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NATSU:2045  作者:
13/31

13.ヒロインは遅れて登場するものなのですよ

「おい、大丈夫か?」と 僕は倒れている少女を覗き込みながら、肩を揺らした。


「む……」


 意識はあるらしい。まあ、死んだら神殿に送られるわけだし、そりゃあ意識はあるか。


「起きろって」と何度か頬を軽く叩くと、「煩いんですが」と逆に頬を勢いよく叩き返されてしまった。僕はそんなに強く叩いた覚えはないぞ……、これが倍返しって奴か。


「煩いも何も、人が倒れていたら起こそうとするだろう、普通」その親切心を、煩いの一言で片付けられてはこちらとしても不愉快だ。


「普通は、そうするものなんですか。放っておいてくれても良かったんですが」


「放っておくって、お前なあ……」


 深いため息が口から漏れる。


「どこからどう見ても初心者の女の子が、こんな危険な所で一人倒れていたら 気になるし 気にする」


 そう言って、僕は少女を まじまじと眺めた。藍色の髪は肩の辺りまで伸びていて、大きな赤の瞳が印象的だ。服装は、勿論初心者モードで ぼろ布一枚。なんというか、美人は着るものなんて選ばなくても、美人なのだと思わせる美しさがある。


「女の子とか言って、実は中身は男性かもしれませんよ?馬鹿なんですか?」


 美しい外見には似合わず、口調はかなり辛辣だ。刺々しい言葉の数々が、心に100のダメージ。


「それより、危険なんですか?この場所は」


 もうその話題には飽きたというように、少女は話題を変えた。僕の発言に気になる点があったようだ。


「危険も危険。僕も最近知ったんだが、このあたりは緩衝地帯と言って、所謂無法地帯と言うやつらしい。初心者狩りはやるし、モンスターも普通に出てくる。だから、かなり危ない」


 タクと初めて通ったルートは、かなり遠回りではあるが、一番障害の少ないルートだったようだ。幸い、僕は、今までにこのルートでモンスターに出くわしたことはない。


「そうなんですか、ここは危険だと。なるほど」


 少女は何度か危険、危険と繰り返し、「では、移動することにしましょう」と僕に向かって言った。


「移動っていっても、あれだぞ。僕はアエラっていう世界の人間だからな。僕についてきたら、選択権はないわけだが」


 ゲームを始めたばかりの頃は、僕自身も知らないことが多くて戸惑ったなあ、と思い出す。タクに、半強制的にアエラに連れて行かれて。でも、半強制的に連れて来られたという割には、かなり充実した日々を送っているかもしれない。


「選択なんて、必要ありません。ここであったが、百年目。あなたについて行くことにしました」


 ここであったが、百年目って。使い方間違ってないか?



「ところで、どうしてあんな所で倒れていたんだ?」


 僕は、タクと一度通ったことのあるルートをなぞる様にして 少女をアエラへと案内する。


「倒れていたわけではありません」と 少女が少し不機嫌そうに言った。


「じゃあ、何をしていたんだ?」と僕が聞くと、そうですね、と少女は少し考えるように間をおいた。


「あれです。あのー……。操作がちょっと分からなくなったといいますか」


 少女が歯切れ悪く答える。まあ、恥ずかしいよな。僕も立ち上がるのに一週間かかったんだ。その気持ちは十分に理解できる。


 少女に同情の言葉をかけながら、タクが僕にしてくれたような説明を 少女にしてあげた。このゲームのこと。世界が二つあること。アエラがどういうところか。ロールについて。


 それらの説明を、少女は興味深そうに、そして時には質問しながら聞いてくれた。



 難なくアエラについた僕たちは、タクが僕にしてくれたように 少女を役所に連れて行った。


「ここで、なにをするんですか」と少女が不思議そうに首を傾ける。


「住民登録と、ロール登録をするんだ。さっき説明した、戦闘における役割ってやつ」と僕が言うと、少女はなるほどと納得するかのように、数回頷いた。


 少女は僕と同じ、ウォーリアの職に就いた。名前はアイリスというらしい。役所での登録も難なく終わり、遂に別れのときがきた。


「ご親切にも案内してくださり、助かりました」とアイリスは、僕に礼を言った。


「いや、このくらいのこと何でもないよ。僕も同じ方向に用事があって」


「用事、ですか?」


「ああ。少し問題が発生してね。機械に詳しい人のところへ行かないといけないんだ」


「機械に詳しい人、ですか。なるほど」とアイリスは少し思案するな素振りを見せた。


「では、私がその人探しを手伝ってあげましょう。案内のお礼に」


 当てもないから、と僕はアイリスの助けを丁寧に断るが、なかなか引いてくれない。


「役に立たないとお思いでしょうが、人は多いほうがスムーズに探せますよ」「三人寄ればってやつです。二人ですけど」「もしかしたら、探している人は私の知り合いかもしれませんよ?あり得ませんがね」


 何としてでも、僕について来たいようだ。


「そこまで言うなら、手伝ってもらえるかな?」と僕が折れると、「最初からそういえばいいんですよ」と言って、アイリスは「では、行きましょう」と僕に呼びかけた。



作者の完全な好みで申し訳ない

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