……彼女は、アイリスはAIだったんだ」
僕がそう明かすと、タクはきょとんとした顔になる。そして、その顔のままで口を開いた。
「それが、どうしたんだ?」
次は、来週の日曜日。気が向いたらその前もするかも?よろしくです