22.ほら、私のこと 嫌いになったでしょう?
僕の呆然としているであろう顔を見て、アイリスが自嘲気味に笑う。
「ほら、失望した。嫌いになったでしょう?最悪の嘘ですよ。だから、言いたくなかった。私のことなんて探さずに、放っておいてほしかった」
息継ぎをすることなく、アイリスが言い放った。僕は、意味が分からないというような内容を言ったと思う。すると、アイリスが 自暴自棄になった様子で話し始めた。
「私、とある警察機関のAIだったみたいです。最近思い出した上に 記憶がまだ曖昧なので、『みたい』なんですけど……。私の任務は、このオムニスの視察。本部の人間も何人か このオムニス内に送られていますので、私は本当に軽く視察する程度で良かったようですが」
彼女は、笑いながら続けた。
「ナツさんに会った時、私の記憶は 確かに飛んでいました。しかし、本部は一切 その問題に関して干渉して来ませんでした。オムニスという 既に完成したプログラムの中に、異分子である私を送り込むのですから、そのくらいのリスクは 本部の想定内だったでしょう。いざというときは、自由に過ごさせても ある程度の視察は可能ですから。」
僕に会った時。そうだ、彼女はまるで眠っているような、そんな感じで倒れていた。あれは、無理にオムニスにAIを介入させたことによる一種のシステム障害……。
「このオムニスの視察は、単なる任務ではなく、私の存在理由でもあったんです。私は、そもそもこの任務のために作られたんですから」と、アイリスがちらりをこちらを見る。
「その、存在理由が失われていた。それがどういうことか、分かりますか?」
アイリスの存在理由、それは任務だった。それが失われていたということは、新たな存在理由が必要―――?
「私はあの時、ナツさん、あなたに存在理由を求めました」
僕―――?
「AIの本来の存在理由は、人間の役に立つこと。だから、あなたについていって役に立とうと AIの根本的名プログラムが自動的に判断したんです。でも、それは つまり システム上の判断だったわけですよ。私の気持ちは、そこにはない。私は、人間に協力する、というAIの基本に従っただけなんです」
アイリスが僕についてきたり、文句こそは言っていたが、結局は僕の意見に賛同してきたのは、そういうプログラムだったから―――?
「別に、初めて目にするのがあなたでなければ、他の人について行ったと思いますよ。あなたじゃなくても良かった。たまたま、あなただったというだけなんです」
僕じゃなくても、良かった―――?
「でも、思い出してしまいました、本当の存在理由を。思い出した以上は、その任務を遂行しなければなりません。それに、あなただって AIとずっと一緒にいるだなんて、気持ち悪いでしょう……?」
そう言って、アイリスは俯きがちに笑った。
少しの沈黙が場を支配する。
*
「ここで、お別れですよ、ナツさん」
途切れ途切れに、アイリスが言葉を発する。もうアイリスは、僕の顔を見なくなっていた。そして、彼女は、まるで僕に対する興味を失ったかのように、無機質に言い放った。
「さようなら」
やっぱり、ヒロイン退場……?そんなことでいいのか―――!?ということで次回!