表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

No.6 心の違和感

「そんな、ご主人様のお車でなんて...」

「いいんだ、遠慮しなくて。それに、車のほうが安心だろう?」

「...確かに、そうですが...」


少し遠くから、誰かの会話が聞こえる。


その声に、うっすらと目を開ければ、窓からは明るい光が差していた。


「...寝てたんだ」


ボソッとつぶやく。


__昨日、あの後疲れて寝たんだ。

死ぬほど泣いた気がする。


しまった、完全に黒歴史だ。


「私鶴、おはよう」

「っ、あ、おはようございます、お父様」


突然声をかけられ急いで振けば、ドアにもたれ掛かる父と目が合った。

そして、その隣で、秋斗は眉毛をハの字にしている。


「おはようございます、私鶴様」


ハの字の表情を緩めて、丁寧に腰を曲げる秋斗。


私と秋斗の仲を知っている父の前であっても、秋斗は執事として私を相手するのだ。


なんとも言えない気持ちではあるけど、父の前なのだから、仕方ない。


「えーっと...何のお話をしていたんですか?」


車がどうとか言ってた気がする。


「あぁ。今日の学校祭、電車で行くと私鶴がはぐれてしまうだろうから、車でいかないかと、秋斗君を説得していたところなんだ」


そういって父は、ちらっと秋斗を見る。

秋斗はまた、眉毛をハの字にして「う、うーん...」と唸っている。


「た、確かに、私が電車に乗ると迷子になる確率は100%だと思います...」


自分で言って恥ずかしいんだけど。


父は少しあきれたように笑って、「小さいころ、よく迷ったものだ」と懐かしそうに目を眇めた。


「秋斗、車でいこう?学校の手前に止めてもらったら、変な目も向けられないしさ」

「秋斗くん、私鶴もいいと言っていることだ。ここは厚意に甘える、ということを覚えるべきだと思うぞ」


にこりとやさしく笑う父を見て、秋斗は少しばかり申し訳なさそうに、腰を曲げた。


「それでは、ご厚意に甘えさせていただきます」


やっと納得した、というように、ひとつコクリとうなずく父。


「では、10時頃に迎えがくるから、そのつもりでな」

「はい、わかりました」

「ありがとうございます」


そろってまた頭を下げて顔を上げれば、父はもう部屋からいなくなっていた。


「と、いうことなので。準備しよう」

「そうだな。...んじゃ、後でな」



秋斗が出る寸前、ふと昨日のお礼を言っていないことを思い出した。


__あんなけ話聞かせておいて、泣きまくった末に何もなしとかだめだ。


「あ、秋斗!」

「ん?」


ドアの前で振り返った秋斗は、不思議そうに私を見る。


「あ、っと...昨日、は、ありがとう。...秋斗が叶えてくれるって、...信じてみる」


秋斗は、ふわっと、マシュマロのように甘くやさしい笑顔で笑った。


「あぁ、俺が叶えてやる。もう塩漬けにするなよ」


そういって、手をひらりと振って、音無く私の部屋を去っていった。


「...違和感」


なんの違和感だろうか。


心に、心臓に、よくわからない、ギュンッてする、違和感...。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ