グラウンドを駆ける騎士01
うちの学校、鷺谷高校では毎年五月の終わり頃、全校生徒による体育祭があるのだそうだ。
なぜわざわざこんな暑い時期にやらねばならないのか?などという愚問は俺の場合しない。判りきっているではないか、それは
「一応言っておくけど体育祭は戦闘訓練とかじゃないからね、愛華。」
……。
「うわ、その顔。やっぱ図星?これで10年連続の指摘だよ……?」
だって、だとしたら何のためにあるんだ?体育祭って。何年経っても理解できないぞ。みんなで健康的に身体を動かそうって、みんな学校までしっかりと自分で歩いてきて、負傷者などいないじゃないか。戦場に身を置く者の目から言わせてもらえば、それだけでも十分健康的だろうに。
「頼むから騎馬戦で木刀もってきたりすんのは勘弁してくれよぅ……?」
あったな、そんなこと。大体あれは騎馬ではないじゃないか。馬でなく人だったぞ。この国では馬がいくら貴重だからといえど、人に代役が務まるわけなかろうに。
今俺たちは学校のグラウンドで体育祭の練習真っ盛りなのである。より詳しく言うのであればリレーの練習中だ。おや、ちょうど海紫の番みたいだな。
「あれぇ?あれあれあれぇ?ちょっと奥様どこ見てるのかしら~?」
先ほどから隣りで聴こえているこの声は前田美紀のものだ。美紀は手を口にあててわざとらしくからかってくる。
「もぅ、海紫さんに釘付けぇ?」
「阿呆か。」
ぺしっと美紀の頭を叩く。縁起でもないこと言わないでくれ、俺は男だ。
生物学上では女だが、俺は男だ。まぁ、種明かしをすると俺には何故か前世の、騎士だった頃の記憶があるんだ。
しかしそれはあくまでイレギュラーな話であり、本当だったらここには今の『俺』ではなく生まれ変わった『私』が存在するはずなのだ。
そして以前、というか一週間ほど前にその俺の中にある女性人格『私』は芽生えたのだ。まああるべき人格に戻りかけたと言った方が正しいのかもしれないが、結果から言うと男性人格たる『俺』はそれを押さえ込んでしまったのだ、この世に記憶を持って生まれたのには何かしら理由があるのではないか、と。女性人格『私』はあれから一度も表には出てきていない。
とはいえ、あそこまではっきりとした女性人格自体俺にとっては初めての感覚だったのだ。次にどういったきっかけで出てくるのか、もしくはもうずっと出てこないのかすら分からない。
ま、それでも薄くは残っているから男性を見て多少ドキドキしたりはするんだけどな……。
……ん?今疑わしいと思った奴。重ねて言う、俺は男だ。勘違いしたら斬るぞ?
「海紫ーっ!!愛華が応援してるよー!」
ちなみに、女性人格が出てきたことは美紀にも伝えてある。現世の両親を除いて前世の記憶のことを知っているのはこいつだけであり、持ち前の人の良さから一緒に考えたり悩んだりと現世で六歳の頃からの付き合いだからな。女性人格の話は報告したのだ。
「つうか美紀、変なこと言うなよ。」
「リア充爆っ!」
「会話が成り立っていないぞっ!?」
あーあ……。海紫の方は顔真っ赤にしてるしっていうかあいつの周りの男子、目つきがヤバいぞ。海紫の奴、この後埋められちゃうんじゃないのか……?
そうこうしている間に海紫の番がきたようで、前の子からバトンを渡された海紫が走り出した。
「おぉ、中谷は相変わらず速いねぇ。」
美紀が思わず歓声を上げた。
見ると確かに海紫は中学の時と変わらぬ速さで周りの生徒たちを抜かしていた。
ちなみに俺たちと海紫は同じ中学校だった。剣道部はあいつが入る前に退部してしまったからこの間の手合わせは初めてだったのだがな。
他にもこの高校には中学時代の仲間がそこそこいる。場所が近いからな。例えば、この間体育館裏で告白してきた男子も中学の時から割と仲の良いやつだったしな。
まあ、そんなこともあって事情を知っている人間は少ないものの俺が男口調で話す機会は多いのだが、普段は女口調なのだ。特にこんな感じで人が集まってきた時なんかな。
「わぁ……、ホントだ!中谷くんって速いんだねぇ。」
「ねぇねぇ、しょーじきさ、神川さんと中谷くんってイイ感じに見えるんだけど、どーゆう関係なの?」
周りに集まってきたのは同級生の女子たちだ。ちょうど男子たちがリレーの最中だから暇をしているのだろう。
ていうか随分と馴れ馴れしいな、こいつら。まあどうせ海紫狙いなのだろう。あいつモテるからなぁ。俺が海紫と仲良いのを気にしているんだろうな。ま、あいつは俺に惚れているんだろうが、この子たちも可哀想だし、俺男だし、適当にはぐらかしてやるか。
「大した関係でもないよ。私と海紫は中学時代からの……」
「恋人だよねっ!!」
おおぉぉいいぃぃ。美紀さぁぁんっ!
それは大した関係ですよ!?
「あ、や、やっぱりぃ?ちょっと怪しいなぁとは思ってたんだよねぇ。」
そしてお前らも真に受けるなよ……。動揺を隠せていないぞ?
「もぅ、美紀ぃっ!余計なことを吹き込まないで。私たちはただの友達だと何度も言ってるじゃない。」
「まぁたまたぁ。あんなにお互いメロメロのくせに今さらなーにを言ってるのかしらぁ?」
うざい。こいつ、うざいぞ!暴走してやがる!
メロメロとか気色悪いこと言うなよ!何度も言うが俺は男だ!!
「へ~、そうなんだぁ……。」
なんか可哀想だよ!こいつらが気の毒すぎるって!
「はい、次ー。女子の番だぞー。」
そのタイミングで体育教師が大声を上げ、女子のリレーの番が来たことを知らせた。それによって俺と美紀の周りに集まってきた数名の女子はリレーのトラックへと歩いていった。
何か色々と誤解されたままの気がするのだが、ひとまずこの尋問から解放されたことに俺は安堵の息を吐き、同時に我ながらキレの良い裏拳を美紀の脇腹へめり込ませた。
「うぐぉっ……!?」
「何余計なことを吹き込んでんだよっ!」
「……暴力反対ぃ。」
「俺は暴走反対だよ。」
「紳士は女の子を叩かないんじゃなかったのっ?」
「叩いただと?人聞きの悪い。ちょっとしたスキンシップだ。」
そんな話をしながら、俺たち二人もリレーのトラックへと向かったのであった。
投稿が遅くなりました。申し訳ありません。
なんとまあ嬉しいことにこの小説をお気に入りにいれてくださる読者様までいたとのことなので、拙い文章ながら続きを書かせていただきました。
これからも投稿頻度は少なくなってしまうかもしれませんが、頑張って面白いお話を書いていきたいと思いますので読んでいただければ僥倖です。




