カブトムシとハチの小さな事件 #11
「……あっつい……」
夕方になっても熱気が抜けきらない部屋の中。団扇であおぎながら、私はぼんやりと縁側で座っていた。
ふと、ハチを見ると、いつものように静かに庭の端でたたずんでいる。
「ねぇハチ、夜の虫取り、行ってみない?」
もちろん返事はない。でも、私にはわかる。あのじっとした姿勢は「行ってもいいよ」ってことだ(と思いたい)。
虫かごと懐中電灯、そして虫よけスプレーを持って、私はハチと一緒に近所の小さな雑木林へ出かけた。
夏の夜、虫たちの鳴き声が重なるように響いている。
私は木の幹をライトで照らしながら、カブトムシやクワガタを探して歩き回る。
「うーん、いないなぁ……どこ行ったの、カブトムシ……」
10分、20分……虫の気配はあるけれど、なかなか見つからない。
私は汗をぬぐいながら、そろそろ帰ろうか……と考え始めたその時だった。
「カタカタカタッ…カタカタカタッ!」
後ろから聞きなれた音が聞こえる。
振り返ると、ハチがびくびくしながら必死でクラッタリングしているではないか。
「え、ど、どしたの!? 怖い夢でも見た?」
近づいてみると、ハチの頭の上に——
「カブトムシ!!!!」
堂々と、つやつやした立派なカブトムシが止まっていた。
「ちょ、なんでそこに!? っていうか、ハチ!じっとして!じっとしてね!!」
私は笑いをこらえながら、そっと手を伸ばす。
ハチは震えるほどクラッタリングを続けているが、奇跡的に動かない。
「よしっ、ゲットォ!!」
虫かごにカブトムシを入れて、私はハチの頭を撫でる。
「ありがとね、ハチ。最高の虫取りパートナーだよ。……ちょっと怖かっただけだよね? ごめんごめん!」
ハチは無言でじっと私を見つめていたが、その目はどこか「理不尽だ……」と言いたげだった。
帰り道、小川のほとりを通ると、ふと何かがふわりと飛んだ。
「……ホタル?」
草むらの奥で、小さな光がいくつか舞っている。
私は思わず立ち止まり、ハチと一緒にその光景を見つめた。
「ねぇ……夏の夜って、いいね」
ハチは静かに、うなずいたような、うなずいてないような……とにかく、動かないけれど、そこにいた。
家に戻ると、縁側に座って麦茶を飲む。
虫かごの中で、カブトムシがゆっくりと動いていた。
ハチは少し距離をとりながら、それを警戒するように見ていた。
「明日には逃がそうね。……ハチ、次はクワガタ探し、付き合ってくれる?」
夏の夜、あの独特の空気が好きです。
昼間の喧騒が静まり、どこからともなく虫の声が響いて、
風鈴の音さえ遠くに感じるような時間。
今回の話では、そんな「静かな夏の時間」に、
ハシビロコウのハチがちょっとだけ“慌てる”瞬間を描いてみました。
普段は動かない彼が、頭の上のカブトムシにびっくりしてクラッタリング
想像するだけで、思わず笑ってしまいます。
それでも、最後には蛍を一緒に見て、
「動かないけれど、ちゃんとそこにいる」存在としてのハチが、
静かな温もりを添えてくれた気がします。
次は、クワガタ探しの夜??
また何か、ハチらしい騒動が起きるかもしれませんね。




