第二十二話 願いを叶える魔石
「封印魔法の解除には、ええっと、確か光魔法の魔力変換と解呪魔法の組み合わせだったかな。そもそも聖職者系の上級職じゃないと解除できなかったっけ。いや、できるできないじゃなくて、やらないと。弱音も泣き言も今はいらない。駄目なら別の方法を探す、それだけのこと」
メーリックが閉じ込められている封印魔法の球体の前で、何とか解除しようとアーティは自分自身に言葉を言い聞かせて意気込んでいた。
「フィオナごめん、そこから少し離れてもらっていいかな。今からこれの解除してみたい。私のことだから、やり方多分荒々しくなると思うし」
身代わり魔法で危機を回避したフィオナは目をつむり、球体へと手を当てて何かを考えているようだった。
「どうしたの? 何かあった?」
アーティの言葉に反応せず、じっと考えに耽っている。集中しているフィオナの邪魔をしたくない為、アーティは黙って側に立っていることにした。
球体の中で倒れたままのメーリックを見ると悲しくて胸が苦しくなる。こんなことになるのなら魔法書での魔法の発動を止めるべきだった。魔法書を使えなくする方法があったかもしれない。最初からこの塔に来なければ良かったのかも。フィオナが魔王討伐から帰って来た時に会えていれば何か変わっていたかな。それとも勇者パーティに無理矢理にでもついていけば良かった?
じわじわと後悔の念が押し寄せて、思考がめちゃくちゃになってくる。
ふとアーティは自分がどんどん負の思考に支配されかけていることに気付く。それら全てを受け流すため、ゆっくりと深い呼吸を行う。
不意に隣にいるフィオナがアーティのマントを引っ張ってきた。
「考え事、終わった?」
アーティの問いかけにフィオナは首を縦に振る。そしてアーティを見つめながら人差し指を立てると、それを自分へと向ける。続けてその指はそのまま球体を指し示す。更にその後、手のひらを広げて両手を高く上げて見せた。
「フィオナ、えっと、何だろその動き。あっ、もしかして何か伝えたい事があるんだね」
フィオナは目を輝かせて何度も頷いた。だが肝心の伝えたい事は一度の動きだけではアーティに通じていなかった。
「ごめんっ、フィオナもう一回やって! えーっと、自分を指差ししているからー、『私』、でいいのかな。次がこの球体に指を向けてるから、『これ』、でいいのね。そして次は何だっけ?」
先ほどやった同じ動きをフィオナはもう一度繰り返し、最後に大きく両手を上げた。アーティは必死で解読を試みている。
「『私』、『これ』、そして両手を上げて『バーン』、えっ? どゆこと? 何、バーンって」
違うと言わんばかりにフィオナはアーティに向けて首を左右に振った。もう一回と人差し指を突き出して前後に動かす。
「うん、もう一回お願い。次こそ分かってみせるから。えっと『私』、次が『これ』、そして最後はバンザイをして『わーい』? わーいってフィオナ何の事なの?」
自分なりに解釈したことを真顔で答えるアーティに、どのような動きなら伝えられるかと真剣に悩むフィオナ。そんな二人の様子を黙って見ていたウィルが声をかけてきた。
「ねえ、今さらなのかもしれないけど」
「何、どうしたのウィル? もうちょっとで、もうちょっとしたらフィオナが頑張ってやってくれてる身振り手振りの動きの意味が分かるかもしれない!」
「筆談じゃダメなの?」
「「!?」」
ウィルの言葉にアーティとフィオナは固まってしまった。
「フィオナ、僕にも伝わりにくい話は時々筆談してくれてたよね。もしかして忘れてた?」
はっとした表情でフィオナの顔がみるみる赤くなっていく。アーティも恥ずかしさと気まずさで遠くを見ていた。
ウィルが持っていた紙とペンで、フィオナの伝えたかったことをようやく知ることが出来た。
『私はこの封印魔法を解除できるよ』
「フィオナほんとに!? そっか、聖女って聖職者系の超上級職に位置してたよね! 私ってば、何で気が付かなかったんだろう」
「でもアーティ、フィオナは今話せないから魔法は使えないよ」
「そうなんだよねー。フィオナ、どうしてそうなったの? 何かの魔法なら解除方法分かったりする? あっ、長く書くのは疲れるから簡潔にでいいよ」
『魔王との戦いの直後。すごく強力な封印魔法。こっちのは解除方法分からない』
「これも封印魔法なのかー。あの球体が対象を閉じ込める種類の封印魔法なら、フィオナのは能力を封印する種類なのかもね」
フィオナが話せなくなった理由が分かったが、今の自分では解除することは出来ないだろう。上級の聖職者系の人を探しに行くしかない? でもツテなんて全くないし、どこにいるのかも知らない。見つけるまでどれくらいの時間がかかるのかを考えるとゾッとする。なによりメーリックをこのままにして立ち去りたくない。この球体の中で意識を失ったのは力が吸い取られているからなのかもしれない。呼吸しているのは確認できた。最低限の生命維持は可能みたいだけど、それがいつまで持つのかすら分からない。そんな所に大事な仲間を置いていきたくない。
「フィオナにかけられたその封印魔法を解除できそうな人って知り合いにいたりしない? もしアテがあるのなら、私頼んできたいんだけど。例えば魔法の先生みたいな人とかー」
僅かな期待を込めてアーティはフィオナに質問をする。しかし、フィオナは悲しそうな表情で首を横に振るのだった。
「僕が聖教会にいた時に聞いた話だけど、フィオナが聖女になった時に先代の聖女様が師としてついていたんだ。でも、3年ほど前に亡くなったんだよ」
「そう……。フィオナと同等か、それ以上の力を持ってる人だったらって思ったんだけどね。やっぱり地道に探しに行くしかないのかなー」
フィオナにも師となる人がいたんだ。先代の聖女様か、どんな方だったんだろう。うちの師匠みたいに圧倒的な強さと優しさを持っていたんだろうな。お互い良い師匠に恵まれたんだね。
「師匠、師匠……? 修行、魔界……、黒ドラゴン、レイヴノールさん……」
――そうだ! 私、願いを叶える魔石を持っているんだった!
師匠という言葉から次々と浮かんできた単語。それらが頭の中で結びついていく。ユーフィルを復活させるために手に入れた魔石の事を思い出した。
「使うのは、今、だよね」
魔石を使って弟を復活させる。あの時はそれが私の生きる理由となった。だけど今は大切な親友を助けたい。そして大事な仲間を救いたい。私、決めた!
「ウィルごめんねー。ちょーっと寝ててね。今からやる事は秘密なんだー」
アーティは強制睡眠魔法をウィルにかけ、眠らせた。
「よしっ、じゃあ願いを叶える魔石の力、見せてもらおうじゃないの」
荷物から魔石を取り出す。鈍い光を放っている魔石の中には、赤、青、緑、銀、金、そして黒い球体が静かに浮かんでいた。フィオナは物珍しそうに魔石を見つめる。
「これの魔力独特なんだよー。大丈夫、フィオナにかかっている封印魔法、今解除するからね。えーっと、封印魔法解除には光魔法の変換で、とりあえず魔力を流せばいいんだよね」
手に持っている魔石にアーティは魔力を注ぎ込んでいく。すると魔石の内部にある6つの球体が激しく動き出し、魔石は輝きを増していった。
「ひっ!? や、やだっ、何でこっち側に魔石の魔力が流れ込んでくるの!? うあっ! ゾワゾワするっ! あーー!」
アーティは自分の体内に逆流してくる独特な魔力に耐えながら自身の魔力を送り続ける。魔石は強い光を放ち浮かび上がると、閃光を走らせ眩しい光がフィオナを照らした。
「……アーティ、わ、わた、わたし、声が……、声が出せてる……」
「フィオナ……、良かった。うん、しっかり聞こえてるよフィオナの声」
「アーティーー! ありがとう! もう、ずっとこのままなのかと思ってたの! うっ……、ううっ……、うえええぇぇ……」
フィオナはアーティに抱き付くと、ぼろぼろと大粒の涙を流し大きな声をあげて泣き出した。アーティはそんなフィオナを愛おしく感じ、泣き止むまでぎゅっと抱きしめ頭を撫でてあげるのだった。
――ユーフィル、ごめんね。でもいつか絶対に復活させに行くからね。
役目を終えた魔石は粉々に砕け散り、跡形もなく消えていった。




