16.研究成果は、僕だ
今回、区切りの関係で短めです。
僕とアイリスはぼんやりと、その定例会とやらの様子を眺めていた。ぼんやりと、というよりはぽかんとしていると言うのが正しいかもしれない。
定例会。
それは、僕の所属しているギルドが毎日行っているような、ただの談笑会ではなかった。果物屋の店員の証言通り、そこではまさに議論が行われていた。
各々が発見したバグやゲームシステム、つまり“ 一般人の気にしないような謎 ”とまとめるのが正しいだろうか。それらについての個々人が考察を行い、最終的には皆の意見を統合した結論を出しているらしい。といっても、専門用語が多すぎて、詳しい内容は全く分からない。
リアルの世界で言う、学者のようなものだろうか。それを趣味でやっているということのようだ。それにしても、荒っぽい定例会だ。意見が食い違うと、時には罵倒したり、軽い殴り合いになったりするのだから。そんな混沌とした雰囲気の中で、その定例会は長々と続いた。
なるほど、客も出て行くのも納得の有様だ、と僕は納得した。あまりの白熱具合に、正直引く。
*
一人ひとりが発表して、それに関する議論がある程度落ち着いた所で、定例会の開始を宣言した人、もう長老でいいか。長老が僕たちの存在に気づいたように、話しかけてきた。
「ところで、お前さんたちはどちら様かね。新顔のようだが。何か研究成果でも持ってきたのか?だったら早く発表せんか。時間は有限だ」
成果っていってもなあ。僕たちは、何も持ってきていないし、そもそもこのゲームにおいて研究というものもしたことがない。学者でも何でもないわけで。
「なんだ?お前さんたちは、何も持っていないのか?まさかそんなわけないだろう。この定例会に、何もなしに参加する者など、あってはならない」
完全に何かを提出しなければならない雰囲気だ。20人分の視線が、僕たちを貫く。射殺されそうだ。僕たちに出て行くように進言した店員は、哀れみの目を向けていた。何か、何か発表しなければ。何か―――……。と、その時ある考えが、湧き起こった。
大きく息を吸い、しっかり前を見る。隣でおろおろしているアイリスに、大丈夫だからと微笑んだ。なんとかなる。というか、何とかする。
「僕たちの研究成果。それは―――」
その場にいた全員が息をのむのが分かった。これが、僕の答えだ。
「僕だ」