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ハチと夏の大掃除 #9

風邪が治った翌朝、私はひんやりした麦茶を飲みながら、部屋をぐるりと見渡した。


「……やばい、荒れてる」


ゴミ箱のティッシュの山、脱ぎっぱなしの部屋着、読みかけの雑誌や通販の箱。

病中に放置された我が家は、すっかり“風邪のあと”の空気に満ちていた。


窓辺でいつものように微動だにせず佇んでいるハシビロコウのハチだけが、妙に清らかで、その静けさが逆に部屋の乱れを引き立てていた。


「よし、ハチ。今日は夏の大掃除だ!」


もちろん返事はない。でも、私の気迫を感じたのか、ハチは静かに片目を細めてこちらを見た。


午前中は部屋の掃除に集中した。

布団を干して、カーペットをめくって掃除機をかけ、雑巾で床を拭く。

家具の隙間から現れるホコリたちは、まるで夏の亡霊のよう。


ふと視線を感じて振り返ると、ハチが部屋の隅に立っていた。

その羽には、空気中のホコリがほんのり積もり、わずかにグレーがかって見える。


「……いや、掃除してないのにもうホコリかぶるって、どれだけ動かないのw」


笑ってしまいそうになったが、ホコリまみれのハチを見ると、なんだか申し訳なくなる。

「よし、次は外の掃除とハチの洗浄だ!」


庭に出てホースを手に取り、水の勢いを確かめる。

ついでに車も洗ってしまおうと、スポンジと洗剤を用意する。


「それー! 洗車洗車~!」


ホースで車の天井を流していたその時、不意に後ろに気配を感じた。


振り返ると、ハチがじっとこちらを見つめていた。

汚れた羽、うっすら積もったホコリ、そしてわずかに口元が緩んだような(気がする)表情。


「ハチも洗ってほしいの? ……なら、ちょっとだけね?」


私はホースの先をハチに向け、ノズルをキュッとひねった。


ビュッ!!!


しぶきが勢いよく飛び出し、ハチの胸元を直撃。


「わっ、冷たかった!? ごめんごめん、ちょっとふざけたw」


ハチは動じず、ただ静かにこちらを見つめ続けていた。

その無言の圧に、私のいたずら心がふつふつと再燃する。


「よーし、もう一発~!」


ビュッ! ビュビュッ!


軽く水を飛ばすと、ハチは羽をバサッと広げ、風圧で私に水滴を浴びせてきた。


「うわっ! ちょ、ちょっと!? 反撃!?」


その様子に思わず吹き出す。


「なにそのバードブレード、強すぎるって!」


ひとしきり水の応酬が終わったあと。

私もハチも、ぐったりと縁側に腰を下ろしていた。


びしょ濡れになった髪をタオルで拭きながら、私は隣のハチを見る。

彼はすっかりきれいになっていて、少しだけ涼しげな顔に見えた。


「ハチってさ、本気出したらめちゃくちゃ強いんじゃ……」


羽繕いをしているその背中に話しかけるが、返事はない。

ただ、ゆっくりと羽を畳み、目を細めるその仕草に、なんだか満足げな雰囲気が漂っていた。


「……いい夏の始まりになったかもね」


洗車も掃除も終わり、心も空気もすっきりと晴れ渡った一日だった。

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