清水隆之介
吉野の教科書を全て捨てた日の午後だった。気分はあまりいいものではなく、俺ら三人は廊下で集まりそのまま一緒に下校することにした。会話はほとんどなかった。そのはずだろう。俺らは皆、学校内の者が信用できない状況にいるのだから。適当な雑談でもしようとしたものの二人は相変わらず話せそうな雰囲気にない。だから俺もただただ黙り、暇潰しに周りの景色を見回しながらあるいていた。カップルが多いな。別に羨ましいとか嫉妬の類いの感情は沸き上がらないが、校門前にいる教師までもが若い女と楽しげに話している。いつも通りの通学路をいつもとは少し違った雰囲気で戻っていく。電車に乗ったとき、俺らはようやく口を聞けた。一番最初に口を開いたのは永山だった。
「ねぇ、俺らこれからどうなっちゃうの?結局犯人の尻尾すらつかめてないじゃん。」
「このままじゃやばいのは確かだよね。」
俺の両隣で二人が話している。俺はもともとそんな話さないし二人の話を黙って聞くことにした。
「とりあえず今日僕んち来なよ。誰もいないし落ち着いてはなそ」
「山ちゃんちか、おっけー。隆はそれでいい?」
俺に話がふられた。
「んあぁ。いいよ。」
あとは特に目立った話はなかった。あの件についてはあまり外で話したくないのもあった。いつどこで犯人が聞いてるかわからない。もしかしたら今目の前に座ってるこの細身の男性が犯人かもしれない…。考えすぎか。
電車を降り、山久の家へ向かってる時のことだった。相変わらず話題を切り出すのは永山だ。
「なぁ、これ店に自主しちゃえば済むことなんじゃない?」
「そんなんぜってぇしねぇ」
この話題に俺は咄嗟に口を開いていた。
「どうしてだよ!このまんまじゃ犯人の言いなりじゃないか!」
「正体暴けばいい話だ。自主は絶対しない。」
「こんなん変だって!今言えばきっと許して―」
山久の話が急に途切れた。鈍い音と共に。ふと横を見ると永山は肩を押さえ、その足元には男が転がっている。息が切れていることからおそらく相手が反対側から走って来たのに永山が気付かず衝突したのだろう。
「いてて…。ごめん大丈夫かい?」
「まぁ俺は。お兄さんは?」
「あぁ。大丈夫大丈夫。ほんとごめんね!じゃあ急いでるから!」
男は走り去っていった。
「詠斗、大丈夫?」
「うん…まぁ。」
永山とのあの話題が上手い具合に切れた。あの男様々だな。
山久の家につくと、やはりこの話題になった。俺らに数日まえ、ある写真と手紙が送られた。俺ら三人が万引きをしている写真と「吉野正和を無視しろ」という内容の手紙だ。ほんのちょっとゲームのつもりでやった万引きを餌にされるとは。なんともなさけない。二人はなにか話しているが俺はその内容を全く聞いていなかった。犯人は誰か、必ず突き止めて後悔させてやると思っていた。
「詠斗ずっと肩押さえてんじゃん。痛むの?」
「うん。ちょうど鞄かけてた方だったから余計に…」
そういえばあの当たった男。どこかで見たな…あの細身の…!!!!
「俺は…バカか…」
「どしたの隆之介。いきなり」
「おい!永山!!鞄貸せ!!」
「なに隆。いきなり」
「いいから貸せ!!」
鞄の中をあさり、背筋が凍ると共に顔がにやけた。
「やっぱり…」
「詠斗なにそれ。なにもってんの?」
「いや、これ俺のものじゃないよ。」
「盗聴器だよ」
二人はずいぶん驚いた様だった。
「あぁ。さっきあの当たってきた男が入れたやつだ。」
「まじでかよ…じゃああいつが犯人?」
「その線が高いな…。おい聞いてるか。もう顔は割れたんだ。絶対突き止めてやる」
そう言って俺は盗聴器を壊した。