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NATSU:2045  作者:
1/31

1.そもそも立てないって、何のバグだよ

「ナツ!」


 僕は、ちょうど声をかけてきた奴を 振り向きざまに鋭く睨みつけた。声と話し方だけで誰だか分かってしまうのは、長年一緒にいるからだろう。


「……タク」


 僕にあだ名を呼ばれたそいつは、「おう」とかけて軽く右手を上げて、僕に近づいてくる。


「遅かったなあ、ナツ。すっかり待ちくたびれたぜ」


 悪びれる様子もなく言ってくるそいつに、「そもそもお前が立ち方を教えてくれたら、こんなに時間はかかってねえよ」と、さらに睨みを利かせて言い返した。


 こいつは、僕の苦労を何も分かっていない。僕がこの一週間、どれほど苦労したかを。



 ここは、オムニスというVRMMORPGの仮想空間。このオムニスは、今では世界中でプレイされているゲームである、らしい。らしいというのも、僕が本格的にこのゲームについて知ったのは、つい最近のことだからだ。


 というのは、僕は全くと言っていいほどこのゲームに興味がなく、友人に是非やってみないかと言われても、断り続けていたからだ。その当時のオムニスは、影響力も小さく、このゲームをしていないからと言って、何か重大な問題が発生することはなかった。


 しかし、この仮想空間の通貨である“ロス”が、世界の基軸通貨と言っていいくらいに使われるようになり始めたことで、状況は変わった。ほぼ全世界の人々がこのゲーム、もしくはロスを管理することができるアプリを利用するようになったからだ。仮想空間の通貨を現実世界でも使い始めるだなんて、気が狂っているとしか思えない所業だが、これも時代の流れというやつだろうか。


 ゲームもアプリもやっていないというのでは、時代遅れを通り越して、生活に支障をきたす恐れすらある。そんなわけで、僕も最終的には友人Aの誘いに乗る形で、オムニスデビューを果たしたというわけだ。そう、ちょうど一週間前に。



 大切なのは、僕がこのゲームを始めたのは一週間前だということだ。


 ゲームを始めて一週間というと、一番そのゲームを楽しんでいる時期だろうか。様々なダンジョンを攻略したり、レベル上げに勤しんだり、あらゆる新しいものを目にして、様々な希望に心を躍らせる日々を送っているはずだ。そして、僕も例外なく そうなっているはずだった。


 少し、ここ一週間の話でもしようか。



 ゲーム内で一番最初に目にするものは、何か。それは美人の女神様かもしれないし、朝早くに起こしにきてくれたお母さんかもしれない。可愛い幼馴染かもしれないし、もしかすると、知らない天井かもしれないな。


 さて、一週間前の僕が始めてこの世界で目にしたものはというと、何の変哲もない床だった。ゲームにはお約束の広大な草原でもなければ、聳え立つ古城でもない。勿論のことだが、女神様でも母親でも幼馴染でもない。視界には、只々 床が広がるだけだった。


 せめて、今どこにいるのかだけでも知りたい。そう思うのは、ある程度ゲーム経験のある人なら普通のことだろう。現在地も分からないようでは、何の行動も起こせないし、そもそも何をしたらいいかも分からない。そこで、僕は まず立ち上がろうと試みた。


 しかし、ここで問題が発生した。僕をこの一週間ずっと苦しめ続けた、最大で最悪の問題が。


 立ち上がるべく両手をつくと、僕の身体は微かに床から離れた。しかし、それは一瞬のことで、すぐに床に吸い戻されてしまった。実際には掻くはずもないというのに、冷や汗が額から頬に伝う感覚があった。


「立てない……だと……」


あらすじ一部回収

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