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No.4 __父の、「おやすみのキス」は。

「あ、お父様」


秋斗が自室に戻った後、こっそり部屋を抜けてお父様の部屋に顔を出す。


「私鶴?どうした」


ふわふわのバスローブに身にまとい、右手にワインを持って、煌びやかなシャンデリアの下でくつろいでいる父。


これぞ、大 富 豪。


「あの、学校祭のお話なんですが...」

「なにかあったのか?あぁ、そこは寒いだろう。こっちへおいで」


ひょいひょいと手招きされ、父の部屋に足を踏み入れる。


夜に誰かの部屋に出入りすることがないからか、変な感じである。


「それで、なんだい?」

「あ、えっと...実は__」


秋斗との話をまとめて父に話すと、父は笑顔で「それはいいね」と頷いた。


「確かに、少しばかり危ないと思っていたんだ。それに良い機会だ、あの子もきっと窮屈な思いをしているだろうから、一緒に行って来なさい」


父は机の引き出しからチケットをぺらりと出してきて、私の手にひらりと置いた。


「ありがとうございます」

「あぁ。秋斗の休みは私が許可をするから、気にしなくていい」


そう言ってニッコリと、満足げに笑う父。


「はい」

「妻に見つからないように、そーっと帰るんだよ」


言われなくてもそうしますよ、お父様。

お母様に見つかったら何を言われるか分かったものじゃない。


「おやすみなさい、お父様」

「おやすみ、私鶴」


優しいキスを、私の額に落とす。


__父の「おやすみのキス」は、小さい頃から大好きで、...いつだって、安心する。


******


鮮やかな日常はすらすらと流れて、もう、明日は日曜日。


******


『お嬢様、少しよろしいですか?』

「構いませんよ、どうぞ」


ベットに寝転がったまま、ドアの向こう側に返事する。


ゆっくりドアが開き、ふわりと銀髪が覗く。


「失礼します、私鶴様」


ぱたりとドアを閉めてから、銀髪の主、秋斗が上品に頭を下げた。


...ん?いやまって。

いつもなら「ふう...」とか「はぁ...」とか凄い不幸せそうなため息をついて入ってくるのに...何事?


「あきtぐぬぬぬううう!?」

「お茶をお入れしようと思って来たのですが、余計...だったでしょうか?」


秋斗は私の口をふさいだまま、丁寧な口調でそういった。


そして、私の耳元に顔を近づけ、「お母様が廊下で俺を見てた。だから今は執事とお嬢様だ」とささやく。


なんだそう言うことか...なるほどね...って


『先に言えよ。』

『仕方ないだろ。とにかくそう言うことだから」


小声のやり取りの後、秋斗はふさぐ手をどけて、私をベットに座らせた。


いや、そこまでしなくていいと思う。ってか今重かったと思う。

全力でごめん。


「ええ、丁度ほしいと思っていたの。今日はカモミールティーをお願いできますか?」

「はい、大丈夫ですよ。かしこまりました」


秋斗はスッとすばやく立って、一度頭を下げてから部屋を出た。


「はぁぁぁ....」


...秋斗とまで、こんな風に会話するのが、辛くて仕方がない。


__秋斗と私が、執事とお嬢様の関係じゃなくて、普通に、先輩と後輩の関係なら、どれだけ楽しかったんだろうか。


...部活友達だったら?塾友達だったら?


思うだけで、楽しい。


けど、思うだけじゃ、現実にならなくて。


「...寂しい」


結局、この答えが私の元に、返ってきてしまう。

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