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ぬいぐるみと怒りのハシビロコウ #3

スーパーに寄った帰り道、ふと視線の先にゲームセンターが目に入った。特に気にするつもりはなかったが、何気なく店内を覗いてみると――目に飛び込んできたのは、ハシビロコウの大きなぬいぐるみだった。


「えっ、これ……ハチそっくりじゃない?」


その存在感は圧倒的で、まるでハチ本人がそこにいるかのようだった。私は思わず足を止めて、ガラス越しにぬいぐるみを見つめた。


「車に乗せたら絶対かわいい……でも……」


腕時計を見ると、時刻は17:15を指している。ハチのご飯の時間はいつも17:30。今帰れば、ハチを待たせることなく済む。


「でも、ぬいぐるみ欲しいなあ……」


私は迷った。ハチのいつもの時間を守るべきか、それともこのチャンスを逃さずぬいぐるみをゲットするべきか。葛藤の末、私はゲームセンターの扉を開けた。


---


ぬいぐるみを取るのに思った以上に時間がかかり、家に着いたのは18:00を過ぎていた。急いで玄関を開けると――


「ハチ、ただいま!」


いつもなら微動だにしないハチが、その日は玄関に走ってきた。そして――


「わっ、ちょっ、ハチ!」


ハチは突然私の顔にかぶりついた。


「痛い痛い!ごめんってば!遅くなったのは悪かったけど!」


ハチはくちばしを離さない。明らかに怒っている。


「ほら、これ見て!」


私は急いでぬいぐるみを取り出してハチに見せた。その瞬間、ハチは動きを止めて、じっとぬいぐるみを見つめた。


「ね、ハチに似てるでしょ?これ、車に乗せたら可愛くなると思って取ってきたんだよ。」




ハチは少しの間ぬいぐるみを見つめた後、ようやくくちばしを離し、ぬいぐるみをくわえるとリビングの隅へ運んだ。そして、そのままぬいぐるみの横にじっと座り込む。




「もしかして、気に入ったの?」




私は少しホッとしながら、ハチがぬいぐるみを眺めている姿に思わず笑顔になった。


ハチの機嫌をなんとか直してもらった後、私はリビングで夕食の準備を始めた。リビングの一角には新しいぬいぐるみが置かれている。ハチはその隣でじっとしているけれど、視線は私の手元を追っていた。




「ご飯作るから、もう少しだけ待っててね。」




今日のメニューは、鮭のムニエルと野菜たっぷりのスープ。もちろんハチの分も特別に準備している。スーパーで買ってきた新鮮な小魚を綺麗に洗い、彼の専用のお皿に盛り付けた。




夕食の準備が整い、私はテーブルに料理を並べた。ハチの分のお皿を彼の目の前に置くと、じっと動かないままその魚を見つめていた。




「どうぞ、召し上がれ。」




しばらくすると、ハチはゆっくりと口ばしを動かし始め、小魚をつまむように食べ始めた。その仕草は相変わらず不器用だけど、どこか一生懸命で可愛らしい。




「美味しい?今日は奮発したんだからね。」




ハチは無表情なままだが、魚を一切れずつ丁寧に食べていく。彼の隣に置かれたぬいぐるみが、まるで一緒に食事を楽しんでいるように見えた。




夕食が終わり、私はキッチンで片付けをしている間、ハチはリビングの隅でぬいぐるみを見つめていた。




「ハチ、今日の夕食も満足してくれたかな?」




ハチは何も答えないけれど、その姿からはどこか穏やかな空気が漂っているように感じた。




ぬいぐるみを手に入れた特別な一日を思い返しながら、私は次の休みの日にどんな料理を作ってあげようかと考え始めていた。


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