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会敵

霧島勇吾、17才、ごく普通の高校生である。身長は高くもなく低くもなく、容姿は普通。彼女なし、友達少なめ。


彼は帰宅途中で、秋葉原近くを歩いていた。家は岩本町にあり、通う都立高校が秋葉原近くなので徒歩での通学だった。

夕方の秋葉原は雑多な人種で溢れかえっていて、そんな中を勇吾は冴えない足取りで家へ向かう。

この単調な毎日、代わり映えしない日常。勇吾は「仕方ない」と無理矢理に自分に言い聞かせていた。



12月2日  JR秋葉原駅付近 昭和通り付近


巨大な交差点を渡ると、周囲の人の流れがいきなり希薄になる。家までは後15分ぐらいだ。

いつもなら人が全く居ない狭いビル街の間の路地に、珍しく人が居る。勇吾は興味をそそられ目をやってみる。ビルの壁を背に座って居るサラリーマン風の男、男の前に立つOL風の女。

いや、少し様子が変だ。

勇吾はビルの壁を利用して覗きを開始した。よく見ると男はスーツの左腕に血が付いている。男の顔は女が邪魔で見えない。勇吾は2人に気づかれない様に角度を変えて見た。

男は中年ぐらいの年齢だろう。何かとても怯えた表情だ。女は後ろ姿しか見えない。

いきなり女の左腕が変形して触手のようになり、女は触手を凄い速さで男に叩きつけた。何なんだこの女は?

男は痛みに声をあげ、さらに出血している。

女が不意に横を向いた瞬間、勇吾はその姿の異様さに驚いた。目が緑色に光っている!顔の肌の色がメタリックな銀色.....

女は勇吾の存在に気づいた「まずい!」勇吾は走って逃げようとするが、女は超人的なジャンプで勇吾の正面に立ちはだかる。

女は触手を勇吾の肩に突き刺し、勇吾は激しい痛みに絶叫した。

何故俺がこんな目に遭う?俺は殺されるのか?



勇吾の居る場所から100m程の場所にある30階建てのビルの屋上には、10人の集団が勇吾と緑色の目の女を注意深く監視していた。

その10人は黒い戦闘服を身を包み、各員が武装していた。

そのうち1人は小柄な女で、彼女は長い狙撃銃を構えて狙いをつけていた。

狙撃銃のスコープはかなりな遠方を観察出来る高精度な光学カメラで、緑色の目の女の頭部に赤く光る十字をマーキングしていた。

「マーキング完了。ライフル自動追尾モード。ナノマシン弾を装填済み、いつでもいいわよ」女は自信ありげに言う。

「撃て」大柄の男が命令し、女はトリガーを引いた。



勇吾が死の恐怖を感じた瞬間、何かを貫くような鈍い音が数回程聞こえた。

女の動きが突然止まる。発光する目は光らなくなった。

何が起こったんだ?

勇吾はとっさに「これこれ」とスマホを取り出し女を動画におさめる事にした。こんな奇妙な出来事だし。勇吾は触手の刺さった肩が痛んだが、この異様な光景をカメラに収めたいという欲求は止まらない。

スマホのカメラ越しに、勇吾は動かなくなった女の体にいくつもの穴が開いているのに気が付いた。穴はどんどんと大きくなり、女の体が徐々に消えていく。

何が起こっている?

数分後に女の体は完全に消滅していた。そこには奇妙な機械部品の様なものが残されている。勇吾はそれを手に取ってみた。

変形した四角い何かの装置みたいなものから多数の金属の線が出ている。線の端部には薄い板の様なものが付いている。

それが何なのかは皆目見当も付かなかったが、「まあ取り敢えず」勇吾はそれを鞄に入れた。

「そうだ!」例のサラリーマンの男の様子を見に行かないと。

男は顔を下に向けうなだれていて、スーツには血が飛び散っていた。

「あの、大丈夫ですか?」

返事がない。勇吾は手で男の顔を持ち上げて「!」 

男の顔は血の気がなく.....「死んでいる!」

勇吾は混乱した。警察を呼ぶか?でもあんな出来事を信じて貰えるだろうか?

勇吾はどう対応していいのか、あれこれ考えてみた。



突然後ろから声がした「ちょっといい?」

勇吾が振り向くと小柄な女が居て、女は黒い戦闘服みたいなのを着ている。

「君の携帯をよこして」女は手で寄越せみたいな仕草をしながら言った。

「お前を連行する」女はベルトのホルスターからハンドガンを手に取り、素早い動作で勇吾の右足を撃った。

勇吾の足には針の様なものが刺さっていて「何すんだよ!」

30秒も経たずに勇吾は歩道に倒れた。

「パスツール聞こえる、麻酔銃で眠らせたけど」

女のもとに何人かの男が集まってくる。大柄の男がうなだれたサラリーマンの顔を持ち上げて「コイツは死んでる」

男が女を指差して「その少年を車へ」

女はもう一人の男と2人掛かりで、勇吾を引きずっていった。


大柄の男はスマホを出しアプリを押して耳にあてた。

「こちらメッセンジャー」電話の声は女だった。

「こちらパスツール、ゾーグは始末した。民間人が一人死亡。一部始終を目撃した民間人を一名拘束した。指示を請う」

「少し待て」


「欺瞞工作チームが間もなく到着する、死体はそのままでいい。目撃した民間人を指定のセーフハウスまで連行しろ」

「パスツール了解」彼は電話を切り、画面のアプリをタッチした。地図が表示されて、ある地点が光っていた。

パスツールは昭和通りに向かう。そこには2台のワゴン車があり、ビルの屋上にいた面々がすでに乗り込んで待機していた。

パスツールはアプリを何回かタッチして、地図の情報を二台のワゴン車のナビゲーションへ転送した。

「よし、出発だ」彼は助手席に乗り込んだ。





日本橋茅場町 昭和通り付近


夜の19時の茅場町はちょっとした繁華街の様相があり、居酒屋へ向かうサラリーマンの群れがいくつもあった。

昭和通り沿いにある50階建てのオフィスビルへ、黒い2台のワゴン車が近づく。

1階にある格子状のシャッターが勢いよく開き、2台の車は吸い込まれる様に入っていった。

地下駐車場に入リ坂を下った横に侵入禁止の通路の入り口があり、4人の警備員が立哨している。どう見ても普通のガードマンだが、一般人にはわからないような形で彼らは武装していた。

ワゴン車の助手席の窓が開いた。警備員の1人が近づいてきて「すいません、この先は工事中の区画なので入れません」

「パスツールだ。ポラリスの指示で来た」

「今確認する」警備員は無線機で何回か会話した後「入れ」

頑丈そうまゲートが開き、2台の車は中に入っていった。


通路の突き当たりにはガラス張りの大きな部屋があり、武装した人間が何人か居た。

部屋から男が出てきて「定例のチェックをする。全員降りて部屋に入れ。武器は全て預かる」




勇吾はちょっとした頭痛の痛みで目が覚めた。

彼は完全に動けない状態で椅子に座って居た。目隠しをされていて何も見えない。手錠と足にも何かが巻きつけてあり動けない。


自動ドアが開くような音がした。誰かが勇吾に近づいてきて、勇吾を拘束しているものが全て外された。

視界が開けて辺りを見回してみる。そこは小部屋で、部屋内にはドアがいくつかある。勇吾の目の前には丸いテーブルがあり、1人の女が座って居た。

女はかなりな美人で、薄茶色の髪を一本に縛って後ろに垂らしている。薄いブルーのレンズのメガネを掛けていた。背丈は俺より少し低いくらいか?勇吾は女と目を合わせないように、女を観察してみる。

先程の戦闘服の連中とは違い女は私服で、上下紺色のスーツで下はスラックス。



「お前の携帯を返す」女は勇吾のスマホをテーブルの上に置いた。

勇吾がスマホに手をかけると「例の女が溶けてしまった動画は消してある」女は厳しい口調で言う。

勇吾はついさっき見た異様な光景を思い浮かべた。そういや俺はあの女に刺されて.....勇吾は地肌越しに自分の肩を触ってみた。包帯がしてあり、勇吾が寝ている間に治療したのだろう。

「怪我は問題ないだろう。2日もすれば治る」女は言った。


男みたいな喋り方だな。それと目線が威圧的というか。勇吾は女を横目で見ながら「家に帰りたい」懇願するような声で言った。

「ダメだ」一呼吸置いて「その件だが、いろいろ話をしなければならない」

勇吾は緊張していた。この女と先程の戦闘服の連中....何かのスパイ組織みたいなものか?


「まず」女は勇吾を睨む如く視線で「お前が見たあの異様な光景の件だ」

女の声は淡々としてはいるが、ものすごく威圧的だ。

「あそこで見た事をお前が誰かに話す可能性は高い。よってこのまま帰す訳にはいかない」


忘れろとでもいうのか?無理だ。

勇吾は自問自答した。


「お前の記憶を一部だが消去する。記憶消去が完了次第、お前は家に帰れる」

今の状況から、この女には逆らえないだろう。ここから逃げるのも無理だろうし。記憶を消すとか話がマトモじゃない。

優吾はあれこれと考えを巡らせてみたものの、結局はこの連中には逆らえないとう答えしか出ない。


「お前に選択肢を2つ与える」

「選択?」

「例の記憶を消去するか」女は不敵な笑みを浮かべながら「お前に我々の活動を手伝ってもらうという選択肢がある」

優吾は驚いた。俺がこの危険な連中を手伝う?


「記憶消去は完全ではない。記憶の前後に不整合が生じる為、少し混乱するかもしれない。だが時間が経てば問題はない」

「手伝うってのは?」優吾は恐る恐る聞いてみた。

「言葉通りだ。我々の活動をお前に手伝ってもらう。ある程度の訓練を行った後の話だが。活動内容の程度に応じて報酬も出す」


どうする?優吾は今までの出来事を脳内で反芻した。

「今すぐ決めないとダメなのか?」


「では」女は一呼吸置いて「30分だ。30分で決めろ」


「わかった」



女は部屋から出て行った。自動ドアが開いた瞬間、部屋の外には黒い戦闘服の武装した男が見えた。

そう、俺は監禁されている。


................30分は一瞬に感じられた。優吾はまだ2つのどちらにするか決めていない。

気づいたらドアが開いて、女は優吾の目の前に座っていた。

「どっちにする?」女は鋭い視線で優吾を見ながら言った。


「手伝うよ」優吾は少し投げやりな感じで答えた。

「そうか!いい選択だ霧島優吾」女の表情には喜びのようなものが感じられた。

コイツもこういう表情をする事があるのか。優吾は少し驚いた。

「今日はこんな時間だ、ここに泊まっていくしかない」女が言った。

部屋の壁にある液晶の時計は深夜の1時をこえていた。確かにこの時間なら家の鍵はしまっているし、玄関から入れば親が起きてきて.....とても面倒だし。

「お前の家には電話をしておいた。お前はクラスメートの家に泊まっている事になっている」

「凄く用意がいいな」優吾は呆れ顔で答えた。

「色々とあって疲れただろう、今日はもう寝ろ。朝の6時に起こしに来る。用意をした後は学校まで送る」

女はそそくさと部屋を出て行った。









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