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密室集団Transfur

作者: henka

「博士。もう限界です。この星はヒトが飽和し過ぎています。これ以上増えてしまったら、食料危機、環境汚染はもちろんのこと、貧しい人々が増え、ヒト同士の大規模な争いも起きるでしょう。そうなったら、この星に生きるすべての生き物達が巻き込まれ、死の星になってしまいます」

「わ、わかっておる。しかし、もう少し様子を……」

「何度待ったらいいんですか? 博士は何のためにアレを計画したんですか?」

「アレは……ワシの気の迷いじゃったのかもしれん。あんなモノは造ってはならんかった」

「それじゃあ、どうしたらいいんですか? このまま一緒に滅びてしまえと?」

「そ、そうは言っておらん。じゃがしかし、アレは……」

「計画発動の許可をお願いします。すべてはこの星の生き物のために」

「こ、こら、君。そんな土下座なんてするんじゃない……アレは、どうしても使わねばならんかね?」

「私は使うべきだと思います。ヒトは増え過ぎた。移星プロジェクトが失敗した今、私達の残された道は〝人間動物還元プロジェクト〟しかありません」

「……。何でワシはヒトを動物化するなんて思い付いてしまったのか……」


「私は素晴らしいアイデアだと思います」

「……」

「許可をお願いします」

「ヒトには……手を……出したくなかったのじゃが……な……」

「お気持ちは察します。優先的保存対象に選ばれたといえ、私達も同じヒトですから……世界全体で行うことに博士の理性が抑制をかけるという事でしたら、まずは小規模でやってみてはいかがでしょうか?」

「……これも、この星を救うため、か……」

「そうです。これは……仕方の無いことなのです」

「……よかろう。犠牲になった人達の罪はワシがすべて背負うとしよう」

「そんな……私共もみんな同罪です。より良い未来を信じて……」

「嗚呼、神よ。何故、ワシをこの世に産み落とされたのか……」

「それでは、計画を発動いたします」

「……嗚呼」

「研究所内全員に告ぐ、〝人間動物還元プロジェクト〟発動! まずは実験的に小規模に行う。適切な実験場所を探せ――」

 これは、いつかどこかで行われた膨大なプロジェクトの序章だった……




 プオーン。

 今日もいつもと変わらず、電車がやって来た。そこに乗り込む学生、ビジネスマン、旅行者……とくに争いも無く、時折、退屈にさえ思ってしまう毎日。当たり前過ぎて変化を求める人達が、この後、悲劇に見舞われることになってしまうなぞ、誰が思っただろうか?

 ガタンゴトン ガタンゴトン……

 のどかな田園風景が広がる田舎町を二両編成の電車は走る。


「お母さん、動物園、楽しみだね」

「そうね、いろんな動物さんが見られるわよ」

 楽しそうに会話する親子。

「昨日のクイズ番組見た? イケメンばっかでついつい魅入っちゃって、テスト勉強ほっとんどしてないのよ、あたし。たはは」

「あはは、同じだわ。ちょーカッコ良かったよね?」

 笑い合う女子高生。

「今日は大事な会議がある。書類はちゃんと持った。他に忘れている物は無いだろうな……」

 一人呟くサラリーマン。

「孫に会えるのは楽しみとよ~」

 微笑む老人。

 様々な立場の老若男女がこの車両にはいた。電車はいつもと変わらず、走っていた。ある男が遥か上空から叫ぶまでは……



――発動。



 この瞬間、車内はオーロラのような美しい虹色の光に包まれた。

「え? 何? 何これ?」

 戸惑う女性会社員。

「おぉっ、何か、すげぇー」

 喜ぶ男子大学生。

「UFOが僕らをさらいに来たんだー! 恐いよ、お父ちゃーん」

 混乱する男児。

 しかし、光は一瞬だった。何事も無かったかのように電車は動き続ける。


「な、何だったんだ今の?」

「さぁ……って、お、おい……お前……な、なんだよその腕」

 男子高校生は友人を見て顔を強張らせた。

「何って……う、うわああぁぁぁー、なななな何だ。どうしたんだよ、お、俺の腕……毛が、毛が……」

 悲劇はすぐに幕を上げた。

「きゃあああぁぁぁぁー! ゆ、ゆみ子……か、顔……や、や、やぎ……」

「ん? 顔がどうかし……あれ? 私の顔……い、いやあああぁぁぁぁぁああぁー!」

 友人に言われて顔を触った女子高生は叫んだ。

「お、お母さん、僕……お尻からしっぽが……」

「え……う、うそ……うそようそようそよ!!!」

 ワニのようなしっぽが生えた我が子を見て、母親はヒステリーに陥った。

「おやまぁ、何か体がムズムズすると思ったら、首が伸びとるわい」

 キリンのように首が長くなる、状況を理解しきれていない老女。

 車内にいた全員がそれぞれ異なる動物に変化していく。


「何で? どうして? 嗚呼……もうケータイが握れない」

 女子高生の手はヤギの蹄に変わっていた。

「きょ、今日はだ、大事な……会議が……ガァアアアルノ二ィー!」

 サラリーマンの体はムクムクと膨張して、カバのように大きな口を開けた。

「お……かあ……さ……ん? う、うえぇぇぇぇーん……お母さんが、お母さんがー」

 ワニのように口が伸びている少年はカンガルーのような顔になっていく母親を見て大泣きを始めた。

「く、口が曲がっつぇいぐぅ……」

 男子大学生はフラミンゴのように口がピンク色のクチバシに変化していく。

 乗客は皆、体が縮んだり、膨張したり、服が脱げたり、破けたり……


「手……手がぁっ、手がぁああっ!」

 その悲劇の余波は運転席まで及び、運転手の手はカメの手のように指がくっついていく。電車は運転不可能となり、暴走を始める。

「止めてぇぇええぇぇー」

 電車は曲がり角に突入した。しかし、カメになりかけている運転手が器用に体を押し当てて操縦したことにより、大きく揺れた程度で倒れることにはならずに済んだ。

「お、俺……これからどうなるんウィキーッー、キャッキャ」

 サルが服を着ているような姿になった男子高校生は時折、サルのような奇声を発する。

「おやおや、これはまた変わった夢かいねぇー」

 老女は車内で一番高くなった位置から、夢見心地で動物に変貌を遂げていく人々の様子を見ている。

「や、やだ……そ、そんな目で私を見ないグゲェェェー」

 怯えた目で彼氏に見られるラクダ顔の女性は理性が飛びそうになった。

「ちょ、ちょっと……わた、私を……食べな……いやあぁぁぁあー!」

 ハムスターと化した女子高生はヤマネコと化した友人に大きな口を開けられて必死で逃げた。

 それぞれ動物化した人達で溢れ返った車内は、サバイバル化しようとしていた。

「止まれエェェェェ!」

 すっかりカメのように小さくなった運転手は全体重をブレーキの上に乗せた――


 キキィィィ――……


「はぁ……はぁ……はぁ……止まっ……た……」

 運転手の根性のおかげで、電車は急ブレーキで止まった。

 車内にいた元人間の人達は急に止まった反動で互いにぶつかり合い、床に転げた。

「お母さーん、もう動物園いがなぐでいいから帰ろヴ……」

 ワニになった少年はカンガルーになった母親に寄り添って泣く。動物と化した人達が途方に暮れていると、電車の前に大型ヘリコプターが降りてきた。そして、迷彩服と銃を持った人達が次々と窓を割って車内に入り込んで来る。

「な、何、あいつ……ら……ぁ……」

 ヤギになった女子高生は麻酔銃を撃たれた。

「すまないが、人間の意識を消し去ることは今の技術ではできない。このまま変身した動物として暮らしてくれ」

 男がそういうと次々に麻酔銃で乗客は眠らされていく。やがて、大型トラックがやって来て、乗客はどこかに運ばれて行った……

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