21.私が 耐えられなくなっただけなんです
区切りの関係で今回短めです
「待ってくれ!」
逃げるアイリスに再び手を伸ばすが、その試みも空しく届かない。二週間。二週間かけて、やっと見つけたのに。こんな所で逃がしては、今までの苦労が水の泡だ。
「来ないでくださいっ!」とアイリスが、こちらを振り向くことなく 走りながら言った。僕がそれに対して、拒否する言葉を叫ぶと、「本当に、嫌なんです!もう、嫌なんです!」と、次は意味の分からないことを言ってくる。中世ヨーロッパ風のレンガ造りの建物の隙間を縫うように、僕たちはとにかく走った。
「何が嫌なんだよ!言ってくれないと、分からない!」
僕がそう叫ぶと、遂にアイリスは 動かし続けていた足を止めた。いつの間にか、路地裏に来ていたようだ。人通りは全くない。
「嫌なんですよ、これ以上は」
アイリスが、落ち着いた口調で切り出した。しかし、こちらを決して振り向かない。
「もっと詳しく言ってほしい。何が嫌なんだ?僕が何かしたのか?」
僕の言葉に、アイリスは首を左右に振った。
「そういうことじゃないんです。あなたは何も悪くない。ただ……」と、アイリスが言葉を濁す。そして、ややあってアイリスが口を開いた。
「ただ、私が耐えられなくなっただけなんです」
*
耐えられなくなった……?どういうことだ?そんなことを考えていると、「これ以上は、もう無理だったっ!」と、アイリスが突然大声を上げた。
「これ以上、あなたに嘘をつくだなんて出来ないっ!もう無理なんですっ!だから……だから、放っておいてほしかった!それなのに、探して……もう、私のことなんて忘れてくださいよっ!」
アイリスが、僕に、嘘……?どういうことなのか、とアイリスを問い詰めるより早く、取り乱した状態の彼女の口が次の言葉をつむぎだす。
「嘘が何かって?でも、これを言ったらナツさんは絶対に私を嫌うでしょう?絶対に嫌います。嫌いますよっ!嫌うに決まってる!」
嫌わないと僕が言うが、信用できないと見事に撥ね返されてしまった。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。僕は、何度も 嘘の内容が何でも嫌わないと言い続けた。 すると、しばらく無言状態だったアイリスが、こちらを振り向いて再び口を開いた。
「本当に?本当に、嫌いませんか?」
アイリスは、そこで一度大きく息を吸った。そして、何かを決心したかのように、僕を見据えた。
「たとえ、私がAIだったとしても―――?」
次は15時