出発地点
駆け巡る。
風を切って、空を走る。
木の枝を足場に変え、今日も森を進む。
頬をかすめる羽虫さえも彼らを祝福している。
「デモニア!」
前方からウガ兄の声がする。
枝を蹴り、獣の脚に力を込めて跳んだ。空気が裂け、光の粒が散る。
頂にたどり着くと、眼下には果てのない森。朝陽が差し込み、世界が金に染まっていた。
どこかで鳥の鳴き声がする。
デモニアの後から、息を切らせながらも楽しそうな声を上げ、獣人族の子供たちが追い付いてくる。
「今日もデモニアが一番乗りだな!2位はイーレイか、早くなったな~すごいぞ!」
灰色の髪を風に散らせ、ウガ兄が笑う。
狼のような瞳がまっすぐで、子どもたちはその声に一斉に笑った。
デモニア「一番は俺じゃなくてウガ兄じゃねーか」
そんなまぶしさに耐えられず、デモニアはぶっきらぼうに言ってしまう。
「はは、そうだな」なんて笑い飛ばすウガ兄と呼ばれた青年。
笑うたびに灰色の髪が揺れる。その眼差しは、森の静けさを映しているようだった。
ウーガンという名前とみんなの兄のような立場ゆえに、「ウガ兄」と呼ばれている。
ウガ兄は一通りみんなをほめ終わると、抱えた麻袋から取れたての魚を出した。
しっかりと1人1匹分ある。
イーレイ「ウガ兄、いつの間にとってきたのー!すごい!」
デモニアより幼く小さい少女が、キラキラした瞳で言う。周りの同年代ぐらいの少年少女もウガ兄を凄い、さすがとたたえる。
―本当にそうだ。俺だって全力で森を抜けてきたつもりだ。魚が取れる川はここまでの道なりにあるけど、競争の最中に12匹の魚を川でつかみ取りなんてできないはず。4歳の年の差がなくなったとしても到底及ばない。やっぱりウガ兄はすごい。
唖然とするデモニアを見たウガ兄はすごいだろと胸を張る。
胸を張る姿に、ほんの一瞬だけ年相応の子どもっぽさを見た。
ウガ兄「じゃあ今日はここで飯を食って、家に帰ろう!月神様が分け与えてくれた恵に感謝します。」
ウガ兄に続いて子供たちも月神様に感謝を述べ魚をほおばる。
俺もまだ跳ねる魚をほおばる。冷たい身を噛み切るたび、生きている実感が広がった。
魚の血が指を伝い、陽に照らされて光った。
いつかこの光が、冷たく感じる日が来るなんて、あの頃の俺たちは知らなかった。
――登場人物紹介:デモニア
黒髪と猫の特徴をもつ、月国生まれの獣人の少年。
森の仲間たちと助け合いながら生きる日々の中で、誰よりも速く、誰よりも優しい心を持っていた。
少し照れ屋でぶっきらぼうだが、仲間の笑顔が何よりも好き。
憧れの“ウガ兄”のように強くなりたい――ただ、それだけを信じて走っていた。
あの朝、金色の光の中で笑っていた少年の胸に、まだ誰も知らない「罪の芽」が眠っている。




