No.1 久しぶりの、外。
お久しぶりですん!!みてやってください!!
「あぁ、私鶴。ちょっといいか」
「はい、なんでしょう?お父様」
リビングに向かう途中、だだっぴろい廊下で、ここの大黒柱に呼び止められる。
「私鶴、今度の日曜日はなにか予定があるか?」
「今度、ですか...少し失礼します」
ケータイを取り出して、最近入れたカレンダーアプリに目を見やる。
日曜、は・・・食事会もないな。映画もない、お茶会もはいってない。
「丁度空いています」
「お、そうか。なら、うち主催の学校祭へ来てみないか?」
父はひらっと紙を取り出して、私の前へ差し出した。
その紙には、でかでかと【 聖洋高校☆学校祭 】とかかれていて、一目見て学校祭のチケットだと認識できた。
「お父様、このような取り組みを始めたのですか?」
去年にこんな行事はなかった。
・・・今年から、というのも中々不思議なものだが・・・。
「いや、毎年やっていたんだ。だが毎年、私鶴はこの時期忙しそうだからね。今年は珍しくゆっくりしているから、来れるかもとな」
口角をニッとあげて、楽しそうに笑う父。
それなりに美形な父は、笑うととてもカッコいいと定評がある。
「どうだね?」
「行ってもよろしいのでしたら、ぜひ行ってみたいです」
__学校祭と呼ばれる行事は、私が通う学校にはない。
なんせお嬢様学校だ。学校祭なんざやってられない。
と言っても、月に1回沖縄旅行とか海外旅行とかあるから、多分いらないんだろう。
「今週の日曜日、聖洋高校で行われるからな。10時ごろに行けば丁度いいだろう」
「わかりました。ありがとうございます、お父様」
にっこりと笑う父に一礼して、軌道を変えて部屋へと戻ることにした。
__聖洋高校の学校祭...か。
「どんな服着ていこうか」
久しぶりの、外。
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私立聖洋高等学校。
成績.校風とも一般的で、周りの学校となんら変わりのない私立高校。
ひとつ、変わっていると言えば。
日本で一番有名といっても過言ではない財閥、葉つめ財閥のトップが経営している、ということぐらいだろうか。
そして、その葉つめ財閥のトップ。
さきほど私にチケットを渡してくれた、それなりに美形な私の実の父、葉つめ燈波のことだ。
財閥、つまり金持ちの経営だからと言って、校舎をきらっきらにしたわけでも、金で塗り固めたわけでもない。
私、葉つめ私鶴の父は、自分の権力を振りかざすことと、財閥だからと金をおおぴらに使うことを嫌っている。
だから、きらきらした校舎ではなく、優秀な人材ばかりではなく、成績.校風とも一般的なのだ。
私はというと、この聖洋学校には通っていない。
母の一存で、隣町のお嬢様学園、マリアーナ学園へ通っている。
母は、父が経営する聖洋学校を世界で一番嫌っているから。だから、私はそこへは通えない。
「私鶴ちゃん、ご飯ができわたよ」
部屋でボーっとしていれば、母がドアの前で私を呼んだ。
「わかりました、すぐ降ります」
真っ赤なスカートを翻して、下へと消える母。
...母に学校祭のことを言えば、確実にとめられるんだろうな。
「まぁ、言わないがな」
チケットを財布にしまって、リビングへ足を向けた。