グラウンドを駆ける騎士03
「ところで愛華、体育祭はいつなんだ?」
すでに一皿目を食べ終えた親父はシュシにおかわりをよそってもらいながら聞いてきた。
「む?来週の金曜日だが?」
「あら、ちょうど達夫さんが主張から帰ってくる前日じゃないですか。」
「え!?なんでもっと早く言ってくれないんだよ愛華ーっ。」
つい、忘れてたな。
「愛華、それは本当だよな?本当に来週の金曜日なんだな?」
「あ、あぁ本当だよ。」
「達夫さん、トラウマなんですね?一昨年のあれが。」
一昨年、俺は親父にちょっとした悪戯心で体育祭の前日を体育祭の日だと伝えていた。
すると親父は疑いもせずに前日学校を訪れたのだ。一眼レフのカメラを片手にとてもウキウキした顔で。そして……、捕まった。
「あれはね、うん。セコム、ついてました。」
ま、ついてなくても真っ昼間から一眼レフ構えた中年男が学校へ侵入してきたらバレると思うがな。
「でも良かったですね。あそこで愛華ちゃんが恥を耐え忍び、達夫さんを親だと言ってくれていなかったら達夫さんみたいな不審者さんは一瞬で極刑ですよ?」
「極刑なの!?俺は娘に騙されて学校へ入り、極刑にされちゃうの!?」
「あなたっ……守りきれなくてごめんなさい。せめて私が被害届けを出すから安らかに逝って……。」
「それ、守る気ないでしょ……。」
「はい。」
「相変わらずの仲が良いな、二人とも。」
「愛華ちゃん、怒りますよ?」
「いやいや、種子くん!そこ怒る所じゃないよ!?」
「悪い。冗談がすぎたな。」
「君たち、そんなに楽しい!?ねえ!俺をいじめてそんなに楽しいっ!?」
「私たちはそうでもありませんけど、達夫さんはいじめられて楽しいのでしょう?」
「いや、まあ……それは、ね……?」
「否定しろよ、変態親父っ!」
「最低です、達夫さん。」
俺とシュシのすね蹴りが同時に机の下で親父へとあたり、親父は呻きながら涙目で話題を戻してきた。
「まあまあ、とりあえず愛華、日にちは間違いないんだよな?うーん……どうしよう。」
「別にいいよ、こなくても。」
「冷たっ!」
本心なんだがな……。
かちゃんかちゃんと小さな音をさせ、最後の一口を食べると親父は「ごちそうさま」と良いながら立ち上がった。
「よし、出張期間を短くしよう!」
……。まあ、言うとは思ったが大丈夫なのか?ちなみに親父は大手企業の参謀ポジションらしい。うん、絶対配役を間違えたよな。
それに親父、行動力だけはあるから本当に短くしてしまうのだろうな。ますますもって参謀向きではないだろう。
今だってすぐ携帯をとりに自室へ行ってしまったぞ……。
「相変わらずの行動力だな……。」
「それ以外取り柄がありませんから。まあ、そこに惚れたんですけどね。」
一拍おいて二人同時にごちそうさまと言い、席をたった。 「あ、今日の片付けは私がやっておきますから良いですよ。愛華ちゃんはお風呂に先入っちゃってください。」
「ん、すまんな。では遠慮なく入らせてもらう。」
俺はさっさと自分の皿を台所へおき、風呂へと向かった。
脱衣所に入った俺はテキパキと服を脱ぎ始める。
俺が服を脱ぐ際に気をつけないといけないことは三つある。
一つ目はあくまでテキパキと速やかに着替えること、だ。自分が身につけた女物の服やら下着やらを脱ぐというのは非常に恥辱的かつ背徳的な感覚を味わうものだからな。俺自身多少は慣れたはずだが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
ちなみに自分から女物を身につけているわけではないということは主張させてもらおう。女体になったことを良いことに、自分の性癖をオープンにしているなどとは言われたくないからな。これはひとえにシュシが男物を買ってくれないからだ。やはりこれも夢がなくなるとかなんとか……。
親父のを着るという手段もあるにはあるが、ほら……な?俺の中にもやっぱ乙女心があったりするのかな……。生理的に嫌なんだよな。
そして二つ目に鏡を見ないこと。着替える時くらいならまだ大丈夫だが、流石に美少女女子高生の裸体はな……。紳士として己の中の衝動と常日頃から戦っているのだ。
三つ目、これは言うまでもないだろう。
「愛華ーっ!!」
「死ねぇ!クソ親父ぃぃ!!」
ドアの曇りガラスにシルエットが見えた瞬間に俺は手近なバスタオルを投げ、親父から肢体が見えないようにし、次いで腹へ強烈な拳を叩き込む。流れるような一連の攻撃に親父はうめき声をあげながらバスタオルを顔にかぶったまま床へうずくまった。
「またやったんですか?達夫さん。懲りないですね……。」
テーブルの上を片付け終え、食器洗いへと作業を移行しようとしたシュシが声を聞き脱衣所までやってきた。「また」という言葉に疑問を感じた者もいるだろうが、神川家においてこれは毎度のことなのだ。俺も既に慣れている。
「くっ……!!何故だ!昔は一緒に入ってたじゃないか、愛華!!」
「あれは風呂の入り方が分からなかったからだろう……!!というかいい加減娘離れしやがれバカ親父!」
「愛華ぁぁーー!」
「うえっ、気持ち悪い!こっちに寄るなーっ!」
親父がバスタオルを被ったまま俺の足をつかもうとしてきたので後ろへ回避し、そのまま風呂場へ入った。そして俺が扉を閉めたところでシュシの声が聞こえてくる。
「ところで達夫さん。」
「?」
「なんで私のバスタオルを頭から被ってくんかくんかいいながら地面にうずくまって悶えてるんですか?」
「いや、なんか色々と脚色されてる気がするんだけど……、そうか、これ種子のだったのか……どうりで良い匂……」
直後神川家に断末魔が響いた。……恐ろしや恐ろしや。




