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レアとクロノス 2

あの後城に戻ったわたしたちは取り敢えず指示を出した張本人であるガイアに今日の報告を済まし各々自室に戻った。


取り敢えず戦闘用の服からいつもの部屋着に着替えたレアはボフッとベットに沈み込んだ。はぁ、と無意識にため息をこぼす。


今日も彼に負けた。もちろん直接的な戦闘はしていないが倒した悪魔の数も戦闘力も敵わない。分かっている。そんな事は。しかし、どうしても彼に一矢報いたかった。


私は、クロノスが昔から嫌いだった。私たちは兄妹だ。しかし、どうしても彼のことだけは嫌いだった。クロノスは男だし体格もいい。だから力で勝てないのは当然。しかし、私も負けじと苦手な戦闘訓練や簡単な実践に積極的に参加した。私なりに強くなろうと努力しても彼はいつもの私のはるか先にいた。どんなに唯一勝っていた勉学に励んでも実践ではほとんど役に立たない。だから常に評価されるのはクロノスの方だった。彼は戦う事しか頭にない馬鹿な筈なのに。悔しかった。しかし同時に羨ましかった。だから彼の隣に、同じ高みに行きたかった。同じ高みに立って、父に、母に、そして何よりクロノスに認めて欲しかった。しかし、今日の戦闘でよくわかった。彼は、私を見ていない。自分の中の何かがガラガラと音を立てて崩れていった。分かっていた、筈なのに...。


僅かに目元に浮かんだ涙を指ですくいながらぼんやりと天井を目を見つめる。徐々に霞んでいく視界。長く伸びたストレートの金髪を指で弄びながら睡魔に身を任せるとすぐに意識は闇に沈んでいった。




自室に戻ってすぐ普段使っている斧で素振りを始めたクロノスは僅かに顔を顰めた。彼の脳裏を今日一緒に戦いに行った妹の顔がよぎる。彼女はひどく悲しそうな顔をしていた。


レアは弱い。それは誰から見ても一目瞭然で体力面は一族の中でも特にひどい。もともと女のレアが男の俺に敵うわけもなく裏でひどく悔しがっていたのを知っている。しかしあいつには俺にはない頭脳がある。ほとんどの者が戦闘において勉学は役に立たないと言うが俺はそうは思わない。現に今日、あいつのおかげで帰ってこれた。それは紛う事なき事実だ。だから俺もあいつに敬意を払って接した筈だった。しかしそれによって得られたのはいつも以上に悲しげなものだった。何故。

言い方に問題があったのか。確かにいつも以上につっかかってきたから俺も言い返した。それがまずかったのだろうか。悶々とした気持ちを振り払うように斧を横に振った。



幼い頃の夢を見た。私はいつものように勉強を終え、城の中をぶらぶらとしていた。ふと見えた庭に父と母とそして少し離れたところにクロノスがいた。私は急いで庭に向かった。そして、聞いてしまった。


「あぁ、なぜ同じ血が流れているのにクロノスとレアはあんなにも違うのか」


父の嘆くような声が耳に突き刺さる。


「仕方がありませんわ。あの子は優秀なところを全てクロノスに持って行かれたのですから。せめて男に産まれてくればもう少しましだったものを」


母の諦めたような声が耳に突き刺さる。


私は気がつけば全力で走り自室に飛び込んだ。バタン、といつもより大きな音を響かせしまった扉に背を預けズルズルと床に座り込む。そのまま膝を抱えて肩を震わせた。大理石でできた床がひどく冷たく感じた。


夢は非情にもさらに続く。


あの日から数日が経過した。私は庭に出て草花に水を与えていた時ふと、木に止まった鴉と目が合った。


アーアー、としわがれた声で鳴く。


「なんで、こんなところに鴉が...?」


私は引き寄せられるように鴉に手を伸ばした。もう少しで手が届きそうな時不意に鴉が鳴きやんだ。伸ばした手がピタリと止まる。


「随分トヤツレタ顔ヲシテイルナ、娘」


「え...?」


鳴き声と同じしわがれた声で鴉が喋った。


「ドウシタ、ソンナニ驚クコトデモナカロウ?」


異変を感じた城の者たちが走り寄ってくるが見えない壁に阻まれた。


「貴方は誰...?」


震える声で鴉に問う。


「私ハタルタロス。オ前ノ祖母、ガイアノ兄ダ」


タルタロス。かつてこの天界を裏切り戦火を巻き起こした大罪人。天界でこの名を知らない者はいない。


ひゅっ、と息を吸い込む。


「わ、私に何の用ですか?」


鴉もといタルタロスの殺気に当てられて身体が動かずひどく声が震える。カタカタと震える目の前の少女を面白そうに見やるタルタロスはつい、と視線を正面に移す。ちょうどガイアが外に飛び出してきたところだった。鴉がアー、と鳴くと先程まで鴉がいたそこには全身黒ずくめの長身の男が座っていた。男、タルタロスは身軽な動きで木から降りると震える少女の前に屈み込む。ガイアが外で何かを叫んでいる。それを横目にタルタロスはレアに優しい声で語りかける。


「お嬢さん、俺と取引をしないか?」


「取引き...?」


「あぁそうだ。難しい話じゃない。お前がほんの少し俺に協力してくれるだけでいい。協力してくれたらお前の望みを叶えてやろう」


「...本当?」


「あぁ、約束しよう」


少女の目から光が消える。タルタロスがニィ、と口を歪めた。









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