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No.16

ずいぶん遅くなりました、最新話です。

ご覧くださいませ!

玄関を入ってすぐ、朱羽さんが陽気にすりガラスの扉を開ける。


「たーだいま~」

「ただいま」

「お邪魔いたします...!」


秋斗の次に部屋へ足を踏み入れる。




オレンジの優しい光に包まれた、おそらくリビングルームと思われる部屋。


真っ白のソファには、1人、見覚えのある男性が、またこちらも秋斗と似た笑みを浮かべて座っていた。




「おかえり、秋斗」


「ただいま、親父。久しぶり」





__秋斗の、お父様。


本当に飯島さんだったんだ...。





パーティーの時とは違い、セットしていない髪はわりと幼めな印象をさらに濃くしたように感じる。



けれど、雰囲気は秋斗とそっくりだった。




「私鶴ちゃん、久しぶりだね」


「お、お久しぶりです、すば...えっと、優さん」




呼びなれない本名に戸惑いを覚えつつ、優さんの下へ歩み寄る。




「この度は、ご迷惑をおかけします」


「いいんだよ、助けたいと言い出したのは秋斗だ。むしろわけの分からない状況に引っ張ってきてしまって申し訳ないと思ってる」


「そんな!...助けていただいて、感謝しています。あのままあそこに閉じ込められていたら、私もうぬいぐるみか何かになっていました。...本当に、ありがとうございます」


改めて深く、深く、頭を下げる。


...一生感謝し続けていかなければならないくらいだ。

秋斗にもだけど、このご家族皆さんに。...執事の皆さんに。


「常ながら僕も気になっていたんだ。パーティーに来ると、いつも暗い顔をした君がいた。取締役としては放っておけなくてね。しかも秋斗の主人にあたる人のお嬢様だ、きっと秋斗も気にしているだろうと思ってな。まぁ案の定、ヘルプの電話がきたわけだが。なぁ?」

「そうね、あの時はいつになく真剣だったから、私たちも身構えちゃったわ。それだけ大切な人ってことなんでしょうけどね?」


ずっと考えてくれてたんだなぁ...。


私は秋斗に、なにもしてあげられてないのに...ね。


「余計なこと言うなよ...」

「秋斗ぉ?照れてんの~?」

「うるさい」


朱羽さんにからかわれつつも、私の屋敷では見せない、困ったような、照れたような笑をみせる秋斗。


本当はこうやって、色んな表情を見せる人なんだと思う。

そんな人を取り込んでしまったのは、葉つめ家最大と言える失態であり、母の暴君さがいやにでも伝わってくる。


「私鶴さん」

「はい、なんでしょう?」

「そんな暗い顔なさらないで、笑って?私、あなたの笑った顔を見てみたいわぁ」

「...笑った顔、ですか?」


そんなに私の表情はこわばっていたのかと、初めて気づく。


...感謝の気持ちで一杯なのだけれど、その分申し訳なさも同じくらい一杯で、どうにも笑えないのだ。


ここの方々は皆素敵に笑ってくれるのに、どうしてなんだろね、なんて...。


「そうだ、いいものをあげよう」


そう言って、クローゼットへ向かう優さん。


開いて少しごそごそしてから、「あったあった」と嬉しそうに笑みを浮かべた。


「いいもの?」

「あぁ。僕も先日思い出したんだ、この手紙のこと」


優さんはクローゼットから持ってきた、一枚の封筒を私に手渡した。


薄いブルーの封筒には、"母さん.父さん.兄貴.楓へ"とひっそり書かれてる。


「去年、秋斗から贈られてきた手紙なんだけどね」

「あら、この前やっと落ち着いて読んだ手紙じゃない」


秋斗のお母様は頬に手を当てて、「秋には悪いことしたわねぇ」と少し眉毛をハの字にした。


...秋斗からの手紙、ってことか。

ちゃんと秋斗もそういうの出してるんだなぁ。親孝行でいいことだ。


「あー...、私鶴。覚えてるか?俺がミッフーのぬいぐるみあげた時のこと」

「ミッフー?うん、誕生日にくれたよね」


残念ながら塩漬けにされてしまったが...。


でも、そういえば物凄く嬉しかったなぁ、あの時。


誰かからプレゼントをもらうことなんかしょっちゅうだったけれど、秋斗からのプレゼントは一味も二味も違った。


心が温かくなって、何度「ありがとう」と言っても、伝えきれないほど嬉しかったのを覚えている。


「あの時写真撮ったろ、二人で」

「うん、私がどうしてもってごねたから...」


あんなに嬉しい思いをしたのは初めてで、どうしてもその嬉しさを写真に残しておきたかった。

だから、"お嬢様のわがまま"ということで、写真を撮ってもらったのだ。


けれど、その写真は私の手元に届くことなく、デジカメに収まったままだった。

なにせ、そんな写真が母に見つかってしまえば、秋斗はクビを切られてしまうから。


「ふふっ、きっと秋斗もまんざらでもなかったと思うわよ?なんせ、こんな顔めったに見せないもの」


そう言って、封筒から一枚の写真を取り出した。



__そこに写っていたのは、あの時の、ミッフーをもらったときの写真だった。



「え...?」

「どうしても現像して、母さんたちに見せたかったんだ。...俺は素敵な人のそばで働いてるって。だから大丈夫だって」


写真に写っている私は、ミッフーを抱きしめて、今世紀最大と言えるほど幸せそうに笑っている。

秋斗はその隣で、"執事"としてではなく、"笹山秋斗"という一人の男性として、はにかんでいる。


...あぁ、なんて、なんて懐かしい。


今でも思い出せる。この時私は、最大に幸せを感じていた。

プレゼントをもらったことももちろんだけれど、それ以上に、秋斗という存在が自分の隣に確実にいることに、幸せを感じていた。


「実は、手紙と写真にきちんと目を通したのは2,3ヶ月前のことなんだ。封筒が送られてきた頃、少し財閥間でトラブルがあってね。毎日どたばたと忙しいもんだから、当初見たときはあまり記憶に残っていなかったんだ」

「そうねぇ、ちょうど花むろ財閥の要件だったかしら」


花むろ財閥。


その名前を聞いた瞬間、背筋が凍りつくような感覚を覚えた。


「花むろ、財閥...」

「あ、おい、かあさ」


秋斗が私の表情をみて、お母様の言葉をとめようとした。


けれど、秋斗のお母様はわざとらしく、秋斗の制止を無視して、花むろ財閥のトラブルをつらつらと話し始める。


「花むろ財閥のトップ、花むろ報杜ほうとがマリアーナ学園の経営権を握ろうとしていたのよ。」


秋とのお母様は、細かいことは省いて、大雑把に説明を広げた。


話としてはこうだ。


花むろ財閥がマリアーナ学園の経営権を狙っていたことは、わりと前から財閥界では有名な話だった。しかし、そもそもマリアーナ学園の経営者、つまり理事長にあたる人物がずっと伏せられたままだったこともあって、正式な取引、つまり笹山財閥の仲介を通さずして経営権の譲渡が行われそうになったという。

私立の学校にあたるわけだから、それなりに利益を含んだものではあるのだが、不正な取引で譲渡してしまうと学園の生徒やその生徒の財閥に大きな負担__的外れな必要費・建物の改造上で発生する手抜き工事による経費削減・財閥間のトラブルによる生徒の強制退学__をかけるため、禁止されている。

だから、必ず笹山財閥の仲介により、正式契約を果たして、譲渡されなければならない。

それを花むろ財閥は、「なんのことでしょうね?」とでも言うように涼しげに無視を決め込んだせいで、笹山が裏調査に走り回るはめになった。



「まったく、自分勝手なものよね。だれが仲介役やってやってるの?ってしかってやりたくなるわぁっ」

「おふくろ落ち着いてー。それは俺も思うけどね」


朱羽さんは向かいのソファでごろんと横になったまま、秋斗のお母様に同意した。


...前々から、花むろ財閥を良い財閥だと思ったことはなかった。


パーティーでは、花むろ財閥のトップとその奥様、そして息子の喜一きいちが参加している。

本来、葉つめ財閥ほどの大きな財閥には、挨拶こそはするが親しく話し掛けることなどしない。こちらから話しかけるのは別だが。


しかし、花むろ財閥は、怖いもの知らずというか常識知らずというか、葉つめ財閥の、しかもあの気の強いお母様をいとも簡単に引き込んでいった。


おそらくお母様が引き込まれていったのはちょうど去年ほどのことだったと思う。


こんなにも怖いもの知らずな財閥のくせして、葉つめ財閥以外にはでかい態度をとっていることを、私は知っていた。

いつもボーっと周りの財閥を見ているわけだが、ただ見ているだけではない。きちんと観察している部分だって多少はある。


だから、わかるのだ。


花むろは何か企んで、葉つめを取り込もうとしていると。


そしてその飛んだ火の子を浴びたのは、私だった。


...婚約の話が来たときは、「あぁ、やっぱりか」なんて思ったのも確かだ。

なんとなく予想はしていた。


幾度となく花むろと会食だのなんだのとしているお母様を見ているうちに、その日はいつか、なんの前触れもなく私に降り注がれるのだろうと。


「母さん...。私鶴は、花むろの息子との」

「秋斗、いいよ。なんとなく知ってる。マリアーナ学園のことはさすがに知らないけど、大体察しがつくもんだよ。花むろは、はなから葉つめの"財力"がほしいだけなんだってば。だからお母様を取り込んだ。まぁ元々暴君で自己中でどうしようもないお母様だから、簡単に取り込まれちゃったんだけど」


バカみたいな母親である。


なにを簡単に取り込まれているのだろうか。

もしかしてわざと?...そんなことはあるまい。


バカな大人ほど、わざと、だなんてそんな計画深いことできやしないのだから。


「私鶴さん。...ごめんなさいね、こんな話をして。でも、悪気があってしたわけじゃないのよ。あなたの事情はすべて把握しているわ」

「え...?」


驚いた。


どうして知っているのだろう?

婚約の話はどこにも漏れていないと聞いた。

それが決まったら、盛大に発表すると言っていたのもある。


「ちょっと裏の情報でね。わざとこの話をさせてもらったよ。私鶴さんが花むろとの婚約話を受け入れるとは到底思っていないが、もし無理にでも受け入れるつもりならと思って、話してみたんだ。」


そういうことか、と、納得がいった。


わざわざ私のために、私が暗い顔に戻ってしまうのを分かっていながらも、少し遠目からこの話につなげてくれたのだ。


「ねぇ、私鶴ちゃん。婚約の話、どうする?俺たち、ここまで連れてきたことには何も後悔してないんだけど、今後のことは俺たちの一存じゃ決められない。...私鶴ちゃんが決めたことには、全力で手を貸すよ」


朱羽さんは、ソファから起き上がって、真剣にそういった。


...確かに、朱羽さんの言うとおりだ。


ここまでしてくた笹山家の皆さんにも、執事の皆さんにも、とてもとても感謝している。

だけど、それだけで終わってはいけない。


それ以上を、決めなければ、なにも始まらない、終わらない。

弟くんの名前は「楓」で決定いたしました!((パチパチ

皆さん秋生まれなんですよ、うふふ。

まぁ作者は秋花粉のせいで秋が苦手なんですけどね!!


コメント、お待ちしております♪

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