20.俺は正直どうでもいい
アイリス失踪から、一週間。僕は、ギルドメンバーと共にクエストをこなしていた。しかし、どれだけ違うことをして気を紛らわせようとしても、彼女のことを頭の隅で考えてしまう。
「おい、ナツ。最近集中できてねえぞ!」とタクに怒られることもしばしばで。ミスが多くなっているようだ。いや、「そうだ」なんて言っているが、自覚はある。これ以上は迷惑をかけられない。そう思い、一度クエストを離脱した。
当てもなく街を歩き回っていると、タクが後ろから追いかけてきた。「本当に、どうしたんだよ?何かあったのか?」と心配される。タクが心配してくるだなんて、相当酷い顔をしているのだろう。
もう、話してしまおうか。そうすれば、この気持ちも少しは軽くなるかもしれない。現在、僕はアイリスに関して何の情報もないし 何の行動も起こしていない。ということは、このままではこの状態が動くことはない。話してみるのも、ありかもしれないな、と僕は思い直した。僕がタクに 彼女のことを話すことで、何かが変わる可能性を期待して。
*
話を最後まで聞いたタクは、「面倒くせえことになってるなあ」と笑った。そして、少し間をおいて「お前は、どうしたいんだ?」と僕に尋ねてきた。
僕は、どうしたいのだろう。彼女は探してほしくないと言っているのだ。僕が彼女を見つけたいと思うのは、僕の自己中心的な願望ではないか。そんな疑問が、頭に浮かんだ。彼女を探して、どうするんだ?見つけて、それで?
「別に、俺はそのアイリスとやらと関わりがないからな。だから、正直どうでもいい」
タクは、こういう時こそ はっきりと物を言うやつだ。こいつのこういう所が、僕のタクへの信用の要因だと思う。
「どうでもいいけどな。しかし、だ。お前が、そのアイリスとやらを見つけたいというならば、俺は協力を惜しまない。お前が決めろ。探すか、探さないかを。そして決めたら、もうウジウジしてんじゃねえぞ」
僕は―――。
「アイリスを、見つけたい」
まだ、アイリスとゲームをしていたい。話したい。色々な所へ連れて行ってあげたい。それに、文句を言ってやらないと、気が済まない。突然いなくなるなって。心配したんだぞって。これは、僕の自己中心的な願望に過ぎない。それは理解している。それでも―――……。
「そうと決まれば、早速探すぞ。俺の尊敬するローリー・レイエスはこう言ったぜ。『俺の人生において一番の後悔は、何においても始めるのが遅すぎたことだ』ってな。善は急げってやつだ。容姿は?最後の目撃情報は?」
こういう関係のことを、親友と人は呼ぶのだろう。僕は、タクに心の中で感謝の言葉を述べ、タクの言葉に後押しされる形で 再びアイリスの捜索を開始した。
*
再捜索から、一週間。アイリス失踪から、二週間。アエラ中を探すのは厳しいが、主要な都市は探し回った。目撃情報も、なかなか手に入らなくなってきている。
もう無理なのではないか。もしかしたら、完全にゲームをやめてしまったのかもしれない。
僕もタクも、もう諦めようかと話していたその時だった。見覚えのある藍色が、視界の端に映った。あの藍色。僕にいつもついて来ていた、藍色だ。
「タクは、ここで待っていてくれ」
僕はそう言ってタクをその場に残し、ふらふらとその藍色の後について行った。僕があれほど探しても、見つからなかったというのに。こんなに近くにいただなんて。
「アイリス……」と人を避けながら、藍色に呼びかけた。引きとめようと、手を伸ばす。しかし、その手は何も掴まずに 空を切る。アイリスが、走り始めたからだ。
一瞬だけ こちらを振り向いたアイリスの辛そうな顔が、目に焼きついた。
ヒロイン復活か……!?