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生きていたコテツ

 生徒はみんな、ノート型の学習端末を持っている。ただのノートパソコンなのだが、学校の設備に合わせたソフトがインストールされている。一定水準以上のスペックを維持する為、学校側で一括購入して配布するのだ。

 チョークで書く時間は不効率なので、今の教師はほとんど黒板を使用しない。

 余談の際に、少し使用するくらいだ。

 秋山茜が持ってるのも、他の生徒と同じ型式のノート端末だ。あゆむが広げているのもおなじ端末だ。

 学級活動で、六Bクラスのホームページを立ち上げる事になっていた。係は、秋山茜と三谷よしはるとあゆむの三人だ。この人選には、少なからず秋山茜の政治力が影響している、とあゆむは踏んでいる。

 みんな帰ってしまったので、教室には三人を含めてわずかな生徒しか残っていない。

「最近、あまり、美薗さんと一緒にいないよね」秋山茜は言った。

「……避けられてる。見てれば分かるだろ」

「あゆむ、なにかしたのか?」と、よしはるが言った。

「なにをするんだよ? なにもしてない。向こうが勝手に怒ってるだけだ」

 秋山茜は、真剣な顔であゆむに向き直った。

「ほんとうは、何をしたの?」

「なにもしてないって言ってるだろ! なにかした方がいいの?」

 納得をしていない顔で、秋山茜は言った。

「美薗さん元気なかったよ」

「どこで会ったの?今日は補習じゃなかった?」

 三谷よしはるは、霧香のスケジュールを熟知している。

「補習、終わったみたいよ。一度一緒に帰ってから来たの」

「ゆっこ先生は?」

 あゆむは、補習の後に宮川由紀子を見ていない。いつもなら必ず教室の様子を確認しに来る筈だ。

「先に帰ったみたい。他の先生が相談室の戸締りしてたよ」

 それは、やや腑に落ちない出来事だ。宮川由紀子は生徒を居残りさせて、自分だけ帰ってしまったりはしない。なにか、理由があるのだ。

 三谷よしはるは、HPに張り付ける画像を加工していた。ディレクターである秋山茜の指示通りだ。秋山茜は学校が準備したHP作成の手引を見ながら、端末でなにかしている。たぶん、なにをしているのか、自分でも分かっていない筈だ。

「秋山さん、それぼくがやるよ。書きたい文章を言ってくれればいい」

「え、それは恥ずかしいよ。メモするから待ってて」

 秋山茜の肌は、少し汗ばんでいた。髪の毛が汗で額にくっついている。そう言えば、一度美薗と帰ってから、改めて学校に来たと言っていた。

「秋山さん、美薗と一緒に帰ったの? なにかあった?」

 秋山茜は、待っていましたと言った感じで、あゆむの言葉に食いついた。

「ふふふ、その話だよ。賞金はいただきだよ。あゆむくん」

 それほど広くないので、秋山茜の声は、教室中に響き渡った。

 部屋にいた他の何人かが、しまった、やられた。という顔で衝撃を受けている。

 秋山茜の様子がおかしいのは、たぶん、なにかの物まねだろう。

 霧香に避けられているのを知ってから、このころ秋山茜はテンションが高い。

「秋山さん、それ、もしかして『コテツ』のこと?」

「世間はせまいんだねぇ。なんと、現在の飼い主は、わたしのいとこなのでした!」

「ちょ、ちょっと待って、うそだろ、それ、ありえない」

「ぬ、いまさら約束を違える気かね、あゆむくん」

「いや、約束は守るよ。そうじゃなくて――」

 コテツは、もう、死んでいる筈だった。あゆむは確かに、コテツの墓を見た。

 どういうことだ。

 そういえば、霧香は説明できると言っていた。

 もし、コテツの生存が間違いなければ、間違いなのはあの墓の方だということになる。

 霧香は、コテツを死んだ事にして隠そうとしたのだ。他に説明ができない。

 霧香だけが知っていたのだ。

「もしかして、秋山さん、もう、美園に猫を引き渡してきた?」

「あれ、よくわかったね。一晩だけって言うから、『マーガレット』もよく慣れてたし、いとこの家でお願いして、一晩だけ貸してもらったよ」

 それで秋山茜は一度家に帰っていたのだ。『マーガレット』は、『コテツ』の今の名前だろう。オスじゃなかったのか?

 霧香は、隠していた猫を、預かって帰った。

 なにか目的がある。

 あゆむは、ゲーム端末をポケットから取り出して、電話機能を呼び出した。霧香の番号を選ぶ。

「あゆむくん?賞金は、べつに後でいいんだよ」

「ごめん、秋山さん。ちょっとだけ静かにしてて」

「え、あたし、邪魔?」

「そうじゃないよ、電話終わったらすぐ手伝う」

 秋山茜は、すこしがっかりして、自分の作業に戻った。もっとあゆむが喜ぶと思っていたのだろう。よしはるが事の成り行きを訝しげに観察している。

 なにか異変が起こっている事は、よしはるも気付いているようだった。

 呼び出し音は、回線が繋がっていないことを告げる受付音声に変わった。

 霧香は電話に出てくれなかった。

 なぜだか、あゆむは、嫌な予感を覚えていた。

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