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夢の番人  作者: 気儘瑠末
3/4

第三話『跳躍』

######################################


「...」


沈黙が場を支配する。

僕達の一挙手一投足が、彼の敵意に繋がるかもしれない、そんなことを思わせるほど威圧感のある目つきだった。


「お前...」


彼がそう一言呟く。


「ふーん、大体状況は掴めた。精々頑張れ」


そう言った彼は背中を向けてこの場を立ち去ろうとした。質問、疑問、頭の中がまた『?』で埋まる。

敵意はなさそうだ。なら、このまま会話を終わらせるわけにはいかない。


「ちょっとまって!君は誰?何が目的?何故ここに?」


問いかけの返事は無かった。そのまま彼は廊下の向こうへと姿を消してしまった。


「追うよ!走れる?」


女の子に問いかける。

困惑した様子だった彼女は、すぐに状況を理解して返事をした。


「はい!行きましょう!」


そう返されて安心し、前を振り向いたーー

瞬間だった。


「つカマえた」


ーーそう、歪な声が聞こえ、瞬時に後ろを振り向き直す。


気づかなかった、足音や気配も全く感じなかった。それに、振り向いた直後の出来事だ。


彼女の背後には、自分の中の常識の範疇を越えた、まさに未知の生物のような、得体の知れない『何か』が

存在していた。

普通の手足、女性と認識できる体つき、女の子と同じような制服姿ーー異常なのは頭部、本来人間が持つはずの顔、頭蓋骨、脳みそに位置するはずの場所が、『花弁』に置きかわっている。

それだけで十分過ぎるほどに異常存在だ、でも僕はそれ以外のことに恐怖していた。『自分は何もできない』という非力さにだ。



「その手を話せ!」


声を荒げる、当たり前だ、『花弁』は片手で彼女の首を軽々と持ち上げ、その命をまさに今搾り取ろうとしている。そんなことはあってはならないーー


「あ゛ぐっ」


彼女の顔が急な激痛に歪む。このままだとまずい、何度も言うが僕は元々非力だ、だから捕まらないように校内の各教室の位置や雰囲気など、細かなことをメモして立ち回ってきたはずだった。

だが結局はこの有り様だ。


冷静に、冷静に、冷静、冷静、冷静ーー


「手を離せぇ!」


考えるより先に体が動いていた。

無策ここに極まれり、相手は片手がフリー、このままだと確実に共倒れだ。


その時だった。


「それは悪手でしょ」


ーー周囲の空気感が変わる。

次の瞬間、視界を捉えたのは光だった。

一瞬でも、目を閉じたくなるような閃光が、目の前を走った。


ゴトッ、と花弁が地面に落ちる。


「もウ、おそイの、⬛︎⬛︎⬛︎もあナたも、おムカえ、よんだか、ぁ...」


ノイズだ。声帯があるのか無いのか、不可解だが、どういう原理か発音ができたらしい。数秒後、喋らなくなる。


ああ、花びらだけの割に結構重そうな音するんだな、そんな呑気な考えが頭に走るくらい、目の前の出来事に唖然としていた。


「ゲホッ、はぁ…はぁ…」


「助けてくれて、ありがとう…ございます…」


「よかったね、俺居て。あのままじゃお前ら死んでたよ。」


彼女が感謝した相手は、先ほどの青髪の少年だった。



======



「俺はそうだな...ここら一帯の支配者、番長...いいや、なんかしっくりこねぇな...そうだな、『番人』って奴だよ。

たまに現れるんだよ、ああいうふざけたツラした奴らがこの学校に蔓延るっていうから、退治しに来たわけ。俺はそれだけの存在。さっきはあのふざけたヤツが隠れてたから、わざと離れて出てくるのを待ってただけだよ」


「その、失礼ですが、君...いや、番人さんは超能力者か何かですか?」


僕達は廊下を歩きながら会話していた。女の子は喉の調子が戻るまであまり喋らないようにし、おんぶして移動している。


「超能力ねぇ、生まれた時からこういう役割だっただけ、別な特別なことも何にも無いーーお前みたいに弱くないもないしな」


一部始終を見てたからだろう、初対面の相手に対してかなり棘のある言葉が自分の心に刺さる。それはいい、と自分の心に納得させる。


「その、今屋上を目指してて、お願いです。少しの間だけ同行して貰えませんか?」


彼の強さなら、不足の事態が起きても対応できる強さを持ってるに違いない。そう考えた上での発言だった。


「嫌いだね、その考え方、この後に及んでまた他人任せかよ。それにさ、もう着いたぜ?屋上」


ぐうの根も出ない、そもそも彼女に協力すると言ったのは他でもないこの僕だ。彼が協力する謂れはない。

そして目の前、既にそこは屋上に出ることのできる扉があった。


「まあ、後ろの彼女のためなら少しくらいは協力してやるよ」


にやりと白い歯を見せて彼が放った一言は、今日一番心強かった。



======



学校の屋上は、これと言って特徴のない場所だった。

太陽光発電のパネル、よくわからない管が一部に張り巡らされているだけ。ただ少しだけ風が吹いていて、朝と変わらないどんよりとした曇り空、少し肌寒い。


「それで、聞いてなかったけど何探してんの?」


「大図書館だよ、きっとあそこにこの子の記憶の手掛かりがあるはず」


「ふーん、希望的観測だな、本当に大丈夫かよ」


そんな会話をしながら、辺りを見渡す。

背中の彼女が会話に入る。


「もう大丈夫です、歩けます。何度もすみません!」


よかった、と僕は心から安堵した。声も出せている。

移動に支障は無さそうだ。


「あの、番人さん、お兄さんも、一つだけわかった事があるんです」


記憶が一部戻ったのだろうか?どちらにせよ聞かない訳には行かない、図書館はまだ見当たらないが、彼女の話に耳を集中させる。


「あのお花、最後聞き取れなかったけど、何か言ってましたよね?きっとあれの正体は、私の『友達』だと思うんです」


「根拠は?」


『番人』が腕を組みながら問いかける。


「はい、お花が喋らなくなる直前、どうしても聞き取れない単語があったんです。でも直感的に『自分の名前』が呼ばれているんだろうなって、自然と...あと、同じ制服着てたから」


一見、根拠があやふやに聞こえる意見だ。しかし僕は、『番人』はその話に注意深く耳を傾けて一つ一つの考えをしっかりと咀嚼しているように見えた。案外優しいところもあるもんだな、と思う。

もちろん僕もその話を注意深く聞きながらメモを取る。


「なるほど、じゃあもしまた君と同じ制服を着ている人ーーいや、化け物を見かけたら、無力化して話を聞き出すべきだな」


僕はそのことに少し安堵していた。あの混乱状態だとしても、死体のような『それ』と似たものを増やすのは気が乗らない。

しかし、その僕の発言を聞いた途端、『番人』が嫌な顔をする。


「お前さ、無力化とか簡単に言ってくれるけど、誰がやると思ってるんだ、俺はやらねぇぞ。ああいうのは一刻も早く排除するべきだ」


「彼女の記憶を取り戻すために必要なことだよ」


「その方向性なら俺は降りるぜ、甘いんだよ。アレを生かしておいたら何が起こるかわからない」


両者にらみ合い、数秒沈黙の時間が流れる。

その会話を聞いていた彼女は、その静寂の時間を破る発言をするーー


「あの!私は!」


はずだった。


バン!!


大きな物音、一斉に3人の目は音の発生源ーー屋上の出入り口の扉に釘付けになる。

瞬間、後ろからの小さな物音。


「今度は聞き逃さなかったぁ!後ろ!」


振り向くと二体の怪物、またもや頭部だけが『モノ』に置き換わっている、テレビと、たまご。

僕の声に瞬時に反応した『番人』はすぐさま戦闘態勢に入る。


「チッ、数で攻めてきたか!」


『番人』は数発の攻撃を交わした後、返しの右ストレートをテレビの画面に突き刺す。

その反動の隙を見逃さないたまごは、上空からの攻撃を仕掛けた。とび膝蹴りだ。


「甘いなぁ!」


たまごに手をかざし、勢いよく腕を下に曲げる。直後、目と鼻の先まで来ていたたまごの足は、床に向かって垂直落下ーーたまごが割れて中身があふれ出す。


「ーーそうかぁ、結構簡単に壊れるんだな...」


聞き覚えのある声、メモを確認する、普段聞きなれない珍しい低音。あの時扉の向こうにいた男だ。

女の姿はない、どうやら別行動らしい。


「これ、まずいですよね」


女の子が呟く、理由は単純だ。

男の背後。


花弁、花弁、時計、テレビ、テレビ、羽毛、たまご、花弁ーー


ざっと20体程度だろうか、先程のカラフルな頭たちが並んでいる。先程居なかった時計や羽毛なども見える、ご丁寧に種類まで増やしてくれたらしい。


「はっはは!上等だおい。」


『番人』が不適に笑う。どうやら死力を尽くして彼らと戦うらしい。

でも、一目見てわかる、勝てない。

有象無象のカラフル頭はともかく、問題は真ん中で気だるそうに立っている男だ。


「君達さ、状況もっとよく見てよ。ここは屋上、逃げ場は何処にも無い、いわば袋のネズミだよね」


言葉づかいで分かる、かなり不機嫌らしい感情、先が見えてるかのような発言、気味が悪い。


「お前ら二人、そろそろ色々思い出してくんないと困るぜほんと...おまえ、ちょっとこっちこい」


『番人』が小さくつぶやいた後、僕ーーではなく、彼女のほうを向いて呼んだ。


「え?わ、わかりました」


僕は、この状況を理解しきれていない。

カラフル頭の大群、気怠そうな男、彼女を呼ぶ『番人』、

ーーそして、見つからない大図書館。

周囲をずっと見渡していた。しかし、図書館らしき建物はどこにも見当たらない。このままだと手がかりも、逃げ道もない。どうする?この状況を打破する方法は、何かないのか?


「おし、これで大丈夫、おまえにちょっと魔法をかけた」


『番人』が彼女の肩をトンッと叩く。


「魔法?魔法って何ですか?」


「いいか?俺は今からあいつらぼこすから、先に二人で図書館行ってろ、後で必ず合流する。それともう一つーー」


最後に『番人』が彼女に何か耳打ちする。


「はい!」


僕は二人の会話に耳を集中していた、何か打開策があるらしい。自分は完全に蚊帳の外だ。

ーーここでも僕は何もできないのか?


「はぁ、どうだ?話し合いはすんだか?もう帰ってきてくれ、楽になろう。」


「私はあなた達の言いなりにはならない」


不機嫌にため息をつく。男には彼女しか見えていないらしい。


「そのふざけた態度も発言も、全部まとめてぶっ壊す」


その発言を聞いて、男は今までにない感情を見せた。


「ガキが、潰す」


殺し合いが、今まさに始まろうとしている。それはだめだ、そんなことするべきではない。このままこの場に居たら確実にみんな死ぬ。それなのに、足が竦んで、動かない。


「お兄さん!行くよ!」


「え?」


最初は、彼女に手を引っ張られたと思った。行くってどこに?どうやって?

そんな疑問はとうに置き去りになっていた。




なぜならーー




「跳んでるぅぅ!!!??」


「やっほぉぉぉお!!!」


彼女が一歩踏み込んだと同時に、僕達二人は雲の上を突き抜けたのだ。


僕達は、『跳躍』した。


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