表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/38

第十八話 亡霊少女のお願い

 塔の最上階を目指し、アーティは仲間たちと進んでいく。行く手を阻んできた魔物はアーティによって一撃で打ち倒されていった。


 メーリックから、全て一撃で倒すなんてすごいと言われ、それには理由があることをアーティは話す。


「長く苦しませたくないから」


 これは師匠のサーブルが話していたことだった。中途半端な攻撃で肉を切られ、血を流させ、痛みで苦しませているよりは、一撃で絶命させた方がマシな殺し方だと。どうせ殺される運命にあるのなら、苦しまない方を自分だったら選びたい、サーブルはそう語っていた。


 師匠の話にアーティは感銘を受けて、更に厳しい修行をつけてもらう事を望んだ。レベルを上げ戦闘スキルを磨き、教えを乞い一撃で仕留めるための方法を学んだ。そうした努力の結果、今の確たる強さを手に入れたのである。


 アーティが話し終えると、メーリックとフィオナはキラキラした目で頑張ってきたことを褒めてきたが、ウィルからはドン引きした視線を送られていたのだった。


  



 塔の3階へと四人は上がってきた。


 上の階に上がる階段を見つけるため探し回っている時にいくつかの牢屋を見てきた。元々この北の塔は大罪人を投獄しておくために使われていた場所である。1階の牢屋は光がほとんど入らず息苦しさを感じる劣悪な空間だった。

 2階の牢屋は鉄格子の入り口だが、適度な広さで小窓があり、簡易的な寝床や机、水汲み場が備え付けられていた。牢屋の他には、常駐していた兵士たちや聖職者たちが住んでいたであろう部屋もあった。


 この階は下の階のような冷たく荒れ果てた印象は全く見られず、別空間に来たようだった。

 装飾が施されている高い天井、外からの自然光を取り込むために設計されたであろう小窓、厚みのある石壁、迷路のように長く伸びた幅広の通路には絨毯が敷き詰められている。まるでどこかの貴族の屋敷にでも入ったかのように思えた。

 塔の役目からして、ここは身分の高い罪人を幽閉するための場所ということが理解できた。


「ねえメーリック、この階のどっかに結界石が張られてる感じしない?」


「え? あ、本当だ。どこだろう」


 魔物よけの結界石の効果を感知したアーティとメーリックは結界石の場所を特定する為、魔力で調べながら進んでいった。


「あの奥の左の部屋じゃないかな? 行ってみよう」


 目的の部屋の前に来るとアーティは慎重にドアノブに手をかける。ガチャリと音がして扉を開けることができた。そうっと部屋の中を見渡し安全を確認する。


「うん、やっぱりこの部屋には結界石が張られてる。魔物よけの効果も衰えていないみたいだね。安全だから少し休んでいこう」


 四人は急いで部屋に入った。部屋の中は思った以上に広く、この部屋の中だけで生活できるようになっていた。

 ソファーやテーブル、奥には天蓋付きの大きなベッド、壁には絵画やタペストリーが飾られており、部屋の一角にある書棚には蔵書が並んでいる。だが、高級そうに見える家具や装飾品はどれも埃に塗れ、長年放置されていたため、劣化も生じていた。


「これじゃあ座りたくないよねー」


 上質な布で作られていたであろうソファーを触ると、もさっと埃が手につく。


「しょーがない。この窓開くかな? お、大丈夫だね。ウィル! そっちの窓も開けてくれるー!」


 少しキツくなっていたが窓を開け、外の空気を取り入れる。少し遅れてもうひとつの窓も開けられた。冷たい風が部屋の中に入り、埃がぶわっと舞い上がる。


「あとは……、浄化魔法発動、風魔法発動、空間浄化!」


 アーティは部屋の中を綺麗にするために適した魔法を発動させた。浄化魔法は本来悪霊や汚染地域を清め祓う為の魔法なのだが、今回は魔力変換を行い生活魔法へと変化させ、同時に発動させた風魔法も同じく無害化する。そして2つの魔法により部屋の中の埃を一掃して集めると、開けていた窓の外へと押し出した。


「完了完了ー。うん、綺麗になったね。皆休もうよ。ベッドも清潔になってるよ。なんなら寝てくー? あ、メーリックごめーん、窓閉めといて欲しいな。よろしくー」


 アーティは魔法で清々しい空間になった部屋に満足する。そしてソファーに横になって寝転び、少しだけーと呟くと目を閉じた。


「フィオナ、僕たちもベッドで少し横にならない?」


 ウィルはそう言うと、頷くフィオナと一緒にベッドへ向かっていく。


 メーリックは三人が体を休ませているのを確認し、窓を閉めるとアーティの対面にあるもう一つのソファーに横たわる。寝るつもりはなかったが体は疲労していたらしく、まぶたがだんだん重くなり、そのまま眠ってしまった。




 ――声がする。誰かに話しかけている少女の声。でも気配が全く感じられない。まだ寝ていたかったけど、声の主を確認しないと。


 アーティはパチっと目を開け、音を立てないように起き上がると素早く部屋の中を見回す。窓の外は暗くなっており、いつの間にか夜になっていた。目の前のソファーではメーリックがスースーと寝息を立てて眠っている。

 フィオナたちが休んでいるベッドへ視線を向けると、そこには全身ぼんやりとした光を放つ幼い少女が立っていた。どうやら寝ているフィオナに対し、何かを話しかけているようだった。


 亡霊――?


 悪意のある霊なら結界石が張ってあるこの部屋に入って来られるわけがないし、もしかしてこの部屋に元から居たのかもしれない。


 黙って少女をずっと観察しているわけにもいかないと思い、アーティは静かに近寄っていった。


「――どうして起きてくれないの! タリアのベッドで寝てないでお話し聞いて! 起きてよ、ねえったら!」


「君は、誰かなー?」

「!?」


 アーティが話しかけると少女はびっくりした顔で振り向いた。くりくりとした大きな瞳で見つめてくる。整えられている髪に高価そうな髪留め、質素だが上質な素材のドレス。その外見だけで、どこかの貴族の令嬢であることが分かる。


「ごめんねー驚かせちゃて。私はアーティって言うの。君は何をしているのかなー?」


 少女を視界に捉えながらベッドの方を見る。フィオナとウィルがぐっすりと眠っていた。


「タリア、このキラキラしてるお姉ちゃんとお話ししたくてずっと声をかけているんだけど全然目を覚ましてくれないの。タリアの声が聞こえてないみたい。アーティお姉ちゃんはキラキラしてないのにタリアのことが分かるの?」


 フィオナをキラキラしていると言うのは聖女だからなのだろう。この少女の声が届かないのは結界魔法の効果なのかもしれない。


「分かるみたいだね。ねえタリア、そのキラキラのお姉ちゃん疲れてるから寝せてて欲しいな。代わりに私がタリアのお話し聞くよ。あっちで話そうか」


「いいの? 嬉しい!」


 アーティはさっきまで寝ていたソファーへ戻り、少女と並んで腰掛けた。タリアは寝ているメーリックを見て、あっちのお姉ちゃんほどじゃないけどキラキラしてると話す。どうやら聖職者系は亡霊の少女からはキラキラして見えているらしい。


「それで、タリアのお話し聞かせてくれるかな?」


「うん、あのね――」


 タリアは話した。急に両親がいなくなり、使用人たちも去っていった。姉のライラとたった二人屋敷に残されていたが、突然来た城の兵士たちによって姉と一緒にここに連れて来られたとのことだった。


「しばらくはライラお姉ちゃんとこの部屋で過ごしていたけど、ライラお姉ちゃんだけ連れて行かれちゃった。戻ってくるの待ってるうちに、タリア死んじゃったみたい」


「……そうなんだ」


 こんな幼い子が姉妹でこの塔に幽閉された理由なんて知る必要はない。本人もそれを知りたがっているわけでもなさそうだ。この塔が使われなくなってかなりの年数が経っている。自分が亡くなったことを分かっていて、長い年月ここに留まっている理由の方が知りたい。


「それでね、タリアお空の上に行きたいんだけど、さいごにどうしても見たい絵本があるの」


「絵本?」


「うん、ライラお姉ちゃんが毎晩読み聞かせてくれた大事な絵本。死んじゃってからこのお部屋には誰も来なくて。タリアね、絵本を読んでくれる人をずっと待ってたの。アーティお姉ちゃん、読み聞かせてくれる?」


「いいよ、どこにあるの?」


「ほんとに!? やったあ! こっち、こっちの棚にあるの!」


 少女が長い間ここへ留まっていた理由が分かり、希望を叶えてあげるため、アーティは絵本を読み聞かせてあげることにした。


 ――小さい頃ユーフィルにも寝る前によく絵本を読んで聞かせてたっけ。弟より私の方が先に寝てたこと多かったらしいけど。


 久しぶりの絵本の読み聞かせで、不意に昔を思い出して懐かしむアーティだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ