二(編集中)
石井とは、きっちりとした関係を築いていた。
自分の無様な姿を知る相手だけに、何処かで甘えも在ったのだろうが。
男女問わず寝るのは辞めたが、売春婦の店の受付だけは辞めなかった。
変わっている、と思われたい、只の凡人の発想である。
大学生活と斯様な仕事、バンド活動の合間に時折石井と会った。
今考えれば無感情の自分が、石井という他人を好き、だったのだろう。それも本気で。
滑稽なことであるが。
よく、池袋や新宿、上野あたりで会ったり、自分の住む田舎で会ったりもした。
他愛ない話をして、別れる。
只其だけであるのだが、其だけで十分だった。
自分も石井も口数の多い方では無いから、会ってもそう盛り上がる事も無い。
また、自分は愛情表現とやらも薄く、屡々石井を不安にさせた。
其れでも石井は根気強く傍に居てくれた。
だが、幼い自分は如何に大きい愛に包まれていたか知る由も無かった。
親友の松本が、石井の面構えが好みだと唐突に告げてきたことを契機に、自分は何故か石井を思うことを辞めてしまったのだ。
新宿で会った時、自分の方から別れの言葉を告げた。その時の自分には、其れが最善であったから。
不思議な事に、石井とは言葉を交わす以外何もしていなかった。
接吻もしなければ、抱くこともなかった。
思えば、真剣になるほどそういった行為をしたくない自分がいる。
周囲にどう思われようとてんで構わぬ面をしておきながら、これである。
自分は小心者で在り、矮小な人間で在るのでしょう。
新宿から引き上げ、電車に乗って柏で降りた。
石井と別れた後、ひとりになりたくなかった。
適当に友人を捕まえ、駅で待ち合わせる。
待ち時間が重苦しく、息が詰まりそうな程に重い。
暫くすると見慣れた顔が二人此方へ歩いて来る。
笑顔を貼り付け、そちらへ足を進めながら対応する。
「急にごめんね、この辺通ったから会えたらなと思って。」
口から出任せである。共に過ごしてくれるのなら、正直誰でも良かった。
友人の菊池と早川は穏やかに迎えてくれた。
「珍しいなーって思ってね、君なら歓迎するよ」
こうして此の夜は此の二人と過ごす事に決まった。
菊池も大学生で、寮住まいであった。
寮に向かう途中、近くのコンビニで酒と軽いつまみを買って行った。
自分は強いものを一本買って、皆と店内を後にする。