自由研究と動かない被写体 #12
「うーん……何にしよう……」
夏休みのある日、私は台所のテーブルで頭を抱えていた。
子ども向けのテレビ番組で「自由研究特集!」をやっていて、なぜか私もやりたくなってしまったのだ。
「でも、大人の自由研究って、逆に難しいんだよね……」
そのとき、ふと視線を感じて振り返ると——
縁側で微動だにせず佇むハシビロコウのハチと目が合った。
「……ハチ、今日も動かないねぇ」
その姿を見て、私はひらめいた。
「ハチは1日でどれくらい動くのか?」をテーマに観察してみよう!
【準備物】
・ノート
・ストップウォッチ
・スマホ
・方眼紙
・観察用スケッチ道具
【観察スタート】
10:00……観察開始。静止。
10:35……右目のまばたき、1回。
12:15……首を5mm左に傾けた(たぶん)。
15:00……視線がカーテンに移った。
17:30……くちばしがカチッと鳴った。それだけ。
「うーん……データ、少なっ!」
ほとんどノートが埋まらず、逆に感動してしまう。
ここまで動かないのは、ある意味才能だと思う。
夕方、私は一日の観察記録をまとめていた。
「よし、タイトルは『動かないことの偉大さ』にしようっと」
そのときだった。
ズザッ
「……え?」
背後で何かが動いた気配。
振り返ると——
ハチが、羽をバッサァアァアア!!と広げて、いきなり全力ダッシュで庭を駆け抜けていた。
「ちょちょちょちょ!?!?なになになに!!?」
その目線の先には、落ちかけた夕日と……
冷蔵庫の上に置いていた“干しアジ”の袋。
「……なんでこのタイミングなのーーーっ!!」
私は観察ノートを落としながら叫んだ。
翌日。
自由研究の最後のページに、私はこう書き加えた。
「結論:観察対象は、観察が終わったときに全力を出す」
その下には、ノートをめくれんばかりの勢いで突っ走ったハチの足跡が、くっきりと残っていた。
おまけに、干しアジの袋の切れ端まで貼ってある。
「……もう、記録にならないよ」
私は苦笑しながらページを閉じた。
ふと顔を上げると、ハチは縁側のいつもの場所で、
まるで「何かあった?」とでも言いたげな顔で、静かに私を見ていた。
「今日は、動かないのね?」
ハチは、ほんの少しだけ目を細めた。
でも、それ以上はやっぱり動かない。
私はため息をつきながら、ノートを本棚にしまった。
でも心の中は、なんだかほんの少し、うれしかった。
「……また、観察してみようかな」




