表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

No.13

「よし、完璧だ」


等身大の鏡の中に、お嬢様じゃない私が立っていた。


後ろでは、秋斗が満足そうに笑っている。


「...ねぇ、秋斗」

「ん?」


たったまま、秋斗に問いかける。


「秋斗、分家に行くの?」

「...もう言ったのか、あの人。ぎりぎりまで言わないって言ったのに...」


心底気分を害したとでも言うように、大きく舌打ちをかます秋斗。


表情は、さっきと打って変わって険しい。


「...もう、決定事項なんだよね」

「それ自体はな。だけど、俺は分家に行く気なんてないけど」

「でも、分家に移らないとクビでしょう?」


鏡の前に座り込めば、秋斗はこちらを向いて、鏡越しにおいでおいでして、


「床冷たいだろ。隣座れ」


促されて、秋斗の隣に腰掛ける。


秋斗の手がぽんっと、私の頭に置かれた。


「葉つめ家から離れるよ。ここで働かしてもらって、貯金もかなりあるし、一人暮らしでもしようかなって思ってる」


...現実的だなぁ、秋斗。


私も、見習わないといけないのかな。


...いけないのかな。


「そっか。うん、その方がいいよ」


私がただ普通に、肯定したからだろう。


秋斗は驚いて、黙ってしまった。




沈黙が、私たちの間を、ゆっくりと流れる。




「...外は明るいのに、あんなに楽しいのに、どうしてここは、こんなにも楽しくないんだ」


沈黙が怖くて、つぶやいただけなのに。


涙が、ひとつ零れ落ちた。


「私鶴...」

「なんで私、こんな家に生まれてきちゃったのかな...。私も、自由になりたいのに...」


すべてお母様に決められる人生を、私の人生だと言えるのだろうか。


今まであたえられた選択肢は、ドレスの種類のみ。


それ以外の選択肢は、一度もあたえられたことがない。


「なぁ、私鶴」

「なに...」


涙で滲んだ視界に、秋斗が映った。


...直後、時が、止まった。


「んっ...」


ゆっくり、目を閉じる。

また、涙が溢れる。


よくわからない感情が、私の心ではじけたような気がした。


__まるで、王子様のキスで、目を覚ました白雪姫の気分。


「あ、あき、と...?」

「私鶴、俺と一緒に、家を出ないか」


キスをして、優しく抱きしめられて、耳元で囁かれて。


もう完全に放心状態の私に、まだ追い討ちをかけてくるのか、こいつは。


...なんてやつだ。


「家を出る...?」

「あぁ。一緒に家を出て、2人で暮らそう」


冗談の声ではない。本気の、真面目な声音は、私の心に、痛いほどしみた。


「で、でも!!...でもね、秋斗。私、」

「花むろ財閥の息子と婚約しちゃった、か?名草から聞いた。明日顔合わせなんだろ?」


...名草さんは、いったい母と私のどちらの味方なのだろうか。


「...うん、だから結局無理なんだよ...」


どの方向を向いても、母がいる。

母という、大きな壁がある。

 

秋斗は、不意に立ち上がって、私のほうを向きなおした。


「じゃぁ勝手に出て行っちゃえばいい。だから着替えさしたんだ」


いとも簡単に、言い放った。


「え、え?!」


腕を掴まれて、強制的に立ち上がる形になった。


体制を崩して、秋斗によっかかる。


「ど、どうしたの?!」

「行こう。俺たちにはたくさん味方がいるんだ」


秋斗は、おもむろに携帯をいじってから、私に、出かける準備をするように指示をした。


意味が分からないまま、ただ言われた通り動く。

私がカーディガンを羽織った直後、ガチャッと、部屋の鍵が開く音がして、静かに扉が開いた。


入ってきたのは、春さんだった。


「失礼いたします、私鶴様」

「春さん...?」


春さんは、少し大きめの鞄とジャケットを抱えていた。


「春、ありがとう」

「気にしないで、秋。...あとは任せて」

「ああ」


秋斗はジャケットを羽織って、鞄を肩にかけた。


そして、私の手を握った。


「外へ行こう」


引かれるままに、家の廊下を歩く。

ところどころ、廊下の曲がり角に、この家で働いてる人達が立っていた。


『俺たちにはたくさん味方がいるんだ』


秋斗の言葉を思い出す。


やっと、意味が分かった瞬間だった。


玄関までくると、ドアの前には、父が立っていた。


「お父様...!」

「私鶴」


目を細めて、優しく笑う父。


「秋斗、私鶴を頼んだよ」

「はい。お任せください、燈波様」


秋斗は、深く頭を下げる。


「お父様、あの、」

「私鶴。...お前は、私の、愛する娘だ。世界で一番大切な人だ。...だから、私はお前が、幸せになってくれることを、一番に願ってる」

「お父様...」


父の手が、私の頬に触れる。

暖かくて、たくさん、愛のこもった、父の手。


「愛してる、私鶴」

「...私も、愛しています...お父様...」


涙が溢れ出す。


視界がどんどん、歪んでいく。


「...時間が無い、秋斗」

「私鶴、行こう」


父が扉を開けると、秋斗は私を引っ張って、玄関を飛び出した。


夏に近い秋の夜は、少しだけ肌寒い。


満点の星空の下、2人そろって、駆け抜けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ