No.18
「はじめまして、私鶴さん!笹山家の三男坊、笹山楓です!」
とても嬉しそうに自己紹介をする楓くん。
顔は秋斗そっくりだけど、性格は真反対に近いのかなぁ。
「はじめまして、葉つめ私鶴です」
ぺこりと頭を下げると、楓くんは「女の子が男に頭下げるのは浮気した時だけだよ!!」と言って、慌てだした。
う、浮気、浮気ですか楓くん…。
「そ、そうなんですか…?」
「私鶴、真に受けるなよ」
「楓ちゃーん…初対面の女性になんちゅーこと言ってんの。アホか」
秋斗と朱羽さんは、心底呆れたと言うように、首を振る。
そんなやりとりが、私には微笑ましくてならない。
「うふふ…仲いいんですね、皆さん」
「ちっがーうよ私鶴さーん、こいつら僕を小馬鹿にしてるだけなの〜」
「楓ちゃん、お兄様に何言ってんの?」
半笑いの朱羽さんは楓くんのこめかみをぐっと抑えて、ぐぐっと圧を加え始める。
うわぁ…痛そう…。
「い、いや、ちが、痛い痛い!!こめかっっ、…」
「あ、死んだ」
こめかみを抑えてソファに突っ伏する楓くん。
「んもー帰ってきて早々なにやってるの〜。ほら、ご飯できたから運んでちょうだい」
「あ、はい!」
「はいは〜い、ほら楓ちゃん、お手手アライナサーイ」
「バカにしでるだろ貴様…」
…多分、なんだかんだ楓くんは朱羽さんと秋斗こと好きなんだろうなぁ。
馬鹿とか言ってても、その実、声が楽しそうだ。
「ごめん、騒がしくて」
机にお橋を並べる私のそばで、秋斗がぼそりと言う。
「ううん、全然。むしろ楽しくって、なんだか嬉しいの」
「嬉しい?」
「うん。…家でこんな会話、したことなかったから。すっごく嬉しい」
「…そうか。なら、よかった」
秋斗は目を細めて、ふわりと笑う。
瞬間、どきっと、心臓が跳ね上がった。
銀の髪が笑った不意に揺れて、きらきら見えてしまう。
と、同時に。
家を出る前に、秋斗から受けた口づけを思い出してしまった。
「は、あ、あ…」
「どうした?」
「な、なな、なんでもない!!」
急いでキッチン戻り、おかずが乗っているお盆を掴む。
そのまま下を向いて、口をキューっと噤んだ。
…このまま秋斗と話してたら、変なことを言い出しかねない。…私が。
「私鶴ちゃん?どうしたの?」
「はっ、はい!いえ?!ななにもないでぬ。…ないです。あは、あはは…」
動揺の仕方が半端ではないが、あえて私は気づかない振りをする。
…断じて動揺なんかしていない。
「私鶴ちゃん」
「はい!?」
「そのおかずで最後よ〜」
「ああ!!は、はははいはいはい!今お持ちいたしますね!!」
慌てて運ぶ私を見て、秋斗のお母様はクスクスと笑う。
なぜ笑われているのか…。
「申し訳ないけど、私鶴ちゃん。優さんと楓を隣の部屋から呼んできてくれるかしら?」
「え?!あ、私が、ですか?」
「ええ、うちの家の間取りも、少しは把握してもらわないとね」
「そ、そうなんですか…?えと、じゃあ呼んできます。右隣の部屋で大丈夫ですか?」
「そうよ〜、よろしくお願いしますね」
やんわりとした秋斗のお母様の声を背にして、リビングを後にする。
リビングが涼しかったから気づかなかったけど、…私今すごい顔熱い!!
思わず頬に手を添える。
右の頬はいつも通り、自分の肌の感触。
でも、左の頬は、自分の肌の感触じゃなくて。…さらさらとした、ガーゼの感触。
「…忘れてた。…触れないようにしてくれてたんだ」
誰1人として、このガーゼのことを聞かなかったし、爪も絆創膏だらけなのに気に留めたりしなかった。
本来なら、「怪我してるのに!」って怒るとこなのかもしれないけど、今の私には無視が一番ありがたい。
「申し訳ないことさせちゃったなぁ。」
それでなくても、よその人間には気を使うだろう。
その上、こんな格好を見せられて。
そう、もんもんと考えていた時だった。
「私鶴ちゃん、入っておいで」
おそらく、リビングの声が聞こえていた優さんは、部屋の中から私を招いた。
「あっ、はい、失礼します…」
そーっと扉を開ける。
…その部屋にはベットが2つと、中型のテレビが1台。
なんとも簡素で、こじんまりした部屋だった。
「もうご飯かな?」
「はい、なのでリビングに…」
「了解しました。だけど、ちょっとまってね」
そういうと、優さんは備え付けの棚を開いて、直方体の箱を取り出した。
「ガーゼが剥がれてきてるから、取り替えようか」
優さんの指摘で、はじめてガーゼが取れてきていることに気づく。
…さっきは、自分の手のひらを押し付けるように触ったから、全然気づかなかった。
「すみません…」
「いいんだよ、バイ菌が入ったら大変だからね。こまめに変えないと」
優さんは私を手招きして、棚側のベットに腰掛けるように促した。
「あ、あの!…自分で、やります。お世話ばかりかけていられないですから…。」
「んー…。まぁ、うちには女の子がいないからね。新鮮で楽しいから、気にしなくていいさ。それにね、私鶴ちゃん」
ガーゼを半分に切りながら、嬉しそうに顔を綻ばせる優さん。
「僕は、私鶴ちゃんのお父さんから、直々に仰せつかってるんだ。…娘をよろしく頼む、ってね」
…娘を、よろしく頼む…?
お父様が、優さんに?
いやまって、そもそもお父様は婿養子だから、元々すごく大きな財閥の人ではなかったし、パーティーに出席するのはお母様だけ…だよね?
きょ、共通点すらない!!!!
「はははっ、びっくりするよなぁ。本人ですらびっくりしてたよ」
「お、お父様が、ですか?」
「ああ。覚えてるかい?半年前にあった記念パーティーのこと」
半年前のパーティー__某有名財閥が経営するx会社開業60周年記念を祝うパーティーのことだろう。
その頃には、優さんと私は出会っていた。
…そういえば、このパーティー、丁度お母様が体調不良で代わりにお父様が出席したパーティーだ…。
「なんとなーく想像はついてるだろうけど、あの記念パーティーで燈波と交流を持つようになってね。その時は少し話をして、連絡先を交換しただけだったから、どこの財閥の人間か知らなかったんだ。君のお父さんはめったにパーティーに来ないしね。」
母が父を嫌っていたため、自分がどうしても出席できないときだけ、父を出席させていた。
だから父は、学校の経営者としては有名でも、財閥のは中では全く知られていない存在と言っても過言じゃない。
「それから、そのパーティーから2ヶ月くらいして、プライベートな食事に誘ったんだ、妙に話の合う人だったからね。そこではじめて、葉つめ財閥の人間だということを知った。まぁおっさん2人の居酒屋飲みだったのもあるけど、燈波は直感的にすごく信頼できる人だと思ったから、僕のことも大まかに話して見たんだ。そしたらアイツ、ものすごく驚いてねぇ…。もちろんその時に秋斗のことも話した。いやぁ、居酒屋で深々と頭下げる財閥の人間なんて、あいつくらいだと思うよ」
少し懐かしそうな目をしながら、軽快に笑う優さん。
私は驚きすぎて笑える状況じゃないけど…。
「燈波は本当にいいやつだよ。あと、娘想いの素敵なパパ、かな」
娘想いの、素敵なパパ。
本当にその通りだと思う。
秋斗が来るまでは、私の味方は父だけだった。
母の暴走を止めることは出来なかったけど、常に私のフォローをしてくれた。
「大丈夫だよ」
「私鶴はいい子だね」
「泣かないで、私鶴。」__
そうやって、抱きしめてくれた。
「…はい。お父様は、本当に、素敵な人です」
「うん、本当に。…話を戻すけどね」
父との思い出に浸る私をちらっとみる優さん。
あ、話が脱線してる!!
「すみません…脱線してしまいましたね。…続きをお願いします」
「了解。あの日以来、僕も燈波も忙しくてね、連絡を取っていなかったんだ。それで、今日のお昼頃だったかな…。早急に、私鶴ちゃんを匿って欲しいって連絡が来たんだ。正直、言われた直後は、え?ってなったんだけど、事情を聞いたら本当に緊急事態だったから、私鶴ちゃんを連れ出して匿うことになったんだ。…怪我をしてるとは、思わなかったけどね」
…ということは、助けてくれたのは、お父様、だったの…。
何に対してか分からない涙が溢れる。
私は、愛されている。
父に、心の底から愛をもらっている。
そのことへの涙なのかもしれない。
けれど多分、これは、私を受け入れてくれた笹山家の暖かい心に対してだろう。
「泣いたら綺麗な顔がべたべたになってしまうよ」
優さんは、手持ちのハンカチで私の涙を拭う。
「君を救うことが出来て、本当によかった」
温かい優さんの笑みに、思わず私まで笑顔になる。
…ねぇ、秋斗。
あなたのお父様は、本当に素敵なパパね。
私のお父様に負けないくらい、素敵な人。
「さあ、お腹がすいただろう?リビングに行こうか」
「あ…あの、楓くんは…」
「ん?あぁ、あいつは風呂入っていったから、もう先にリビングにいるんじゃないかな」
「そうでしたか…」
優さんのあとから部屋を出る。
リビングからは、朱羽さんの笑い声が聞こえる。
「…こんな空間でご飯をいただくのは、初めてかもしれないです」
「嬉しいかい?」
私の顔をのぞき込む優さん。
私は満面の笑みを返した。
「はい!とっても!」
早くなった!!!!(うるさい)
楓くんはちょっとナルシストボーイな設定です。…だけど実はシャイなの(小声)
次の話から場面が多分動きます。いや、嘘かもしれない。
とりあえずお楽しみに!




