第二十七話 当たる推測最悪な憶測
アーティの一撃で影の魔物は姿体を保つことが出来ず、霧のように散っていき完全に消え失せていった。
「取り憑かなかったら存在を抹消されることもなかったのにね。ま、相手が悪かっただけかな」
剣を納刀しながらアーティは呟く。そして横になっているセレスを見ているワイアットとフィオナの元へと戻った。
「アーティ、でたらめな強さだな君は。だがおかげで助かった。僕だけではどうにもならなかっただろう。フィオナもよく頑張ったな」
「でたらめって、そこは圧倒的ーとか絶対的ーとかじゃないんですかねー。まあいいですけど。フィオナもお疲れー、ってどうしたの? 考えごと?」
声をかけるもフィオナは難しい顔で考え込んでいる。
「フィオナ?」
「やっぱりあれは魔王の魔力よ。魔王がセレスに取り憑いていたとしか思えないわ!」
「何だって!? 本当かい、フィオナ!」
フィオナは頷く。魔王と直接戦ったことがある聖女だからこそ分かり得ることだ。
「ワイアットさん、魔王は弟が倒したって話でしたよね。見たんですか? 魔王の最後を」
「ああ、戦いの途中魔王の攻撃で不甲斐なく僕は気を失ってしまったが、意識を取り戻した時の光景は忘れない。首が半分以上斬られている状態の魔王をユーフィルが剣で貫いていたんだ」
ワイアットはその時の話を続けた。勇者の渾身の一撃を受けた魔王は大量の赤い液体を流し床へと崩れ落ちた。肩で息をしながら魔王の最期を見つめている勇者へ戦士は声をかける。仲間からの声がけに勇者が振り向いた瞬間、鋭利な闇が勇者の身体を貫き通していた。完全に命の灯火が消えた魔王の肉体は徐々に闇へと変化しており、勇者はその闇の方へ倒れていく。戦士はすぐさま助けに行こうとしたが、天井や柱が次々と崩れ勇者の元へは行けなくなる。その為脱出を優先し倒れていた聖女を抱え、意識が回復した僧侶と共に崩壊する城から急いで離れ去った。
「アーティすまなかった。ユーフィルを救えなかったこと。連れて帰れなくて申し訳ない。だが、ユーフィルは確かに魔王を討ち取ったんだ」
「謝らなくていいですよ。弟は、勇者としての務めを果たしたんですから。それに迎えに行きますので大丈夫です」
「迎えに!? もしかして君は魔王城へ行くつもりか!?」
「行きますよ。なんとかして復活させます。あ、ちなみにフィオナも一緒にです。あと仲間の僧侶1名と」
「フィオナも連れて行く気なのか!?」
「ワイアットさん、私は私の意思でアーティと一緒にユーフィルを迎えに行ってきます」
「フィオナ、本気なんだね。なら僕もついて行く!」
「えー、フィオナのことが心配なのは分かりますが、気ままな女子旅なんでそれはちょっと遠慮して欲しいです」
「じ、女子旅……?」
アーティの発言にワイアットは目を丸くする。気ままな女子旅という言葉が全く理解できないらしく、思考が停止しかけていた。
「安心してください。フィオナに悪い虫がつかないように聖女の守り手の私がしっかり見張りますので。なんなら転移魔法使って定期的に顔を見せに来ますかー? あれ、これって逢瀬って言うんだっけ?」
「な、何言ってんのよアーティってば! もうっ!」
にやにやしているアーティをフィオナは赤くなりながらバシバシと叩いてくる。
「ごめんごめん、からかい過ぎましたー。えーっと、話戻しますけど弟が魔王を倒したのは分かったんですが、魔王の肉体が闇になっていったのなら、また復活する可能性ありますよね」
「そんなわけが! いや、まさか……」
「こっからは推測ですが、肉体の維持ができなくなり闇に戻るしかなかった魔王は再度肉体を構築して復活するか、または新たな身体に乗り換えると思うんですよねー。後者だとしたら、セレスがその対象になってたのかも。フィオナ、さっきの影から魔王の魔力感じたんでしょ?」
「ええ、その通りよ。間違いないわ。ただ、私たちが戦った時の魔王より弱く感じたの。だからもしかして小さい魔王がセレスに取り憑いて悪さをしてたんじゃないかなって思って」
フィオナの小さい魔王発言にアーティとワイアットは思わず吹き出しそうになった。なんとか堪え、アーティはフィオナに尋ねる。
「さっきの影の魔物が魔王の闇だとしたら、戦闘時の魔王の魔力を100として、あの影はどのくらいの数値に感じた?」
「えっと、50くらいかしら。もしかしたらもう少し低いかも。数値化って言われると難しいわね」
「場所が聖教会の中ってのも関係してるのかな。とりあえず、その50くらいのは完全に消滅させたから良しとして、それだとー」
「あれを消滅させることができたのか君は!?」
アーティの衝撃的な発言にワイアットは驚愕し、再度目を丸くした。だがアーティもフィオナも不思議そうにきょとんとした顔をしている。
「え、あ、はい。フィオナの強力な聖魔法の力もあったし、あれはこの世界から存在を消しといた方がいいと思って」
「アーティなら可能なことよ、ワイアットさん」
「そ、そうか。フィオナがそう言うのならそうなんだろう。すまない、話を遮ってしまって」
ワイアットは戸惑いながらも冷静さを取り戻し、アーティに話の続きを促す。
「えーと、そうそう、最悪な憶測になっちゃうんだけど、残り50の魔王の闇が乗り換える身体としてユーフィルを選んだとしたら、ちょっとどころじゃなく嫌だよねーって話。あの子が邪悪な言葉使って話してたら絶対引くわー。笑い方が『ふははははー』とかになってたらどうしようー。自分のこと『我』とか『余』とか呼びじゃないといいんだけどー」
「それ想像したら私もものすごく嫌だわ。ユーフィルのあの可愛らしい顔で『貴様ー』とか『おのれー』とか言って欲しくないわね。そんなユーフィルは絶対見たくないわ」
「フィオナ、アーティ、君たち問題点はそこじゃないと思うのだが……」
冷静さを取り戻したが、二人の会話を聞き再び戸惑うワイアットだった。
「とりあえずこの人からも話聞いてみないとねー。はい、起きて起きて」
まだ目覚めないセレスの頬をアーティはペシペシと軽く叩く。それでも起きないため、叩く力がどんどん強くなっていった。
「アーティ、やり過ぎじゃないかしら?」
「大丈夫大丈夫、あ、ほら起きたみたいだよ」
叩かれすぎて頬が真っ赤になっているセレスは、目覚めると叩いていたアーティを睨みつけた。
「……頬がものすごく痛いわ。あなた叩きすぎよ!」
「起きないからしょうがなくです。悪気は全くありません。私も叩きすぎて手のひら痛むのでおあいこですね。痛みが酷いならご自分で回復魔法どうぞ。それか氷結魔法で患部冷やしましょうか?」
「馬鹿じゃないの! 攻撃魔法で冷やせるわけがないでしょう! ワイアット、フィオナ、この子一体何なのよ!」
「あー、なんだ、ユーフィルの姉で聖女の守り手? だったな」
「私の昔からの大事な親友でもあります」
「わぉ、馬鹿って言われたー。言い方キツーいこわーい」
「なんですってー!」
「アーティ、もしかしなくても内心すごく怒っているようね」
「そ、そうなのか?」
セレスを煽りまくるアーティを一切止めることなくフィオナとワイアットは見ていた。
「さて、鬱憤も多少晴らしたところで話してもらいましょうか。そういえば目の色戻ってますね。髪色はそのままってことは染めたかなんかだったんだ」
セレスの瞳の色は紫色へと戻っていた。
「そういえばそうね。髪色はてっきり魔王の闇が取り憑いてたから変化したのかと思ってたわ」
「髪色だけでも聖女になりたかったーとかじゃないのー? 結構いるみたいだよ、フィオナに似せようとする人たち」
「ええっ! そんなの、すごく恥ずかしい……」
両手で頬を抑え、フィオナは恥ずかしそうにモジモジとしている。その様子を見てアーティとワイアットは同時に「可愛い」と呟いていた。
「……確かに私は昔から聖女になりたいと思っていたわ。だから闇に取り込まれてしまったのかもね」
自身に回復魔法をかけながらセレスは言った。そしてフィオナの方へ向きを直し頭を下げる。
「フィオナ、あなたには相当酷いことをした自覚があるわ。謝ったくらいで許されるとは思っていないけれど、本当にごめんなさい」
「いいのよセレス、身体を操られてあなたも辛かったでしょう。あなたが無事で良かったわ」
「フィオナ……、ありがとう」
「フィオナへの謝罪はあと百万回くらいしてもらわないとって私は思ってるけどね。ま、それはおいおいとして。魔王の闇が取り憑いていた話、聞かせてください」
アーティはセレスに対し厳しい目つきで詰め寄った。それに動じることなくセレスは冷静に話をする。
「魔王との戦いで行動不能になって、気がついたら自分の中に何かが入り込んでいたのよ。邪悪なものとすぐ分かって抵抗したけれど、強大な魔の力に抗うことができなかった。自分の意識はずっとあったわ。だけど負の感情がどんどん増幅してくるのが止められなかった。その後は自分の欲の為に魔の力を利用していたわ。魔王城の脱出時、フィオナに封印魔法をかけたのが最初よ。魔王の闇って言ってたけどその通りね。確かに魔王の魔力と酷似していたもの」
「推測当たりだね。さっきの戦いでの攻撃魔法もだけど、僧侶職が封印魔法使えるわけがないし。それでー、自分の欲ってのは聖女に成り代わることだったりします?」
「……そうね」
「じゃあもうしばらく代理しててください。私たち魔王城へ行ってくるので。いいかな、フィオナ?」
「うん。申し訳ないけどセレス、いない間よろしくお願いします」
「え? はっ? この子たち、何を言っているのかしら〜?」
「僕が説明するよ。なんでも女子旅だそうだ……」
アーティの話に混乱するセレスに、自身も同じ状態になったことがあるワイアットが懇切丁寧に説明をするのだった。




