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第十七話 新たな仲間

「今他にできることがない以上、最上階へ行ってみるしかないかなー」


 フィオナからデコピンを受けたおでこをさすりながら、アーティは目の前にそびえ立つ塔を見上げて話す。


「さーて、それじゃあ行きますかー。フィオナ、ウィル、ついてきてねー」


 アーティは入り口の扉をゆっくり開け、一歩足を踏み入れて覗き込み内部の様子を確認する。ウィルが言っていた魔物の唸り声や姿形は確認されなかった。

 石造りの塔の中は天井が低く、ひんやりとした空気に満ちていた。湿った石の匂いとカビ臭さが混ざり合って少し鼻につく。


 暗さが気になり灯火魔法を発動させて灯りを確保すると、それをフィオナの肩の上にくっつける。


「この中薄暗いから歩く時気をつけてね」



 正直な話、私一人だけなら自分の身だけ守ればいいから余裕でサクサク進んでいける自信はある。だけど、もし万が一後ろからこの二人が襲撃された場合、ほんのすこーしだけど焦るかもしれない。とりあえず単体の結界魔法をフィオナにかけておこう。

 

 そう思いアーティは魔法を発動させようとした。


「ま、待って! アーティ!」


 突然後ろの入り口から声をかけられ振り向く。


「メーリック!? どうしたの。皆と帰ったんじゃなかった?」


「ア、アーティたちの力になりたくて自分も抜けてきたの! な、仲間にして欲しい!」


 僧侶職のメーリックの力があれば、フィオナだけではなくウィルにも結界魔法を使ってもらえる。そうすれば塔の攻略が格段に楽になる、そう考えたが、


「駄目だよメーリック。今戻れば皆に追いつけるから、ね」


「そ、そんなこと言わないで……」


 メーリックの目に涙が溜まり、今にもこぼれ落ちそうになっている。


「泣かないでーメーリックー。危険なことに巻き込みたくないからだよー」


 肩を震わせながら涙をこらえているメーリックにあわあわと焦るアーティ。


「アーティ、お願い……。一緒に……」


 メーリックは涙で潤んでいる眼差しで真剣に見つめてくる。そこへフィオナが近寄って行き、メーリックへ深々と頭を下げた。


「フィオナ?」


 メーリックに対して深くお辞儀をするフィオナの行動の意図が分からずアーティは混乱する。お辞儀を終え元の姿勢に戻ると、フィオナはアーティとメーリックの腕を掴んで握手を促してきた。


「フィオナ、もしかしてメーリックを仲間にってことなの?」


 アーティはフィオナに問いかけると、うんうんと言うように首を縦に2回振ってみせた。


 

 さっきメーリックへ頭を下げたのは感謝を伝える為だったんだ。言葉が話せないフィオナが自分の意思を伝えようと一生懸命頑張る姿がすっごい尊く感じる。

 

「メーリックの気持ちは分かったよ。力になりたいって言ってくれてありがとう。ただ、一つだけお願いしておきたいことがあるんだけど」


「な、何かな?」


「危なくなったら速攻逃げること。私たちのことは構わなくていい。メーリックは自分を大事にして。この約束、守れる?」


「わ、分かった。守るよ」


「ホントにー?」


「う、うん。ねむりの粉のストックあと5個くらいあるから大丈夫だよ。い、いざって時はこれ使って逃げるから」


 そう言い笑顔を見せるメーリックにアーティも表情を緩め、


「約束は絶対守ってね。それじゃメーリック、改めて仲間としてこれからよろしくね」


二人はにこやかに握手をするのだった。





「よしっ、これでメーリックにもしっかり結界魔法かかってるよ。時間制限はあるけど、効いてるうちはどんな攻撃も無効化になるから。便利な魔法だよねー」


「あ、ありがとうアーティ」


 メーリックが仲間に加わり、早速フィオナとウィルの二人に結界魔法をかけてもらう。アーティはメーリックに単体の結界魔法を使用したのだった。


「ア、アーティには結界魔法ないけど……」


「私? 私は魔王より強いから大丈夫大丈夫」


「ふふっ、な、何それ。ふふふっ」


 アーティの言葉を聞いて、冗談だと思いメーリックは小さい声で笑う。


「じゃあ行こうか。離れないようにね」


 やや早足でアーティは通路を進んで行く。自分以外の三人が結界魔法をかけてあることで、後ろの守りをそれほど気にしなくても良くなった。とはいえ、大事な仲間を守るためにも魔物の気配感知は怠らない。目視での状態把握も必要。突然の魔物の襲撃への備えなど、戦い慣れている戦士ですら精神的に疲弊せざるえない状況下であろう。だが、仲間と旅をするというシチュエーションに強い憧れを持っているアーティに不安感はなく、むしろ高揚感で胸が高鳴っていた。


「待って、何かいる」


 広めの通路を進んでいた時、アーティは暗闇の先に魔物特有の不快な気配を感じ、仲間たちに伝えた。


「メーリック、二人を連れてさっきの狭い通路で隠れてて」


 アーティの指示に従い、メーリックはフィオナとウィルを連れて行く。


「もしかしてウィルが見た魔物かなー?」


 角があってすごい大きくて凶暴そうな奴、震えながら涙声で喚いていたウィルの様子を思い出し、クスッと少しだけ声を出して笑う。視線は正面の暗闇から逸らさない。静かに長剣を抜き身構える。通路の所々から差し込む僅かな光がその姿を現した。

 頭部には角が生え、血走った赤い目、黒く逆立った体毛。奥から現れたのは大きな熊が更に巨大化した魔物だった。魔物はまだアーティに気付いていない。アーティは石畳の床を蹴り、勢いをつけて魔物に向かっていく。

 魔物の血走っている目が獲物を捉え威嚇の咆哮を上げる、本能に従うだけの知性の低い魔物の行動。だが、その行動を起こす前にアーティの長剣が魔物の心臓部を貫いていた。


 一撃で絶命した魔物から剣を引き抜き血を振り払う。倒れてくる魔物を避け、更に奥に潜んでいる魔物たちを仕留める為アーティは突進していった。





 メーリックたち三人はアーティに言われた通り、狭い通路の端で息を潜めてじっとしていた。


「ねえ、何かさっき通ってきた通路の方から唸り声が聞こえてくるんだけど……」


 最後尾のウィルが後ろを振り返り小声で伝えてきた。


「だ、大丈夫だよ、結界魔法の効果はまだ切れていないから」


 メーリックはそう言うも、唸り声がだんだんとこちらへ近づいてくることに気付き、恐怖心が強くなってくる。


「せ、聖女様たちは自分の後ろへいてください」


 まだ姿が見えない魔物から二人を守ろうとメーリックは前へ出た。


「だ、大丈夫大丈夫。アーティが結界魔法かけてくれてるし。い、いざとなったら攻撃魔法で……」


 自分を奮い立たせるようにメーリックは呟く。今まで魔物との戦闘時は常に後衛にいた為、自分から仲間の前に立つことはなかった。

 心臓の鼓動が速くなり、呼吸が浅くなっていく。背中に嫌な汗が伝わってくるのを感じた。


 ――危なくなったら速攻逃げること。


 不意にアーティとの約束を思い出す。


「聖女様方、やっぱりここは逃げましょう! アーティを追います! 走って!」


 魔物と戦うことはやめ、逃げることを選択したメーリックはフィオナとウィルの二人を促し一緒に走り出した。唸り声を発していた獣型の魔獣が獲物を逃がすまいと牙を剥き出しにして追いかけてくる。


「このままじゃ追いつかれちゃうよ!」

「二人はそのまま走って! 風魔法発動! お願い、当たって!」


 メーリックは振り返り立ち止まると風魔法を使い風の刃を放って遠距離から攻撃する。風の刃が鋭く光り、獣型の魔獣を切り裂いた。


「や、やった……」


 しかし風魔法でダメージを受けて地に伏した魔獣の後ろにもう一匹魔獣がいた。メーリックに向かって容赦なく飛びかかってくる。


「――っ!」


 やられる――、そう思った瞬間、目の前に見知った後ろ姿が現れ、魔獣に剣を突き刺していた。急所を突かれ力尽きた魔獣は重い音を立ててその場に倒れた。


「メーリック大丈夫!? どこも怪我してない!?」

「ア、アーティ……」


 メーリックはアーティを見て気が抜けたのか、まるで糸が切れたかのようにへたり込んでしまった。


「あはは、アーティが来てくれて安心したら力が抜けちゃった」


「心配したよー。でもごめんねー。三人には結界魔法がかかっているから大丈夫だと思って、この先の通路の魔物一掃してたら戻るの遅くなっちゃった。魔物、怖かったよね」


「し、正直すごく怖かった。けど、アーティのおかげで助かったからもう大丈夫」


「フィオナたちが走って来たから何事かとびっくりしちゃったよ。ありがとう、二人を守ってくれて」


「そ、そんなこと……。な、仲間だから」


 仲間と言われたことにアーティははにかんでしまう。


「もー、メーリックってばー。仲間なら次からちゃんと約束守ってねー」


「え? ま、守ったよ、アーティとの約束。あ、危なくなったら速攻逃げること、っていうの」


「あ、そっちも絶対だけど、自分を大事にしてっていう方もだよー。な、仲間に何かあったら嫌だからね」


「う、うん。分かった。が、頑張ってみるね」


 両手の拳を握り締めながら決意表明をするメーリックを見て、何だかフィオナに通じる可愛さがあると、アーティはひっそり思ってしまった。

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