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夢の番人  作者: 気儘瑠末
1/4

第一話『目覚め』


#######################################


『夢』って、不思議ですよね。


深層意識が生み出した、ただのノイズなのか、脳の記憶の整理のためなのか、はたまた予知夢なる未来への啓示なのか。人間はことあるごとに、夢に意味を持たせようとする。この行為自体に、意味はあるのでしょうか。


そういう詳しいことは、専門家じゃない僕にはわからないんですけど、一つだけ、自分の中ではっきりしていることがあります。


“僕の夢は、見ることができない”


どういうこと?


そう、思いますよね。

でも大丈夫です。


今からとあるエピソードを話します。


きっとそれで、理解することができるはずです。


ーーそれじゃあ、おやすみなさい。



#######################################



ジーーーーー


目覚ましだろうか、けたたましく鳴り響くそれを止めようと、僕は手を伸ばす。


「おはよう」


誰も居ない部屋で呟いた一言が、一面コンクリートの壁に吸収されて、静寂が返事をする。

いつもの退屈な一日が始まる合図だ。窓の外から街を見下ろす、どんよりとした曇り空だ、いい天気とは言えない。


「今日は、部屋か...」


そんなことを呟きながら、僕は朝の支度を始める。

顔を洗う、歯を磨く、ヨーグルトを食べる、着替えて、ベランダと玄関の戸締り。

そこで、とある違和感に気づく。


「チェーンロック?」


普段部屋の中では1人で、チェーンロックなんてめんどくさいものはかけることも、今ままで掛けたこともなかった。

だというのに、内側からそれが掛かっている。

些細なことかもしれない、だけど僕は、それについてメモを書き始める。


「とりあえず、いつもの場所に行くか」


それらを終えた僕は、いつも通りの場所に足を運ぶ。


「どうしよう、行っちゃった...」


背後、息を殺した隠れていた、『その子』に気が付かずに。



======



大図書館、と言ったところだろうか、大きな大きなそれは僕が毎日通う暇つぶしの場所だ。そこには、膨大な量の知識が毎日新しく蓄えられている。綺麗に整理整頓された本棚があれば、幾重にも乱雑に本が置かれたスペースもある。そんな中で、目当ての物もなく気ままに歩き回り、ふと目についた本を見るのが僕の生きている中での趣味だ。


「今日は、何を読もうか、ん...?」


とある一つの本が、一段と目立って見えた。


「『強く生きる方法』?」


特に見たいジャンルもない僕は、特に生き方に困っているわけでもないにも関わらず、その本を手に取った。


「よくある自己啓発系かな」


そう呟き、本を開こうとしたその時だった。


「そこのお兄さん、ちょっといいかしら?」


振り向いた先には、30代くらいで長髪といった、特に特徴もないような女の人が立っていた。


「どうかしましたか?」


振り向きながら、僕はそう答えた。


「今ね、こう、小中学生くらいの女の子を探しているんですよ。ほら、この図書館広いじゃない?だからすぐ迷子になっちゃうんです」


「そうでしたか...すみません、見てないですね。お力になれずすみません」


礼儀は大切だ、一応頭を下げておく


「そんな頭まで下げなくても!こちらの問題なので...ほんと、お騒がせしました!ところで、お兄さんが持っているその本、少し見せてもらっていいですか?」


「ん、これですか?いいですよ、どうぞ」


持っていた本を手渡す。その瞬間女性の顔が少しだけ綻んだ気がした。


その状態のまま、女性は数秒固まった。


「あの...?」


「あら!すみません!その、この本少しだけ預かってもよろしいかしら?ちょっと興味があるのよね」


「別に大丈夫ですよ」


そのまま女性は背を向けて去っていった。

コツコツ、という足音だけが異様に響く図書館の中で、妙な胸騒ぎを覚えていた。


ーーまた、メモを取る。



======



結局なんの本も読まずに僕は図書館を出た。

借りればいいじゃないかという話だが、あの大図書館は外部に中の本を持ち出してはいけない、という決まりがある。それどころか、持ち出そうと思っても持ち出せないだろう。

そういう作りなのだ、あの図書館は。


帰路についた僕は、鍵を開けて玄関の扉を開ける。


ガチャン。


意識に反した出来事が起こる。

開けようとした扉が開かない。

正確には、チェーンロックが掛かっていて少し覗くくらいの隙間までしか開かない。出かける際掛けていなかった、なんて言わずもがな、僕はこの状況を丁寧に咀嚼していく。


「家の中に、誰かいる」


考えられる可能性はたった一つだ。強盗か、空き巣、はたまた勝手にチェーンが動いたか、などと能天気な考えは捨て、隙間を覗く。


「誰かいるのか!」


声を荒らげる、返事は無い。家にも入れない。どうしたものかと数分頭を抱えていると、扉の向こうからカチャカチャと音がし始める。


「誰だ!」


その隙を逃す訳には行かない、チェーンを外す音だ。

相手が刃物を持った大男だったとしても、こちらから仕掛けなければ襲いかかって来るだろう。

僕は、勢いよく扉を開けた。


「ひぃ!勝手に家に入ってごめんなさい!」


瞬間、詫る声が大声で鳴る。

目の前では、引き攣った顔で涙目になっている女の子が、申し訳なさそうに佇んで居るのだった。



======



「それで?君はどこの誰で、何のために不法侵入を?」


ショートヘアで制服姿、一目で学生だとわかる。

少し、服が汚れていた。こんなことをする子だ、かなりやんちゃなのだろうか。

僕は部屋の真ん中で、まるで事情聴取のような形でその彼女と対面した。

正座をして固まっている女の子にあまり責めるようなことはしたくない。

だけど彼女は立派な犯罪を犯したのだ、何か事情はあるのだろう、しかしそれは勝手に他人の家に入る理由にはならない。


「あ、あ、あの、逃げないといけなくて、それで、隠れてて、」


「ちょっと待って?誰から逃げてたの?」


「...」


「ーーわかった。話せるところからはなしてよ」


僕は自然と、彼女に寄り添うような言葉をかけていた。

目の前の彼女の姿に同情したわけではない。直前の考えに反して、自然とそうしなければならないと思った。

彼女はゆっくりと深呼吸して、数秒後、俯きながら話し出した。


「わからないんです。でも、なにか『怖いもの』が追いかけてきて、捕まっちゃいけないと思って、必死で逃げてたら、この部屋があって、勝手に隠れてました...ごめんなさい。」


「わからない...か、チェーンロックをかけたのも君?」


「はい」


大体の状況は飲み込めた。彼女の焦燥具合から嘘をついているとも思えない。

僕も鬼じゃない、その『怖いもの』が居なくなるまでは部屋にいればいい。


そう、言おうとしたときだった。


ピンポーン


玄関のチャイムだ、誰だろうか、家に訪ねてくるような親しい知人なんていない。

その答えを求めて立ち上がり、のぞき穴に吸い込まれるように向かっていく。


「だれかいるかしら?」


のぞき穴を見る寸前で、体が止まる。聞き覚えのある声だった。当然だ、数十分前に聞いた声だ。

なんだ、あの時のあの女性か、一体こんな所まで何の用だろう、そう思いドアノブに手をかける。


「どうして...?」


瞬間、背後から震えた声が聞こえる。と同時に僕は瞬時に考えを巡らせる。そして、ドアノブから手を放し、カギとチェーンロックを、音を立てないよう慎重に掛けた。


「あら?おかしいわね?ここに居るはずなのに?」


扉に向こうで、女の声が聞こえる。


「おいおい、本当に合ってるんだろうな?ここまで来るの、かなり大変だったぞ。」


続いて、低い男性の声。


おかしい、違和感だった。知らない男の声ももちろんうだし、この場所に一度にこんなに大勢に人が押し掛けるなんて。


ピンポーン


「この人たちがだれか、君は知ってる?」


ピンポーン


震えている女の子に質問を投げかける。返事はない、が、明らかに異常な反応を示しているのはわかる。


ピンポーン


「お母さん、お父さん、ごめんなさい、ごめんなさい。」


ピンポーン


偶然の一致か、質問に答えているわけではないだろううわごとのようなそれは、僕の疑問の1つを満たした。それが、僕の頭の中の危険信号を一層大きくした。


ピンポーン


ピンポーン


ピンポーン


「居るのはわかっているのよ?あなたの望んだことでしょう?だから、安心して出てきなさい」


セミの鳴き声のように鬱陶しいその音は、やがて胸に響く振動へと変わる。


ドン、ドン、ドン、ドン、ドンーー


ここに居たらまずい、僕は考えるより先に、女の子を半ば強引におんぶして窓の外から飛び出した。


今日は、厄日だ。男の声の存在とこの出来事を、脳内に焼き付ける。


メモしないとーー

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