隣人のおばあちゃんの悩み #4
ある日の午後、庭でのんびりと本を読んでいると、隣の家に住むおばあちゃんがやってきた。
「ユキちゃん、ちょっと相談があるんだけど……」
おばあちゃんはいつも野菜をおすそ分けしてくれる優しい人だ。その表情が今日はどこか曇っていて、私はすぐに本を閉じて立ち上がった。
「どうしたんですか?何か困ってるんですか?」
「うちの畑がね、最近鳥に荒らされちゃってね……せっかく育てた野菜がダメになっちゃうのよ。」
おばあちゃんは肩を落としながら畑の状況を説明してくれた。どうやら、近くの山からやってくる鳥たちが畑を荒らしているらしい。
「それは大変ですね……でも、鳥を追い払う方法なんてあるかな……?」
私は困りながらも考え込んだ。すると、そばにいたハチが静かにこちらを見ているのに気づく。
「……待てよ。」
私はハチを見ながら、あるアイデアを思いついた。
「おばあちゃん、大丈夫です。きっと何とかします!」
おばあちゃんは驚いた様子で私を見つめていたが、私は自信ありげに微笑んでみせた。ハチの存在が、この問題を解決する鍵になるに違いない、と直感的に感じていた。
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次の日、私はおばあちゃんの畑に向かった。ハチを肩に乗せながら。
「ハチ、今日は君に大事な役割があるんだからね。」
ハチは相変わらず無表情で、私の言葉に反応する様子もなかったが、それが彼の通常運転だと分かっている私は気にせず準備を始めた。
畑に着くと、広がる新鮮な野菜たちが目に入る。しかしその一部には、鳥に荒らされた跡が残っていた。おばあちゃんがため息をつきながら説明してくれる。
「昨日もね、鳥が何羽も飛んできて……。大声で追い払ったけど、すぐ戻ってきちゃうのよ。」
「なるほど……でも、大丈夫です。ハチがきっと何とかしてくれるはずです。」
私はそう言いながら、ハチを畑の真ん中に置いた。すると、ハチはいつものようにじっと動かず、その場で威厳たっぷりに立ち尽くしていた。
最初の数分間、何も起こらなかった。しかし、やがて山の方から鳥たちが飛んできた。野菜を狙う彼らが畑に降り立とうとしたその瞬間――
ハチがじっとその方向を見つめた。
たったそれだけだったのに、鳥たちは一瞬で警戒し、空中で方向を変えて逃げていく。
「えっ……これだけで……?」
私もおばあちゃんも驚いて目を見開いた。ハチはその場から一歩も動いていない。ただその存在感と鋭い視線だけで、鳥たちを追い払ってしまったのだ。
「ユキちゃん、すごいね!ハチくん、本当に頼りになるじゃない!」
おばあちゃんが嬉しそうに笑顔を見せる。その様子を見て、私もほっと胸をなでおろした。
「ハチ、やっぱり君ってすごいね。」
ハチは何も言わない。ただ、どこか誇らしげな雰囲気を漂わせているように見えた。
「これでおばあちゃんの畑も安心だね。また何かあったら、いつでも呼んでください。」
おばあちゃんは感謝の気持ちを込めて、たくさんの新鮮な野菜を私に持たせてくれた。その帰り道、ハチの存在の大きさを改めて感じながら、私は肩に乗る彼にそっと声をかけた。
「ハチ、今日は本当にお疲れさま。頼りになる相棒だよ。」
ハチは動かずに空を見上げていたが、その無表情の中にはどこか満足そうな空気が漂っていた。